27 十五歳男子
「ルピ、夜に宿舎から出るときは、一人はだめだよ」
「もう!アルヴィンったらどうしちゃったの?お母さんでもそんなこと言わないよ」
わかってる。きっとキラの心の声はただの「願望」とか「妄想」みたいなものであって、実行には至らないであろうことは。彼女も《こんなこと考えちゃだめなんだけどな》と言っていたから。
心の中で何をどう思っていようが自由だ。本来は聞けないものを聞いてしまった僕が悪い。
それでもどうしても心配で、希望通りに夕食がカレーで喜んでいるルピに、忠告を続けてしまう。
「でも本当に一人だと危ないから…」
「だけど一人で抜け出さなきゃ、彼女にも会いに行けないじゃない」
僕の手からスプーンが落ちて、かちゃんと音を立てる。
「ルピ…彼女いるの?」
「いるよ。言ってなかったっけ?」
地獄の恋愛相関図にまた一人加わってしまう。キラに知られたらその彼女の身も危ないのではないだろうか。近くにキラがいないことを確認して、僕はほっとする。
僕はキラの心の声を読んでしまったことを、改めて深く深く後悔した。心を読まなければ、こんなに悩むこともなかったのに。頭痛がしてきて額を押さえている僕に、ルピは無邪気に続ける。
「頭を抱えるほど驚くこと?」
「あ…いや…ごめん、そうじゃなくて…」
「ルピの彼女って、ネリネだよな?厨房で働いてる黒髪の。こないだ夜に裏庭で会ってるとこ見たぜ。ひゅーひゅー」とセグが割り込んできて、にやりと笑う。
「もうやったのか?」
その言葉に、周りの候補生たちも一斉に前のめりになる。
「キスはしたよ」
「おおー!」と一帯が盛り上がり、口笛がなり、ヤジが飛び、「騒いないで食べな!」というジュリネ婆の声で一瞬だけ静まる。
けれどまた「キスの先は?」と誰かが聞く。ジュリネ婆への恐怖心より、好奇心のほうが強いのだ。
「それは、結婚するまでしない約束なんだ」
「おいおい!せっかく彼女がいるのにチキンすぎんだろ」
「そんなことない!お母さんもよく言ってるよ。結婚まで待つのは相手を大事にしている証拠で、待てない男は嫌われるって。ネリネもそれが嬉しいってさ」
確信めいたルピの言葉に、彼女がいたこともない候補生たちは、顔を見合わせた。
「つか、結婚まで待つってことは、アルヴィンはキスの先もやってるってこと?」
訓練兵たちの視線が一斉に僕に突き刺さる。
何を期待されているかは、痛いほどわかる。
十五歳の少年たちに交じっているけれど僕は二十一歳で、女王の夫だ。れっきとした既婚者。
十五歳の少年たちからすれば、僕たちは「当然やってる」はず。
《フレイアって意外に胸でかいからいいよなぁ》
人の妻をそんな目で見るな、デル。
《どこをどうしてどうやってんだよ?具体的に教えてくれよ、アルヴィン!》
教えられることなど何もない、セグ。
僕たちの間には何もないのだから。
キスすら、したのかどうかわからない人工呼吸未遂だけだ。
夜中に目が覚めたとき、ベッドの隅で遠慮がちに丸くなって寝息を立てているフレイアの頬に、そっと人差し指で触れるだけ。
それだけでどうしようもなく身体が熱くなって、それ以上は耐えられない。
時折フレイアが聞かせてくる妄想も、恥ずかしすぎて全部は聞けず、目を逸らすしかない。
《まずこうしてこうして…いや違うな?フレイアなら先にこうだろ?なあアルヴィン!!》
僕の肩を抱くセグが、鮮明な妄想を流し込んでくる。頼むからやめてくれ。
僕はかつてないほど高速でスプーンを動かし、大盛りのカレーを平らげた。
「…アルヴィン?」
「…妻のプライバシーもあるのでノーコメント。ご馳走様」
「うおおおおお!プライバシーでノーコメント!大人の余裕!」「肯定だろこれ!」「やってるな、絶対やってる!」という盛り上がりを背に、僕は寝室へと急ぐ。
妻のプライバシーもあるのでノーコメント、だって?
なんでそんなかっこつけてしまったんだ。恥ずかしすぎる。
一刻も早く落ち着きたい。




