24 贈り物
僕たちは並んで馬を走らせ、野宿してパチパチ鳴る火を囲んで、いろんな話をしながらアンデ城への帰り道を過ごした。
女王は小さい頃は花とドレスと手芸が好きだったこと。そして僕を助けるために、テムに戻ってから厳しい訓練を積んで戦場に出たこと。
恥ずかしがって現実の声では教えてくれなかったけど、僕に贈ってくれたハンカチに刺繍を施したのが女王自身だということは、心の声で聞いた。
この繊細な刺繍を施したのが、女王だったなんて。てっきり腕のいい針子に頼んだと思っていた。
僕はぎゅっとハンカチを握りしめる。
「このハンカチ…改めて本当にありがとう、フレイア」
《ふあああああああ!そのきゅっとする仕草なに可愛い!そしてタメ口&呼び捨てを頼んだのは自分だけど、まだ慣れん!心臓に悪いけどおかわりください》
「…ただのハンカチだ。そう何度も礼を言われるようなものではない」
「そんなことない。これから一生大切にするから」
《一生大切にする?それは私のことを!?いや落ち着け、これはハンカチの話。けれど私からのハンカチを一生大切にしてくれるなら、すなわち私のことを一生大事にしてくれることと同義である。今が人生のピークだから死んでもいい》
死なれたら困るので、慌てて僕は話題を変えたのだった。
ーーー
何かお返しがしたい。
彼女は何を喜んでくれるだろう。
「お返しをしたいが、何が欲しいか」とどきどきしながら聞いてはみたけれど、「その辺の石でいい」なんて言われてしまった。「いくらなんでもそれは嘘だろう」と思っていたら、心の声も《アルヴィンがくれるなら小石ひとつでも家宝》と同調していて、途方に暮れるしかない。
「石…」
さすがに本当に道端の小石を贈るわけにはいかない。だったら宝石だ。
カイからもらっていた給料があるから、小さな宝石くらいは買えるかもしれない。
食糧と水を調達するために立ち寄った街にちょうど市が立っていて、フレイアが馬たちの餌を探しに行った隙に、僕は小さな屋台に近寄った。
小さな石をつなげたブレスレットやネックレスが並んでいる。宝石の大きさを競い合う貴族たちが身につけるようなものではないが、洒落ている。
店主の女性がにこっと微笑んだ。
「いらっしゃいませ。どういったものをお探し?」
「つ、ま…へのプレゼントを」
《あらま可愛い、照れちゃって。新婚さんかしら》
「素敵ね。奥様へのプレゼントなら、これはどう?日常使いしやすいデザインよ」
僕は「あなたの瞳の色と同じでしょ?奥様はあなたがいつもそばにいるように感じられると思うわ」「きっと喜んでくれるわよ」と勧められるままにアメジストのブレスレットを選び、給料をすべてはたいたのだった。
「だけど、買ったはいいけど…」
よく考えてみたら、僕の瞳の色の宝石だなんて、含む意味が深すぎはしないだろうか。小さな石のブレスレットなのに、手の中でずっしり重く感じられる。
赤か緑の宝石に交換してもらおうかと悩んでいるうちに、フレイアが戻ってきてしまった。
「待たせたな」
「ううん」
「すぐ出よう。急げば日暮れまでに次の町に…ん?何か買ったのか?」
「…うん、その…」
いつか渡すんだから、今渡さないと。
彼女の顔を見ないまま、僕は店主がきれいに包んでくれたブレスレットを「これをフレイアに」と差し出した。
「…開けるぞ」
「どうぞ」
喜んでくれるだろうか。
「その辺の石でいいといったはずだ」と、地面に叩きつけたりしないだろうか。
それにわざわざアメジストだなんて、どう思われるだろう。
妻にプレゼントを贈る…たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに鼓動が速くなるのだろう。
しゃらり、とブレスレットが日の目を見た音がする。
怖いけど、彼女がどんな顔をしているのか見たい。
彼女は緑の目を見開いていた。
《まさかの…アメジスト…だと!?》
「その…っ!深い意味はなくて…ただ、きれいだと思って、似合うだろうなって思って…その…」
《深い意味なんてなくたって、アルヴィンからアメジストを贈ってもらえるだなんて。嬉しさのあまり語彙が全て消失したようですさようなら語彙たち…》
「ふん」
《嬉しすぎて泣くことも不可。でもこれだけは言える。一生外さない》
「まあ、つけておいてやる」
「…あ、ありがとう」
フレイアは何でもないようにブレスレットを左の手首に巻いて、そうっと撫でた。そして決心したように口を開く。
「私からも渡すものがあるんだ」




