22 兄貴からの公認
「フレイア、まさか照れてんのか?皇子に抱き着かれて?」
「うるせえ、馬鹿カイ!」
カイはにやりとして僕を押しのけて、女王に後ろから抱き着いた。
「俺ならどうだ?おらおら」
女王はすぐさま身体を入れ替えて、逆にカイを抱えて彼を持ち上げ、反り返って頭から彼を地面に叩きつける。
「バックドロップとかふざけんな」
「お前がふざけんな」
カイは地面に胡坐をかいた。
「本当に好きなんだな、皇子のこと」
「そうだけど改まって言うな!しかも本人の前で!恥ずいだろうが!」
「いやお前、さっき自分で全部言ってたし。命の恩人とか初恋とか最愛とかよ」
「…!」
「ウエスパシアでの人質期間が終わってから、百八十度性格が変わったのもそのせいか。キラキラプリンセスに憧れる女の子だったのに武闘派になっちまって。ウエスパシアへの恨みのせいかと思ったが、皇子を連れてくるためだったんだな」とカイが独りごちた。
「だから本人の前で言うなって」と女王の顔が真っ赤になって、目が潤んでくる。途端にカイが狼狽え始めた。
「おっ…おいおい、泣いてんのか!?」
女王は目を伏せた。
「頼むから泣くなよ。皇子は返してやるから」
カイは完全に「大切な妹を泣かせてしまい、何とか機嫌を取ろうとする兄」だ。けれどそれでは、何の解決にもならない。
「しかしアレイル卿、僕が戻ったら女王の立場が悪くなるのでは」
《ここへ来て、まだフレイアの心配か。こいつも相当だな》
「大丈夫だ。俺が結婚を認めたって宣言してやる」
その一言に、女王がピクリと反応した。
「俺が賛成すりゃ、ケルツ族のジジイどもも簡単には反対できねえだろう。あいつら、軍役とか財政とかでけっこう俺に頼ってっから」
「足りない」と女王が顔を上げた。泣いていたはずの目はらんらんと光っている。
「アルヴィンがカイをぶっ倒して逃げたことにしろ」
「は?俺がこのひょろひょろに負けたことにしろって?無理があんだろ」
「関係ねえ。じゃないと一生お前と喋らねえ」
「…っ!」
このままではカイが女王に折れてしまいそうだが、それはすべきではない。
「だめです、陛下」
「お前は黙ってろ」
「いいえ、だめです。テム随一の武人であるアレイル卿の誇りを傷つけるような嘘はいけません」
女王の目が僕を射すくめる。けれど怖くはない。彼女の心には、僕への愛があるのだとわかっているから。
《だけど今のままじゃアルヴィンはずっと肩身が狭いじゃない。あなたが気持ちよく暮らしていくために、使えるものはなんだって使うべきなんだよ。カイのプライドとか屁より軽いし》
「…正直言って、僕がアレイル卿に勝ったなど誰も信じないでしょう。せいぜい僕が卑怯な手を使って逃げ出したと思われる程度です。テムでも卑怯者は軽蔑されると思いますが」
「それはそうだが、今のままではお前が…!」
「ああ!しゃらくせえ!」とカイが割り込んだ。
「こうしよう。俺が旦那を見込んで稽古つけてた、ってな」
「それも嘘では…?」
「嘘じゃねえ」
《しょうがねえ、旦那を認めるさ。根性あるし、冷静だし、礼儀も道理もわきまえてるからな。暴走しがちなフレイアの旦那には適任だろうよ。悔しいから言ってやんねえけど》
認めてくれた。言ってくれないけど。嬉しい。
「ここで肉体労働してたわけだし、身体が鍛えられたのは嘘じゃないだろ」
「それは…はい」
僕はまた少し太くなった自分の腕に目をやった。
「決まりだ。それでも文句が出たら、俺が出張ってやる。馬を一頭やるから、もう二人で帰れ」
《私が行くわ!》とナビがいなないた。
ーーー
帰り道、女王とは目が合わなくて、会話もない。
彼女が心の中とカイの上でまくし立てていた気持ちについて、もう一度ちゃんと聞いてみたいのに、自分から聞く勇気が出ない。
《聞きたいことがあるなら聞きなさいよ。あんたたち夫婦なんでしょ?》と、ナビが促してくる。《僕もそう思う》と、ローグがちらりと僕を見た。
《あらハンサムさん、私たちって気が合うわね》とナビがローグとの距離を勝手につめた。女王がその動きに気付く。
《近っ!?なに…?》
「なんだ」




