21 陛下、本音が出ています
「フレイア!?ここで何してる!」
カイだ。
「決まってんだろ。こいつを連れ戻しに来たんだよ」
「なんでここにいるってわかった」
「お前が来てすぐに消えたんだ。疑わしすぎんだろ」
「なっ…」
カイの黒い目が僕を睨む。
《辛くなったから去るって置き手紙を書いとけって言ったのに、書かなかったのか》
いや、手紙は確かに書いた。書いて寝室のわかりやすい場所に置いてきたのに、どうして。女王は気づかなかったのだろうか。
「置き手紙はあったが、”信じるな”と私に助言した奴がいてな。こんなちっこい騎士候補生なんだが」
ルピだ。
「アルヴィンは辛いってだけで投げ出すような奴じゃないと言ってたよ。他の候補生とひと悶着あったことも聞いたが、だからといって諦めて逃げるような奴じゃないってな」
《そうだよ。アルヴィンは毎日座学の教材に埋もれて寝落ちするくらいに頑張ってたんだもん。逃げるわけない…とすれば、怪しいのはカイしかいなかった》
「カイ、これ以上邪魔するなら殺す」
そう言って女王は剣を抜いた。カイも腰の剣を抜く。
「望むところだ。俺もこれは譲れねえ。皇子がお前の傍にいても、いいこたねえ」
「るせぇ。誰をそばに置こうが誰と結婚しようが、私の勝手だろ」
二人が出す殺気で、ビリビリと空気が震える。
《まあ、野蛮だこと。もらい事故はごめんよ》とナビが後ずさる。
僕だって足がすくむけど、このままじゃだめだ。
「待ってください、二人とも!」
僕は二人の間に飛び出した。
「陛下!アレイル卿は心底陛下のことを心配しておられます!今回のことは陛下を思えばこそです」
それにカイは僕を殺さず、わざわざここに連れてきて生かしてくれた。情の厚い人でもある。
「彼を失うことは、陛下とテム王国にとって計り知れない損失です。どうか剣をお収めください」
《はあ?カイを庇うの?こんなガサツな男をなんで?この短い間に、なんでそんな仲良くなっちゃってるわけ?私との距離は全然縮まらないくせに納得いかないんだけど》
怒りの方向が間違っている気がするが、殺気は落ち着いた。
僕はカイにも向き直った。
「アレイル卿もどうか剣を収めてください。女王陛下のためにここまでしたのに、ここで彼女を傷つけては意味がありません。陛下はあなたにとって、妹のように大切な存在なのでしょう?」
《はあ?確かにそうだが、そんなこっ恥ずかしいこと本人の前で言ってくれんなよ!》
カイの顔が真っ赤になって、こちらも殺気が消えた。
「だが納得はできねえ。なんでこの皇子にこだわる?確かに酒樽に詰められて移動しても弱音ひとつ吐かねえくらいの根性はあるし、馬の扱いが上手くて厩舎係の仕事も期待以上にこなしてる。だけど、なんでだ?」
「アルヴィンを…酒樽に詰めただと…!?」
「陛下、話のポイントはそこではありません」ととりなそうとしたときに、女王は目にも止まらぬ速さでカイと距離を詰め、強烈なパンチを食らわせた。カイの身体が厩舎の外まで吹き飛ぶ。地面に叩きつけられた衝撃で、砂がもうもうと立つ。
これが馬車の壁を砕いた拳…
感心している場合ではない。カイは死んだのではないだろうか。駆け寄ろうとすると、彼は「相変わらず馬鹿力」と言いながら体を起こした。この人の身体は、一体どうなっているのか。
「命の恩人で、初恋で最愛の人になんてことしてくれんだ!」
一瞬、空気が止まる。
「十一年も片思いして血反吐吐く思いで戦場を駆けずり回って女王として認められて、みんなが納得する大義を用意してウエスパシアを攻めて、ようやく手に入れたんだぞ!そのアルヴィンを・・酒樽に詰めただと…!?」
陛下、隠すはずの本音が、怒りのあまりすべて出ています。
「命の恩人…?」
「そうだよ!アルヴィンがいなきゃ、私はウエスパシアでいびられて死んでたんだ。ここに帰ってくることすらできなかった」
「だからカイ、やっぱりお前は死ね!」と、女王はカイに馬乗りになって拳を振り上げる。
「だめです、陛下!」
僕は後ろから女王の腰に手を回す。引きはがさないと、カイが死ぬ。
《…あえ?これってバックハグ?全女子憧れだけど現実ではほぼ観測不能な幻レベルのやつですよねこれ…?あああああああ!》
女王の身体が急に力が抜けて、僕はあっけなく女王をカイから引きはがすことに成功したのだった。




