83 もう一度デジャ・ヴ
昼休み。
七瀬様のご協力を約束された俺達は、七瀬様の先導に従うポチとしてその背を追っていた。
昨日同様、人間学群生ご用達の二食に足を踏み入れた俺達。しかしその先に待っていたのは、昨日のブサイク共とは比べるべくもない相手だった。
「あれ? 久しぶりー」
ひらひらと手を振って俺達を迎えたのは、まさにエンジェル!
「「お久しぶりですっ!」」
思わぬエンジェルチャンスに俺達の鼓動と声が高鳴る。
「ま、こういうこと」
頭がハッピーセット過ぎてどういうことかわからんが、幸せな時間をありがとう。と思った後、エンジェルはやどかり祭実行委員会のみならず、学類でも先輩なまさにエンジェルだと思い出す。
「色々教えてもらうんだから、あんた達お金出しなさいよね」
え? エンジェルにいいよ、ここは俺が出すよできるなんてこれなんてご褒美?
「いいよ、後輩に出してもらうのもあれだし。むしろお疲れさまってことでやどかり祭お疲れ様ってことでここは私が出すよ」
エ、エンジェッル!? エンジェルにここは私が出すわしてもらえるなんてこれなんてご褒美? ではあるけど、
「いえ、それは」
「マーサ先輩に奢って貰うなんて」
「そうです。自分で出します」
流石に申し訳なくて、俺達は慌てる。
「いーからいーから。バイト代も入ったばっかりだし、たかが学食だし気にしないで」
言いながらエンジェルは席を立って、カウンターに向かい始める。
「先輩、うれしいですけど、あんまりこいつら甘やかさないでください」
武士の苦言だが、正直言葉もない。
「可愛い委員会の後輩だしね」
しかし、エンジェルの頼れる背中に俺は胸をトゥクンと高鳴らせるのだった。
「で、期末試験でしょ?」
全員でいただきますしたところで、エンジェルが早速切り出す。
「はい、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
七瀬が武士らしく折り目正しく頭を下げたので、俺達もそれに倣う。
「そんな堅苦しくしなくていいって。大したことしてるわけじゃないし」
エンジェルはひらひら手を振って、その手でトートバックの中からプリントの入ったクリアファイルを四つ取り出す。
「とりあえず去年の試験問題のコピー持ってきたから」
「「ありがとうございます」」
マジでエンジェル!?
「すいません。細谷達の分も急いで準備してくれたんですか?」
感激のあまり言葉もない俺達に代わって、七瀬が恐縮して問う。確かに俺達の同伴は一講義前に決まったばかりだ。
「違う違う。元から渡してもらうつもりで四人分準備してたから手間省けて良かったわ」
マジでエンジェッル!
「ありがとうございますっ!」
滂沱と涙を流しながら俺達は感謝感激を言葉にする。
「だからいいって。ほら、食べながらにしよ」
苦笑しながら、エンジェルは栄養定食を口にする。栄養士監修というそれは名前の通りに栄養素が計算された一人暮らし大学生にピッタリなメニューらしく、天界の住人たるエンジェルに相応しきメニューであるのだが俺にはヘルシーに過ぎる。
そんな俺達はいつも通りカレーの大盛を頼もうと思ったのだが、いつもそんなの食べてるんでしょ、遠慮しないでというエンジェル託宣に甘え、チキンガーリックソテー定食だ。肉とにんにく。まさに男子大学生の味方たる絶対正義定食である。
「心理学史、社会心理学は例年試験問題同じだから、過去問の丸暗記でほぼ満点取れるわよ」
なんですとっ!?
食事の合間のエンジェル天啓に俺はマガジンマークを頭上乱舞させる。
「心理学概論、教育学概論、障害学概論辺りも多少は変わるけど大筋は変わらない。他は結構変わったりするけど、作ってる教授は同じだから傾向まで大きく変わらないから過去問は見といて損はないわ」
なんと……。俺は天の落とし物たるエンジェルファイルを凝視する。
「過去問の右隅に赤マーカー引いてあるのが例年同じ試験問題、青マーカーはほとんど変わらない試験問題、何もしてないのは結構変わるやつね。必要ならノートも貸すから言ってね」
エンジェルファイルはアカシックレコード。
その世界の根源たる情報が俺達に差し出される。伸ばす手が感激に打ち震える。禁断の果実を手にしようとしたアダムとイブもこうして身を震わせたに違いない。
サッ。
「あれ?」
しかし、俺達の手が届きそうになったところで、エンジェルがすっとファイルを横に避けてしまう。不思議顔でエンジェルを見れば、その表情はエンジェルたる笑顔。ふむ。
スッ。サッ。スッ。サッ。
はははっ、こやつめ。これがお座敷遊びってやつかな?
「で、代わりと言ってはなんだけど」
エンジェルとの戯れを楽しむ俺達にエンジェルは語り掛ける。
「サークル活動に興味ないかな?」
……あれ? デジャヴュかな?
懐かしい感慨に襲われる俺達に、エンジェルは交換条件を持ちかけるのだった。
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