80 人間追い詰められてからが本気の出しどころ
キーンコーンカーンコーン。
「それでは、来週は試験です。四十点以下は不可とするからそのつもりで臨むように」
教授はそんな捨て台詞を最後に、講義室を後にする。
残された俺と八代は、
「「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……ッ」」
両手で頭を抱え込み、ガタガタと貧乏ゆすりをしながらヤバイをゲシュタルト崩壊させる。
「どうしたんだ二人とも。そんなに頭を抱えて」
白々しさマックス。ブサメンが声をかけてくる。
「キサマラ。シケンヲドウスルツモリダ」
呪いの声で俺は問いかける。
「ふっ、俺がどうにかできるとでも」
ああ、脳筋。こんなゴリラには聞くだけ無駄だったか。
「ふっ、そんなもの決まってる」
自信満々なブサメン。クッ、こいつまさか。
「できる奴に土下座して、ノートを見せてもらう。もしくは隣に座ってもらう。これしかあるまい」
一瞬でも、こいつらができると思った愚かな自分を叱ってやりたい。
「つまり、俺達は同志というわけだな」
俺はスッと手を差し出す。
「全員で協力してこの難局を乗り切ろうじゃないか」
俺の手の甲に、八代が手を重ねる。
「ワンフォーオール。オールフォアワン」
でかいゴリラの手も重なる。
「三人寄れば文殊の知恵と言う。ならば五人もよれば単位如きものの敵でもあるまい」
ブサメンも手を重ねる。
仲間と見つめ合い、照れくささに俺達ははにかんだ。
しかし、そこで気付く。一人足りない。
周囲を見渡して、少し離れたところで帰り支度をしている背中を見つける。
「どうしたモヤシ。そんなところで一人でいないでこっちに来いよ」
優しい俺は寂しいぼっちに声をかけてやる。
「勝手に仲間扱いしないで欲しいな」
しかし、当の本人はまさかの嘲笑にも似た笑みを浮かべた。
「「「「なにぃ!?」」」」
想定外の返答に、俺達は驚愕の声を上げる。
「講義をさぼったり、寝ていたバカな君達と違って、僕はちゃんと必要な勉強はしてるんだ。今更慌ててる君達みたいなおバカさん達と一緒にしないでほしいな」
「な、なんだと」
俺は怖れに身を仰け反らせ、声を震わせる。
「そういえば、あいつ、講義中に板書を書き写していたような」
「ところどころ頭良さそうな発言もしていたが、まさかただの中二病患者じゃなかったのか」
信じがたい事態に、ざわざわと俺達は情報を整理する。
「僕達は大学生。つまり学生なんだよ? 君達は一体何のために高い学費を払ってまで大学に来てると思ってるの?」
「「「「グゥッ!?」」」」
こ、こいつバカげたことを抜かしおって!
ふざけた口をグーパンで黙らせてやりたいところだが、今はマズい。
「ということで僕のことはお構いなく。バカな生き物達はバカ同士で勝手にどうぞ」
捨て台詞を残して、モヤシは俺達に背を向ける。
「ま、待て!」
いち早く反応したゴリラが、ガッとモヤシの軟い肩を掴む。
マイエンジェルのやどかり祭実行委員会勧誘ハニートラップを野生の勘のみで回避した類人猿だ。ここでこのモヤシを逃がしてはならないと誰よりも早く感付いたらしい。
「放してよ脳みそ筋肉。僕は早く帰って試験範囲の確認をしなきゃいけないんだ」
「まあ、そう言うなよ」
モヤシの悪口にもゴリラはフレンドリーな笑みを崩さない。
「まったくだ」
「俺達は友達じゃないか」
俺と八代も至上の笑顔で擦り寄る。
「バカ言わないでよ。友達って対等な関係を言うものでしょ」
「もちろん対等さ。だから共に頑張ろうじゃないか」
ブサメンもモヤシを逃がさまいと手を差し出す。
「……はー」
モヤシはブサメンの手を見下ろし、呆れたように溜息を吐いてから俺と八代を見た。
「バカ二人。そもそも友達というのなら僕の名前を知ってる?」
「「グッ!?」」
こ、こいつ! なんて卑劣なっ!
「ふ……」
八代!? まさか知っているというのか?
「藤〇直人」
思わず吹き出しそうになるが、口を手で覆い、腹に力を入れて堪える。ナイスだ、八代! ここで元もやしっ子イケメン俳優を持ってくるとは。
「お話にならないね」
だというのに、モヤシは両手をすくめてやれやれと首を振る。
お前が似ても似つかないのなんてこっちも承知でおだててれば調子に乗りやがって! 細い首にチョップの一つでも叩き込んでやりたいが、今はグッと我慢の子だ。
「どちらかがどちらかに寄りかかる関係なんて不健全だよ。いい大人同士、お互いに頑張ろうじゃない。ということで手を放してもらえるかな? 早くしないと昼休みが終わっちゃうよ」
モヤシはゴリラの手を冷たく見下げる。
「待て、モヤシ。それは間違いだ」
切れ味鋭く、ブサメン金髪が制止する。
「人という字はな、人が人に寄りかかることでできてるんだよっ!」
「……お前」
ゴリラが声を漏らす。
「いいこと言うじゃねえか!」
「前からお前は言う奴だと思ってたぜ!」
八代と俺はブサメンのいつにないグッジョブ発言に、そこにしびれる憧れるモブの如く腕を振り乱す。
「うわー」
だというのに、モヤシは何が不満なのかドン引きだ。お前には今のセリフの奥深さがわからないというのか。
それでも俺達の誠意が届いたのか、ようやく折れるようにモヤシは深く息を吐きだした。
「そこまで言うならサービスしてあげてもいいけど」
「流石、御モヤシ様」
「よっ! 御大将!」
太っ腹モヤシの気が変わらないよう、全力でヨイショする。
「ところで君達はサービス業というものを知ってるかい?」
と、唐突にモヤシはそんなことを言ってくる。
「第三次産業に分類される産業だ」
怪訝に見返す俺達にモヤシはもったいぶった言い回し。
クッ。ここぞとばかりに博識ぶってきやがる。
「産業っていうことは、要するに仕事。仕事に対しては相応の対価が支払われるのが資本主義社会ってものだよね」
「「グッ!」」
ブサメンとゴリラがなぜか怯む。
「そうか?」
「労働って強制されて無償でするものじゃないのか?」
俺と八代はモヤシの労働観が理解できずに首を捻る。
そんな俺達をブサイク三人組は信じられないものを見るような驚愕面で見返してきた。なんだ、失礼な奴らだな。
「ブラック社畜の馬鹿二人は置いておくとして、言いたいことはわかるね? 一人当たり、コピー一ページ百円。それで手を打つとしよう」
「「「「き、貴様ァ!」」」」
財閥もびっくりな資本主義の権化に俺達は悲鳴を上げる。
「君達が遊んだり、サボってる間に僕が生み出した知的財産だから当然の報酬だよね」
キャンパスバッグを叩いて、モヤシは貧相な面を醜く歪める。
「嫌ならいいんだよ、嫌なら。別に僕は困らないからね」
「「「「グギギギッ」」」」
「それじゃあ、対価を払う気になったら声掛けてね」
歯を噛み締める俺達を後に、モヤシは悠然と講義室を後にするのだった。
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