74 後夜祭。そして
PM8:30 やどかり祭ステージ裏
屋台企画は終了し、残すところは後夜祭のみ。その会場である本ステージはボルテージも最高潮。
圧倒的な熱量がここ、ステージの裏側からでも感じ取れる。
「ステージで使ったもう不要な机椅子を片付けるぞ」
ステージに配慮して落とした筋肉先輩の声が、ステージの音にかき消されて聞こえない。
お前ら盛り上がってるかー!? ……盛り上がってそうですね。
羨ま涙するものの、そんな暇はなし。お姉ちゃん先輩の机椅子指差し、運び出すジェスチャーに倣い、机椅子を持って先輩方に続く。マザー可愛い。
「いやー、盛り上がってるな!」
「ああ、今年も大成功だ!」
巨漢先輩タッグはご満悦に呵々大笑。
「ここまで来ると今年もやったなーって感じるわね」
「楽しかったね」
エンジェルズ先輩の輝く笑顔は極上です☆彡 あと、くたびれた感じがエロ……グフッ(セルフ制裁パンチ)。
「やったですー!」
小さい体で一所懸命机を運ぶゆずちゃんは健気だなぁ。
「で、あんたらはどうしたのよ?」
あ、武士、突っ込んできます?
「やっぞーう」
「おおー」
なけなしの元気で俺達はやる気を表明。
「どうしたどうした?」
「元気が足りんな」
巨漢先輩タッグは不思議そうに俺達を覗き込んでくる。
「いえ、ちょっと疲れてるだけです」
「なんでもありません」
やってやった。やりきった。その感触は確かに沸き上がりつつある。しかし、まだすべては終わってないし、何より。
楽しみたかった。大学初の学内祭デビュー。
戯れたかった。女子率六割・学類イベント。
見だかった。全男子垂涎のミスゴン。
口には出せない、手折られた俺達の願望・欲望。それが俺達の素直な喜びの邪魔をする。
欲望ゆえに人は苦しまねばならぬ。欲望ゆえに人は悲しまねばならぬ。こんなに悲しいのなら、こんなに苦しいのなら!
……それでも、僕は欲望を捨てきれない。だって、人間だもの。
「ねえ、見てみて?」
マーサ先輩が腕を上げる。そのしなやかな腕先の嫋やかな指先。それをすっと伸ばして、示す先。
目で追ってみれば、俺達が羨ましくて仕方ないと思ってた祭りを全力で楽しむ観客。オーマイガッ!
「楽しそうでしょ?」
……ええ、ええっ。嫉妬の炎でこの身、焦がれそうなほどに。
「私達が作り上げた祭りで、あんなに笑ってくれてるんだよ?」
マーサ先輩の言葉に、ハッと俯いた顔が上がった。
「それって、凄いことだと思わない?」
ニッと笑うマーサ先輩はやっぱりエンジェルで、でも天使というにはあまりに人間らしすぎる魅力に満ち満ちていた。
「「そうですね」」
やっぱりダサメンと俺は被って、そのことにか、マーサ先輩の言葉にか、俺達はふっと笑った。
『それでは続いて神輿の表彰です!』
何の悪戯か。折よくそんな司会の声が聞こえてくる。
というか司会、Aと猿じゃね? 本企、地産地消かよ。しかも華無えし。チェンジ、キボンヌ。
「おっ! タイミングが良かったな。聞いていくとするか」
肉だるま先輩が嬉し気に机を置き、手を叩く。
「そうだな。後輩の頑張りの成果を聞いていくとしよう」
筋肉先輩も同様にしたことで、全員が手の机椅子を置いて、その場に留まる。
三位から表彰ラインらしく、まず第三位が発表される。
芸術系サークル連合会。
呼ばれなかったことにほっとすると同時に不安も募る。というかそうか。芸術専攻学群関係の団体もあるのか。それは盲点であり、怖くもある。芸術系サークル連合の代表と思わしき男子がステージ上でトロフィーを受け取る。
続いて二位。芸術専門学群。……いや、芸専関係強すぎだろ!
なんか緊張で喉乾いてきた。とか思ってたら、ゆずちゃんが震えてる。あ? ダサメン、何ゆずちゃんの頭撫でてんだ!? ダメだよ、ゆずちゃん、受け入れちゃ! 男子校菌が移る!
グヌヌしていると、二位の芸専代表者がステージを降り、いよいよ一位の発表間近。
お隣の武士も珍しく神妙。いや、珍しくないか。武士だけに。とか思いつつも、似合わない面してるのは間違いないので、俺は七瀬の頭をポンポンしてみる。
「はっ? 何?」
バシッ、と凄い勢いで手を払われた。流石武士、手刀の速度半端ない。痛い。
……一応気を使ったつもりなんだけど、酷くない? 正面のゆずちゃん見てみてよ、撫で撫で受け入れて俯いて……ダサメン、そこ代われ。
『やどかり祭神輿部門第一位は』
司会Aの溜め。
心臓に悪い。いいから早く教えてくれ。
『やどかり祭実行委員会です! おめでとうございます! やったぜ、野郎共!』
「ッシャアア!」
聞いた瞬間、全身の血液が沸騰する。その勢いのままに俺達は四人、抱き付き合う。
「見たかコラ!」
「やってやったぜ!」
「やりましたー!」
「って、ちょっと! ……はぁ」
もみくちゃにし、もみくちゃにされながら俺達は喜びのままにはしゃぎ抱き合う。若干一名、反応がおかしいが。
「なんだ、照れてるのか?」
「違うわよ、バカ。もういいわ、好きにしなさいよ」
……それ、違くね?
そんな俺達に、数は少なくとも力一杯の拍手が降り注ぐ。
「よくやったな」
「よくやったぞ、お前ら」
「頑張ったわね」
「うんうん、よくできました」
先輩達は口々に褒めたたえながら、おめでとうと俺達を祝福してくれる。
恥ずかしさに頬が熱くなりながらも、どうしようもない嬉しさが込み上げて、胸が熱くなる。
「「「「ありがとうございます」」」」
四人、肩を組んだまま、俺達は全員で心の底から笑った。
そんな俺達の後ろ、ステージで軽快なロックが鳴り響き始める。
走り出したくなるような、踊りだしたくなるような曲調。スポドリのCMソングにでもなってもおかしくなさそうなこれは確か、インディーズチャート一位を取った。
「いよいよ終わりだね」
しみじみとしたマーサ先輩の声。
「ああ、エンディングだな」
似合いもしない筋肉先輩のキザなセリフ。
駆け抜けるミュージック。観客はステージ上に投影される祭りのダイジェスト映像を眺め、跳ねる者、大声を上げる者、しんみり見入る者、種々様々。
いつだって君の声が。BGMがサビに入ったその瞬間、より一層場を盛り上げる大火の華が夜空に咲いた。
「「「「おおっ!」」」」
「「「「わーっ!」」」」
思わず声上げ、空見上げる俺達の視線の先。
先駆けの大輪に続く百花繚乱。種々に咲き乱れる夜の華が祭りの最後を彩る。
見上げ、見惚れ、感傷に心浸す。
「終わりだな」
「ああ、俺達のやどかり祭は終わりだ」
柄にもない、感傷に浸りきった巨漢先輩タッグの声。でも、今だけは全面同意できる言葉に振り向けば、そこにあったのは俺の想像も及ばなかったほどの感慨。
「どうしたんですか、先輩。柄でもないですよ」
驚くほどのその姿に、俺は思わずそんな素直な疑問を口走ってしまう。
「いや、なに」
「俺達は今年で引退だからな」
「「「えっ?」」」
ダサメン、ゆずちゃん、そして俺は言葉を失う。
「やっぱりわかってなかったか。やどかり祭実行委員会は三年生で引退なの」
「四年生は就活や卒論で忙しいからね」
マーサ先輩とお姉ちゃん先輩が寂し気に説明してくれる。
「そんな……」
想像もしていなかった事実に、俺達は絶句する。
だって、まだ一年しか。今回しか、一緒にやってないのに。
「そんな顔するな。俺は最後にお前らとできて、本当によかったぞ」
「ああ。最高だった」
ありがとうな。
自然に声を揃えて、筋肉先輩と肉だるま先輩は、破顔した。
「そんな」
「ごぢらこそ」
言葉にできない。でも、漏れ出しそうなあれやこれを我慢して、一年全員、顔を見合わせて、
「「「「本当に、ありがとうございましたっ!」」」」
最敬礼で、頭を下げた。
――何も返せてない。本当に、まだ何も返せてないのに。
「おいおい、そんな顔するな」
「そうだぞ。これからまだ打ち上げだって、旅行だってあるんだからな」
二人はそんな風に言いながら、穏やかに笑い合う。
そうか。まだ、お別れではないんだ。安心する。
でも、それでもやはり。胸に積もる一抹の寂しさは拭えない。
「でもまあ、お前達の気持ちもわかる」
「俺達も一年の時、そうだったからな」
二人は俺達の気持ちに理解を示し、
「だから、そうやって思ってくれるなら、それをお前達の後輩に返してやってくれ」
「俺達から受け取ったと思ってくれてることは、お前達に後輩ができた時、そいつらに繋いでやってくれ」
肉だるま先輩、そんな綺麗なの肉だるま先輩っぽくないすよ。そう思うけど、らしくないと思うけれど。
「「「「はいっ!」」」」
それでもこの気持ちは、絶対に繋げていきます。
この後、めちゃくちゃ机椅子運んで、巡回して、ゴミ処理しまくって、軽くイキかけた。
ガスボンベ閉鎖空間で穴開け、ダメ絶対。ラリるから。
翌日 AM9:00
終わったと思った? ゆっくり寝られると思った?
残念! お片付けありますからー!
「503講義室担当の生物学類です。503講義室、机椅子の返却確認しました」
「……お疲れ様です」
――パトラッシュ……僕もう疲れたよ。
PS
ゴミ捨て場の見上げる数トンのゴミを片付け終わった後の達成感は異常。
あと、その時のゆずちゃんとおまけで七瀬の笑顔と涙は、ちょっと来るものがありました〇
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