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大学生は頭が悪い ~アットホームなサークルです。笑顔が絶えないバイト先です。懇切丁寧に指導する大学です~  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
1限目  やどかり祭実行委員会 ~ やりがいのある仕事です! 未経験者大歓迎m9(^Д^) ~
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70 丑の刻参り

PM14:00



朧月は遠く天頂。


冷たいというほどでなくとも、まだ肌寒い晩春の冷気が酔った体に心地良い。

風さえも寝静まっているかのような無音の中で、カツーンカツーンと地を叩く足音だけが耳触りよく反響している。


「なあ、細谷」

 風流に浸る俺を、傍らの雑音が邪魔してくる。


「なんだ、八代」

 まったく、これだから風情を介さない俗人は。

 やれやれと肩を竦めながらも、心優しい俺は律儀に返事をしてやる。


「俺達は一体何をしているんだ?」

 根本的な問いに、左右に振っていた俺の首の動きがカキンと止まった。


「なんだ、そんなこともわからないのか?」

 それでも穏やかな微笑みを崩さずに俺は答える。


「実行委員としての重要な責務を果たしているんじゃないか」

 手にした見回り用の懐中電灯を小粋に掲げて、俺は嘯いた。


「……そうだったな」


 それきり俺達は口を開くことなく、無言で真っ暗闇の夜の祭り会場をただただひた歩く。



 夜間警備。


 そう言われれば意味はわかる。祭り会場と言ったものの、そこはただの大学構内のしかも屋外。


 酔っ払い大学生、不審者、犯罪者なんでも入り放題。そこに野晒しで明日も様々な企画を行うテントが置かれたままなのだ。悪戯をしようと色々となんでもできる。


 それはわかる。わかりはするのだが。

 こうしている今も、自分達と同い年の新入生は大学生になった自由を謳歌し、祭りでアゲアゲなテンションで酒盛りをしたり、その流れで同級生の女子と仲良くなったり、もしかしたらその勢いでキャッキャウフフなフィーバータイムに突入しているかもしれないと思うと、自分の不遇な現状とのあまりの格差に殺意の波動が目覚めそうになる。


「……せめて隣にいるのがこんな野郎でなく可愛い女の子だったら」

「アアン!? それはこっちのセリフだ」

 思わず漏れた俺の魂吐息に、いちいち反応した野郎の怒り面が醜く歪む。


「元はと言えば、あの時お前がマーサ先輩に付いて行かなければこんなことには」

 現状に至った諸悪の根源にブツクサ文句をたれる。


「お前こそマーサ先輩のチラリズムに鼻の下伸ばして付いてったろうが!」

「アアン!? 誰がだ!?」

「オオン!? やるか!?」

 互いに相手の胸倉を掴み上げ、睨み合う。


「やんのか、コラ」

「上等だ、オウ」

 一ミクロンの生産性もない威嚇に額を打ち付け合う。


「……ちょっと待て」

「なんだビビったか?」

 異変を察知した俺の静止に八代が安い挑発を返してくるが、今はそれ所ではない。

 俺は無言で自分達がこれから向かう追越駐車場、宿舎の裏に通じる細い道にライトの光を向けた。


 ぼんやりと、微かだが何かしらの明かりが付いている。

 俺の意味するところに気付いたらしい目の前の八代がゴキュリと唾を飲み込む音がする。しかし、そんな音よりもはるかに甲高く耳を割くのはカキーンカキーンと遠く響く異音だ。


「おいおい、これは一体なんの冗談だ?」

 俺の胸倉から手を離した八代が両手を広げておどける。


「まったくだ。丑の刻参りにはちょいとばかり早すぎるってもんだぜ」

 ハハンと俺達はアメリカナイズに笑ってみせる。しかし、深夜の寒空に似つかわない冷汗が頬を伝うのは隠せない。


「さて、これはどうしたものかな?」

 どうしたも何も、実行委員の警備・見回りという役割上、確認するしかないのは明白ではある。

 あるのだが、本能の危機回避センサーがビンビンに反応しているので、どうやってこのアクシデントを乗り切ろうかと俺は顎を撫でる。


「どうしたも何も確認するしかあるまい」

「なっ!?」

 だというのに、まさにその当たり前な使命をさもあらんと八代は宣言した。このバカには本能的な危機回避能力はないというのか?


「どうした? たかが見回りという高校生でもできるような任務だが、ビビりの細谷君には荷が重かったか?」


 や、野郎!


「仕方ない。俺が見てきてやるから細谷クンはここで待っててくれるかな?」

 バカかこいつは! 正気を疑う俺の目にも、八代は強がりの前進を選ぶ。


 コ、コイツ……マウンティングが保身を凌駕してやがる!


 生存本能が何より優先されるべき生物として間違っている。俺はそんなバカ本格派にかけるべき言葉を探すが、それよりも早く八代は憐憫の嘲笑を俺に向けて浮かべた。


「怖がりな細谷キュンには難しい任務だったようだ。仕事は俺がこなしておいてやるから、細谷キュンは先に家に帰ってママのおっぱいでも吸ってるといい」


 ブチンッと脳の血管が切れる音がした。


「アアン!? 上等だ、行ってやんよ! お前こそビビッて遅れんじゃねえぞ!?」

「今の今までビビり倒しといてよく言うもんだ」

「誰がだ!」

「ビビりなビビりな細谷キュンさ」

「アアン!?」

「オオン!?」

 いがみ合い、取っ組み合いながら、俺達はズンズンとペデストリアンを進む。

 ギャーギャー騒ぎながら細い裏路地に踏み入るが、元気があったのはそこまでだ。


 ガキーンガキーン!


「……丑の刻参りにしては打撃音が嫌に金属質だな」

「……だからそもそも丑の刻参りの時間にはまだ早いからな」

 目に入る明かりと耳に響く打撃音が具体的になるにつれ、煽り合いで麻痺していた真っ当な理性が復活してくる。


 ヒヒヒヒッ。


「!?」


 大釜で何かを煮込む魔女の笑いのような声が、地の底から聞こえた気がした。


「おい、細谷。下らない小細工をするなよ」

 後ろを歩く八代が声を上擦らせる。ということは俺の勘違いではなく、このバカにも同じものが聞こえたということだ。


「俺じゃねえよ」

 かろうじて返した俺の答えに、八代が息を飲むのを背中で感じた。


 アヒャヒャ。ウヘヘ。


 音源に近付いたことで、声はよりはっきりと耳に届く。複数の笑い声。それは怪しげな熱を帯びていて、明らかに尋常なそれではない。


 この宿舎を抜けた先に、答えは待っている。

 引き返すならここだと、理性が訴えていた。しかし、怖いもの見たさの本能と実行委員としての使命感は、その先の答えを求めていた。


「細谷」

 柄にもなく緊迫した呼びかけから、八代も同じことを考えているとわかった。

「ああ、行くぞ」

 最後の宿舎の脇を抜け、俺達は音源にライトの光を向けた。


 ガキーンガキーンガギーン!

「ハハッ。アハハッ」「ヒャヒャヒャ。アッヒャヒャヒャ」「フヘヘヘ」


「なっ……!」「こ、これは」

 あまりに異様な光景に俺達は絶句する。


 十を超える人間が、一心不乱に手のハンマーを地へと叩きつけていた。その作業をする皆が、どこか恍惚とした異様な笑みを浮かべており、その様は何か怪しい薬でもキメているかのようだ。絶対お近付きになりたくない完全無欠ヤバグループだが、その全ての顔に見覚えがあった。


「「せ、先輩方?」」

 慄く俺達に、イッてしまっている全ての顔がグリンッと振り向いた。


「おー、細谷と八代じゃねえか」

「いーところに来たな」

 ムサさ百パーセント、筋肉ゴリラ先輩と肉だるま先輩が、ハンマーと何か細長い円筒形の金属筒を両手に立ち上がった。


「「ヒイッ」」

 異様な笑顔を浮かべる巨漢タッグに、思わず八代と肩を抱き合う。


「……人足が二人」

「君達もやってきなよー」

 肉畑に咲いた麗しき花、マーサ先輩とお姉ちゃん先輩がいつにない怪しげな笑顔。


「……絶対、逃がさない」

「ありがとうございます、八代さん、細谷さん」

 親の仇を見つけた武士の如き七瀬と、似つかわない怪しげな笑みを浮かべるゆずちゃんが迫りくる。


「な、なんまんだぶなんまんだぶ!」

 俺は全力ターンで背を向け、即ダッシュ逃走を図る。


 が、ガシッと、両肩にかかる数多の圧力に押さえつけられた。

 恐る恐る、そろーっと顔だけを振り返らせれば、


「「「「「「労働力、ゲーット!」」」」」

 口角を釣り上げた悪魔達が、そこにいた。


「「イ、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!」」

 いつものように俺達は無力な悲鳴を上げていた。

 



PM16:00


 リスポーン地点に帰還。

 ベッドに倒れこみ、マジで気絶する5秒前。


 あれ? 今日って前夜祭じゃないっけ?

 祭りって何? 食えるんですか? あ、飯に出店のお好み焼きとたこ焼きは食った気がする。


 さよならバイバイ。元気でいてね。




Q:何をしてるの? 

A:企画が廃棄したカセットコンロボンベの穴あけ。


 密閉空間でのボンベ穴開けダメ、絶対。ラリるから。 ワンチャン火花着火大爆発まであるよ


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