66 円陣
PM0:45 やどかり祭案内所テント前
「さあ、これからが準備日本番だ」
楽しくてたまらないといった狂気じみた顔で筋肉先輩が笑う。
……え? もう結構働いたと思うんですが? 配線も結局前夜祭企画分しか終わらない程にはハードだったんですが?
「これから俺達は修羅に入る! 殺到する企画あらば斬り! 噴出する問題あらば斬る! 感情を捨て、ただ一心不乱にヤマを片付けろ!」
「「「オオー!」」」
「「「「オ、オオー?」」」」
気合を入れる先輩方といまいちノリを掴み切れない俺達一年。
「机椅子担当!」
「「は、はい!」」
急なご指名に背筋が伸びる。
「机椅子貸出の受付とそれに付随する問題対応に努めろ! 対応しきれない場合、俺と肉だるまがフォローするが、俺達も他業務で動けない場合は、マーサと穂乃果を頼れ! 上が誰も捕まらなければ、上が戻るまで待たせろ!」
「「はい!」」
「「美化担当!」」
「はい」「は、はい!」
七瀬とゆずちゃんもピンと背筋を張る。
「会場配置担当、マーサと穂乃果の指示に従って、他業務のサポートを行え! この時間、メイン業務対応のないフリーはお前達だけだからな! 全般のフォローを頼んだぞ!」
「「はい!」」
「会場配置担当!」
「はいはーい」「はい!」
マイペースに手を挙げるマーサ先輩と笑顔を上げるお姉ちゃん先輩。
「企画配置の対応業務を行え! 美化担当の次に動けるのはお前達だ! メインは主業務だが、全体のサポートも頼んだぞ!」
「お任せ!」「はい!」
「肉だるま!」
「おう!」
力強く頷く肉だるま先輩。
「電力供給の対応を任せた! 俺は局長としての対応や全般のサポートに回ることも多いから、悪いが電力対応はメインで頼む! 場合によっては机椅子担当のフォローもしてやってくれ! 負担がデカくてすまんが、頼んだぞ!」
「望むところよ!」
「よし……それじゃあ、お前ら、円陣組むぞ」
全員に指示出しを終わった筋肉先輩が手招きする。このような空気の中、それに反論するわけもなく、俺達は隣同士と肩を組む。
「……あんま、触んじゃないわよ」
「……仕方ないだろーが」
七瀬さん、そーいう場面じゃないですから……スレンダーな感じなのに、どうして女子ってこんな柔らかいんですかね?
「さて、いよいよ待ち望んだ祭り本番だ。ワクワクするな?」
ニッと筋肉先輩は笑い、思わず俺達も笑う。
「どうだ、一年。ここまで」
ふいに振られる。
「え、えーと」「どうだと言われますと、その」「そ、そうですね」
なんと言ったらいいものか俺達は惑い、
「いやー、思ったより大変でしたね」
やっぱり、そんな時、先陣を切ってくれるのはお前だよな、七瀬。
「「「「ハハハッ」」」」
素直な感想に先輩方は楽しそうに破顔。
「だろうな。そこらのバイトよりよっぽどハードだからな」
あ、やっぱり? ですよねー、そんな気はしてました。
「知ってたか? やどかり祭実行委員会はな、本番に来るまでに新入生の何割かはいなくなるんだ」
え!? そうなの!? そんな脱出ルートあったの!?
「ハードだからな」
「想像と違うって子もいるよね」
肉だるま先輩とマーサ先輩が笑いながら言う。
「しかも、うち、総合計画局はその中でも結構大変な方だったりする」
なんやて、工藤!?
「やることは多いのに人数少ないからねー」
とお姉ちゃん先輩。
「ちなみに本番のこれからはもっとハードだったりするぞ」
肉だるま先輩。
……え? もっとハード? これまでより? あれより? そんなことあるの?
「ワクワクしてくるな?」
信じがたい現実に嫌な意味でドキがムネムネな俺に向かって、筋肉先輩の狂ったかのようなお言葉。
……でも、その無邪気な笑顔に思わず笑ってしまう。
「そうですね」
ダサメンはジャニーズ系イケメンに似合わぬ野性的な笑みを浮かべる。
「確かに、ある意味ワクワクしますね」
どうにでもなれといった感じで七瀬も笑う。
「が、頑張りますー!」
小動物ファイトなゆずちゃんが右腕を上げる。
「楽しみすぎて、夜も眠れなそうですよ」
きっと間違いない未来を皮肉りながらも、頬が吊り上がるのを抑えられない。
そんな俺達に、先輩達も嬉しそうに笑っている。
「ここまでやってこれたお前達なら、お前達となら、間違いなくやりきれる」
最高の笑顔で筋肉先輩は語り掛け、
「最高の祭りを楽しもう!」
「「「「「「「オオー!」」」」」」」
俺達はこれまで以上の戦場に向かって、揃って足を踏み鳴らした。
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