60 やる前から諦めるのは好きじゃない
「聞いたわね?」
1C棟3階談話スペース。
着くなり七瀬は確認してくる。
何を、と言うまでもなく何を指しているかなど決まっている。
「学類の出店と神輿だな」
俺の返答に七瀬は重々しく頷いた。
「……正直なところ、あんた達の進捗状況はどう?」
「……可もなく、不可もなくだと思う」
少考の末、俺は答える。
初めてだから、キチンとどの程度の状況かはわからないものの、
「机椅子の現場確認は八割方終わってるし、企画の要望調査も後で修正になるのは覚悟の上で出たものから順番に割り当て案を検討してる。各講義室の机椅子返却責任企画も同様。ある程度目途がついたら神輿とか推進局の運搬手伝いに回るよう先輩から言われてたとこだよ」
俺の説明など関係なく、それで、とばかりに七瀬は視線で肝心なことを問うてくる。
「お察しの通り余裕はない。少なくともこの上、学類の出店・神輿をやるほどの余裕はな」
「そうよね」
諦めたように深々と、七瀬は溜息を吐いた。
「となると、今削るべきは」
続けた七瀬の言葉に考える。
まず、やどかり祭実行委員会の自分達の担当業務。
これは最優先事項だ。こればっかりは代えは利かない。なにせ担当は自分達二人しかいないのだ。
そして、総合計画局全体の業務。これも担当業務の次に優先しなければならない。こっちだって局全体で八人しかいないのだ。人海戦術が必要なものは全員一丸で対応しなければならないだろう。
残るのは、やどかり祭実行委員会の神輿、学類の出店と神輿。
この二つで、個人感情として優先するものを上げるならば、それは当然、やどかり祭実行委員会の神輿になるだろう。立ち上げ初期から関わっているし、今までも、今も制作に携わってる。ここで足抜けする気はない。
となれば当然、ここで削るべきは未だ何の絡みもない
「まあ、学る「睡眠時間だな」
俺の論理明快な回答を、おバカダサメンが遮る。
え、何言ってんの?
俺含め三人の驚愕の視線に晒されたダサメンは視線を逸らす。しかし、流石にいい加減このメンバーには慣れたらしいダサメンは一つ息をついて真っすぐに見返してきた。
「余裕がないのはわかってる。かといって、学類の関係をまったくやらないわけにはいくまい。なにせ所属はしているのだから」
「いや、言いたいことはわかるがな」
びっくり頑強なダサメン主張を、俺は驚きながらも窘める。
何だというのだ? 例の負けず嫌いか?
「そんなにやりたいのか?」
とりあえず理由がわからんので尋ねてみる。
「そういうわけでもないが」
ならどーいうわけやねん。
「それなら、なんでですか?」
予想外のゆずちゃんからのご質問。
それは咎める風でもなく、純粋になぜかを問うていた。
「同じ学類の仲間なら手伝うのは当然だろう」
これまたびっくり。
やどかり祭実行委員会メインで動いてるから、そこまで学類への帰属意識って無かったんだが、ダサメンは存外情に厚かったようだ。さらにダサメンはそれに、と繋げている。
「やる前から諦めるのは好きじゃない」
……ッハ、本当に似合いもせず、負けず嫌いな奴。
「わーった。わかったよ。なんだその集団意識と負けず嫌い。それも男子校で鍛えられたってやつか?」
諦めて手をヒラヒラ振りながらダサメンを揶揄してみる。
「フン。男子校は団結力と泥臭さを鍛えられるんだよ」
「そりゃまた、お熱いことで」
だってのに、真っ向肯定。さいですか。イケメン面に似合わないことで。
「ま、そーいうことらしいから。やるだけやってみるわ。当然やどかり祭実行委員会の活動は優先するけどな」
ダサメンサイドに立つ腹を決め、俺は七瀬達に宣言した。
宣言を真っ向から受けた七瀬は、呆れながらも、楽しそうに笑い始めた。
「あんたってそんなキャラだったっけ?」
「うっせーうっせー」
確かにどっちかいうと、面倒事は嫌いな性質だが、嫌いじゃないんだよ。こーいうやれるだけやってみるってノリも。
「まあ、そうなると同じ状況の私達だけやらないってのもね。ゆず、どう?」
「っえ? うん、そうだね」
七瀬の問いかけに、驚いた反応をしながらもゆずちゃんは楽しそうに笑った。
……あれ? なんか気のせいじゃなければ、その前、ダサメン見てなかった? 嘘だよね、ゆずちゃん!
「それじゃ、やれるだけやってみるとしましょうか」
男気武士の宣言に俺達四人はオオッ、と声を合わせた。
「で、やる気なところあれだけど、睡眠時間以外にもう一個。削れるものあると思わない?」
と思えば、七瀬、武士からぬ士気を下げる提案。今、そーいうのをしないって話じゃ
「例えば、講義とか」
「「詳しく話を聞こう」」
俺とダサメンはサッと七瀬に向き直る。
「私達って結構特殊だと思うのよね」
「おいおい、こんな一般人が服を着たかのような常識人の細谷さんを前にして何を言うのかね?」
「同じ学類で同じ委員会の同じ局」
あれ? 武士? 無視?
「言われてみれば確かにそうだな」
ダメージを受けた俺に代わり、ダサメンが相槌を打つ。
「なら、この四人で出席する講義を分担すれば、時間が作れると思わない?」
「おお!」
ダサメンがそれだとばかりに手を打つ。
「出席用紙を提出する講義なら、出席した一人が四人分の出席用紙を提出すれば出席扱いにできる。点呼の講義でも男女一人ずつ出れば、四人分点呼に対応できるわ」
「エクセレンッ」
ダサメン、絶好調。
……クッ、このまま負けてなるものか!
「講義の遅れは、やどかり祭が終わった後に、出席した人のノートを貸してもらって取り戻せばいいわ」
「「ファンタスティック!」」
「それじゃあ、四人共同戦線。そういう感じでいい?」
「ああ」
「もちろんだ」
「うん」
七瀬の確認に全員が頷く。
「それじゃ」
そして、七瀬が机の上に手を伸ばす。ダサメンとゆずちゃんが不思議そうにその手を見るもんだから、七瀬は珍しく顔を赤くして手を引っ込めそうだ。
「お前こそ、そんなキャラだったか?」
その手を逃がさないように、俺は七瀬の手の上に掌を重ねる。
「う、うるさいわね!」
俺達のやり取りで七瀬の意図を察したダサメンとゆずちゃんも笑いながら、掌を重ねてくる。
後は鬨の声を待つばかりだが、平静に戻り恥ずかしさを自覚してしまった七瀬は、音頭を取らず俺を睨みつけてくるばかり。はいはい、わかったよ。
「全員で気張ってこうぜ!」
「「「オオーッ!」」」
これから決勝に臨むスポーツチームの如く、俺達は雄叫びを上げた。
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