58 地獄の前兆
「どうしてあいつらは期限までに書類を提出することもできないんだ?」
「バカなの? 死ぬの? 机椅子貸す必要なしってことでファイナルアンサー?」
やどかり祭実行委員室内にて、なぜか全企画数に遠く及ばない机椅子貸出要望調査票を前に、俺達は呪いの言葉を吐き出す。
「そーいうあんたらは学校の宿題、期限までにちゃんと出してたわけ?」
憎まれ口を叩かせたら天下一品、七瀬様のお言葉に俺達はサッと視線を逸らす。
「ほら、人のこと言えないじゃない。私はちゃんと出してたから言うけどね。……どう料理してやろうかしら」
俺達のことをあげつらうくせに、実は自分も同じ立場な七瀬はフフフと暗く笑いながら、手にした美化担当調査票をグシャリと握り潰した。あ、葵―と慌てたゆずちゃんが、七瀬の腕をクイクイ引っ張ってる。提出した企画とゆずちゃんに罪はないぞ!
「まー、そんなもんだ」
「半分以上の企画は出してきてくれてるしね」
総合計画局の良心、筋肉先輩とお姉ちゃん先輩は鷹揚に慰めの言葉を口にする。先輩方も電気使用量調査票と企画実施区希望調査票が出てないというのになんと心の広いことか。
「企画は獅子身中の虫と思え」
「大学生にきっちりを求めるのが無理ってもんよね」
良心と対をなす悪玉菌、肉だるま先輩とマーサ先輩が良心二人のフォロー台無しの悪態を吐く。……あれ? エンジェルそっちサイド? マジで? マイエンジェ?
「まあ、愚痴を言ってても始まらないからな。とりあえず出てる分について作業を進めろ。そうすることが自動的に期日までに書類を提出した企画を優先することにもなる。企画の希望に対して物品等が足りない場合、提出が遅い団体が割を食うことになるからな」
なるほど。それは確かに。
「そうやって作業してるうちに、遅れて提出してくる企画も多いしね」
オーマイマザー。何という包容力。確かに見える。その背から差し込む聖なる光が。
「まあ、今出してない企画なんて半分以上が待ってても出してこないけどな」
オーノー肉だるま先輩。何という狭量。そのくせ確かに感じる負のオーラ。マジ悪の幹部。
「とりあえず一週間は提出済の企画について割り振って、一週間待っても出てこない企画には催促の連絡するってところね」
マーサ先輩が現実的な対応をまとめてくれる。
「そういうことだな。これからはやどかり祭が近付くにつれ、担当・局の垣根を越えて、より現場的な作業が増えてくる。ざっと上げるだけでも美化のゴミ箱作り、電気の電気配線、本部企画局実施企画への机椅子貸出、推進局のレンタル機材運搬とかな」
!? GT〇ばりのマガ〇ンマークが俺達の頭上を飛び交う。
「できる作業はできるうちに片付ける。それがこれからやどかり祭当日までの直前期を乗り切る秘訣だな」
筋肉先輩の言葉に俺達は体震わす。
え、ちょま。もしかしなくても本番ってまだまだこれから?
「そういうことだな」
肉だるま先輩も頷きながら、いつもの通りいつもの如く机の下を漁り始める。当然の如く、その手に握られていたのは毎度お馴染み、琥珀色のお薬だよ?
ちょっと待て! なぜ今、この話の流れでそれが出てくる! 時間が幾らあっても足りない繁忙期的なお話では!?
「本番前、最後の宴と行きたいところだが……」
筋肉先輩が似合いもしない、悲哀を帯びた憂い顔で琥珀色の瓶を見つめる。
「ああ。そうしたいのも山々だが、こいつとはしばらくお別れだな」
肉だるま先輩も同様の表情を浮かべ、封印とばかりに琥珀色の瓶の注ぎ口をキュッとリボンで結んだ。
「「なん……だと?」」
この先輩方が、酒を封印?
ゴキュリと自分とダサメンが生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。
こいつぁ、とんだ異常事態だ。このアルコールモンスター共をして、アルコールを禁止する状況。そんなもの命に関わる非常時と言っても過言ではあるまい。
これは、マジだ。マジのマジでヤバい奴だ。
恐怖しかないこれからの一ヵ月に想い馳せ、俺達の背を冷たい汗が流れた。
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