57 企画説明会2
「で? さっきは何がこっぱずかしかったって?」
綺麗に出発したはずなのに台無し蒸し返し女が一人。
「バッ! なにも「いや、メガネが青臭いことをな」
無かったことにしようとする俺の言葉をダサメンが遮ってくる。
「なにそれ。詳しく教えてよ」
七瀬は止まらないワクワクに目を輝かせてくる。
「詳しくは俺まで恥ずかしいから言えんが、なにやら青春ドラマの真似事めいたことを言っていたな。まったくもって恥ずかしい」
「恥ずかしかったのはお前の緊張ぶりだろうが!」
「細谷さん、お静かに」
思わず声を上げる俺の裾をゆずちゃんが引っ張って注意してくる。
それはそうだろう。もう説明会を行ってる大講義室は扉一枚隔てたそこ。ここで大声を出そうものなら中まで聞こえかねない。
仕方なく声を噤むと共に、重厚な扉とその向こうの重圧が迫ってくる。
さっきまでので、だいぶ薄れていたんだが、こればっかりはそう簡単にもいかんか。まいったな、とポリポリ頭を掻く。
「なに? 似合いもしない緊張なんてしてるわけ?」
そんな俺を七瀬は茶化してくる。……残念な励まし方しかできん奴だな。
「バーカ。それはこいつだってーの」
俺より重症なはずのダサメンを親指で示す。
「ふん。人見知りゆえ、仕方あるまい」
そんな風に言えるだけ、猿から類人猿くらいまでは進歩したもんだ。
ガチャリ、と重厚な扉が開いた。
「机椅子担当、もうすぐですから入ってください」
総務局の何とかさんが、そんな風に声掛けしてくる。
本当にいよいよだ。そんな風に未だ思うあたり、まったくもって俺も踏ん切りが悪い。
「「はい」」
俺達は顔だけ向けて応え、その顔を戻す。
「ってことだ。行ってくる」
「はいはい。やらかさないよーにね」
つくづくこいつは……って思うんだが。
微かに。本当に微かに違和感がある。まあ、いかに武士とはいえ、こいつとて霊長目ヒト科、生物学類上女。こいつもこいつで、無理していつも通りを装ってくれているのかもしれない。
「ほら」
七瀬だけじゃなく、ダサメンとゆずちゃんにも向けて声を掛け、俺は手を挙げた。俺の唐突な行動に頭にクエスチョンマークを浮かべる全員に俺は言った。
「ハイタッチだよ。ハイタッチ」
俺の似合いもしない提案に、鳩に豆鉄砲なご様子の三名。
「あー、これ? 青春ドラマの真似事って」
笑ったくせに、すぐに呆れ顔を作り、人を指差すご無礼な武士一名。
「そういうことだ。青臭いだろう?」
先程までのようにブルブル仔牛みたいに震えてれば可愛げのあるものを、しれっと肩を竦める小憎らしいダサメンブラック。
「そ、そんなことないです! やりましょう!」
いつでも僕に癒しをくれるゆずちゃんだけが、俺の唯一の癒し系。
「あー、うるさい! いいからほら!」
いちいちうるさい奴らと安定のゆずちゃんに俺は手を上げ、
「いっちょやってやろうぜ」
パアンッ、と順番に手を叩きつける。
「なにがやってやるんだか」
「意味不明だな」
「やってやるですー!」
はいはい、予想通りの反応ありがとさん。
「うるさいうるさい。ほら行くぞ、ブラック」
恥ずかしさを振り切って、俺は七瀬とゆずちゃんに背を向けた。
「じゃあ、お互いな」
「ええ、お互いね」
背に向けた、本当にいつも通りに戻った生意気声に背を押されて、俺達は入室する。
満席でないものも、三百人は入る講義室の半分以上を埋める人波の重圧。
うっと思わなくもないものの、もはや足取りはそこまで重くない。
『続いて、机椅子の貸し出しの説明です』
アナウンスに従って、ホワイトボード前の説明台に進む。
入れ違いで筋肉先輩達とすれ違う。
「随分騒がしかったな」
「え? 聞こえてました」
笑いながらこっそり言う筋肉先輩に慌てる。
「ああ。だが、それでこそ俺達の後輩だ」
時間もないから、言葉少なで意味はわからないものの、肉だるま先輩はそんなことを言ってくれる。
「「その調子でかましてこい」」
「「はい」」
背を叩く二つのでかい手に押されて、俺達は説明台に立った。
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