56 企画説明会1
いよいよ訪れてしまった聖しこの夜、今日この日。やってまいりました企画説明会。
1H棟2階大講義室外で、俺はゆずちゃんばりにスーハースーハー。
なにせ出番がもうあと少しと迫っている。流石に緊張するってもん……だったんだが。
「……掌に人。掌にヒト。テノヒラニヒト?」
「ヒッフヒッフヒッヒフー!」
傍らの二人の緊張具合を拝見すれば、いやでも落ち着こうというものだ。
ダサメンことブラック(笑)は、掌に人の字を繰り返し書いているが、書きすぎてもう何が何やら状態だし、ゆずちゃんこと癒し系は深呼吸を通り越してラマーズ法をする始末。それ、癒し系ゆるキャラ小動物がしていいやつじゃないよ、ゆずちゃん!
「少しは落ち着けって」
そうダサメンに声をかけてみるも、耳に入らない様子。まあ、そう言われて落ち着けるならこんな風になってないわな。
「ゆず、手貸して?」
七瀬が屈み、ゆずちゃんと視線を合わせる。ゆずちゃんの両手を取って、自分の両手で包み込む。パンッと、唐突にとゆずちゃんの両手の上から拍手するように手を叩いた。驚きにゆずちゃんが目を見開き、七瀬の顔を見上げる。
「ちゃんと準備したし、人前で読む練習もしたじゃない」
七瀬はクールな澄まし顔でゆずちゃんを見て、
「大丈夫。ゆずならできるよ」
優しく、寄り添うようにゆずちゃんに微笑みかけた。
「葵……」
そんな七瀬を見て、ゆずちゃんはぐっと奥歯を噛んで、両手を広げる。そして、パンッと、その両手で自分の頬を張った。
「うん。大丈夫。私、頑張る」
「うん。頑張れ」
そんなゆずちゃんを七瀬は抱きしめるから、ゆずちゃんは恥ずかしそうに葵―と声を上げている。
やだ、なにこれ。尊い、つらい。七瀬ってゆずちゃんに対してはホント優しいよな。
俺は苦笑して、傍らの残念ながら相方なダサメンを見やる。緊張の最中ながらも、今の七瀬達のやり取りは目には入っていたようで、戯れる二人をぼんやり見ている。
「変わるんじゃなかったのか?」
七瀬を見習って声をかけてみれば、しゃがみこんでいるダサメンが俺を見上げるのがわかった。
こんな人見知りダサメンに大勢の前での説明は無理難題。俺が全部説明しようかとも思ったが、最初人前で説明するのを渋っていたくせにこいつは言ったのだ。
『……俺達の仕事だ。お前だけに放り投げるわけにいくまい。――それに、いつまでもこのままじゃいられないからな』
バカのくせに、真剣な目で。
「……あの時のお前は、割と格好いいと思わなくもなかったぞ」
七瀬達から視線を外さず、俺はそんなことを言っていた。
……なんか、ダサメンの方からむず痒い視線を感じる気がする。
「なにこっぱずかしいこといってるんだ、お前」
と、いつの間にやら立ち上がっていたダサメンが、同じ頭の高さからそんなことを言ってきやがった。
「っは!? こ、こっぱずかしいのは、さっきまでのお前の取り乱しようだろうが!」
「ああ!? 人として至極当然の緊張だろうが! ゆずちゃんと俺、全国の人見知りさんに謝れ!」
「そこでゆずちゃんを巻き込むお前は最高に格好いいな!」
ギャーギャー言い争いながら、俺達は取っ組み合う。
「心配してたけど、随分余裕そうね」
笑いながら、マイエンジェルことマーサ先輩が歩み寄ってきた。
「マーサ先輩。終わったんですか?」
「うん、さっきね。今、筋肉先輩達が電気の説明してるとこ」
「すぐに終わると思うから、そろそろ入口に行った方がいいと思うよ」
マーサ先輩の横に立つお姉ちゃん先輩が出番を教えてくれる。
「そうですか。わかりました」
――いよいよか。
「ほら、行くぞ」
「ふん、言われんでも」
一々生意気なダサメンと連れ立って、俺達は大講義室前の扉へ歩き出す。
「私達も行こっか」
「うん」
俺達のすぐ後が出番の七瀬とゆずちゃんも後ろについてくる。
「葵、ゆずちゃん、ブラック、メガネ」
そんな俺達の後ろ髪を掴むマーサ先輩の呼びかけ。いや、なぜに俺達だけヤドカリネーム? まだそのあだ名、慣れないんですけど。
「「「「はい?」」」」
俺達が揃って振り向けば、
「「行ってらっしゃい」」
マーサ先輩とお姉ちゃん先輩は、揃って笑顔で手を振ってくれていた。
それだけ。でもただそれだけが、どうしてか、どうしようもなく嬉しかった。
「「「「行ってきます」」」」
だから、俺達も笑顔で手を振り返した。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




