53 一蓮托生
1C棟前。
どちらからともなく、ピタリと俺達の足は止まった。
ああ、なんていうか、その。
「「行きたくねー」」
言葉となって口から溢れ出した心の吐息が、ダサメンとシンクロした。思わず、俺はダサメンと顔を見合わせる。
お互い言葉は発さない。しかし、心境は今のシンクロしたセリフと立ち止まった足が何よりも雄弁に物語っているだろう。行きたくない。
この感情には覚えがある。テスト勉強してないテスト当日。あれなんかが、かなりニアピン賞だと思う。
わかっている。ここで頑張らなければ、後々自分の首を絞めつけるだけだと。今日やらなかった分の仕事は、妖精さんが片付けてくれるわけもなく、明日以降の自分のツケとして回ってくるだけなのだから。
それでも、それでもこの感情、プライスレス。だって仕方ないじゃない。
人間だもの。
「「なあ」」
またもやダサメンと声がハモる。
見れば、ダサメンの瞳は邪念に濁っている。ああ、俺もきっと今、同じ瞳をしているんだろう。
このまま邪念に身を任せてどこまでも。
遠く遠く果てしなく続く人の性の上で。
「お疲れ様ですー!」
そんな俺達に茶色い物体が、黄色い声で挨拶してきた。
「「?」」
唐突な謎物体とのエンカウント。俺達の頭上にはクエスチョンマークが浮かび上がる。
「ゆず、危ないから私が前歩くって」
その茶色い物体の後ろから、同じく巨大な茶色い板、ダンボールを持った七瀬が現れた。
「ん? あーお疲れ」
そして当然向こうも俺達に気付き挨拶アゲイン。
「ああ、お疲れ」
「お、お疲れ様です」
なんで敬語やねん、ダサメン。
「何やってんだ、それ?」
「ん、運んでんの」
「そんなん見りゃわかるわ」
「あんたが聞いてきたんでしょ?」
あー言えば、こー言う!
「やどかり祭で使うゴミ箱なんです。これ」
茶色い物体ことダンボールに隠れた何かが教えてくれる。
「あー、そういう」
納得して俺は右拳を左手にポン、と載せる。
「しかし、大変そうだな。それ」
「まーね。私はいいんだけど、ゆずはその」
七瀬は言葉を濁す。
小柄だからな。改めてダンボールで上半身が隠れたゆずちゃんらしきものに目をやる。
今も俺達からゆずちゃんが見えないってことは、ゆずちゃんも視界がクリアじゃないってことだ。そりゃ難儀だろう。しかし、一刀両断七瀬もゆずちゃんにはそういうこと言わない気遣いするんだな。
「「手伝おうか?」」
お互い驚き顔のダサメンと見つめ合う。なんだよ、お前。さぼろうとしてたんじゃないのか?
「あ? あー、ありがと。んーでも」
「大丈夫です」
珍しく言い淀む七瀬を遮って、驚いたことにゆずちゃんの方がはっきりと断ってきた。
「でも、結構大変そうじゃない、それ?」
なにせ、ゆずちゃんの上半身がすっぽり隠れるくらいには大きいダンボールだ。いくつあるか知らないが、女手二人で全部運ぶのは大変だろう。
「気遣い、ありがとうございます」
ゆずちゃんダンボールが少し傾く。お辞儀したんだろうか?
「でも、これは私達のお仕事ですから」
続いたのは凛とした声。それはいつものほんわかゆずちゃんとは違う、芯の通った声だった。
「……ま、そゆこと」
苦笑の中に喜びらしきものを滲ませて、七瀬もゆずちゃんの宣言を受け取った。
「私達の仕事は私達がしますから、細谷さんと八代さんも自分達の仕事を頑張ってください」
ふんすと擬音が聞こえてきそうな張り切り声。
「それじゃあ、また後にお神輿で」
言い残して、ダンボールが動き始める。
「とりあえずそーいうことで。お互い佳境になってきたら、それぞれ人海戦術で手伝うこともあるみたいだけど、まずはそれぞれに頑張りましょ。またね」
そう補足して、七瀬はゆず待ちなさいってー、とゆずちゃんを追いかけていく。
後ろからで、ようやくダンボールに隠れるほど小さなゆずちゃんが、一所懸命にそれを運んでいく姿が見えた。
ぽりぽりと頭を掻く。どこか決まり悪くダサメンを見れば、ダサメンも同じく頭を掻いていた。
「……行くか」
「……そうだな」
それだけ言って、どちらからともなく俺達は1C棟の中に足を踏み入れる。
「とりあえず企画説明会の資料に着手するか」
「だな」
「ちなみに説明会での説明はどっちがする?」
「……俺が見知らぬ大勢の前で話せると思うのか?」
「……思わないが、お前、さっきのゆずちゃんの前でそれ言えんの?」
「それを引き合いに出すのは卑怯じゃないか!?」
今日も仕事を片付けるため、ギャーギャー言い合いながらも、俺達はやどかり祭実行委員会室に向かって歩いていった。
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