48 無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんですよ
今日も今日とて1C棟。いつもお馴染み3階談話スペース。
――こんなに体調が悪いのに、いつも通りにいつものこの場所。
「痛い。痛いよう。頭が痛いよう」
机に突っ伏しながら、俺は体調不良を訴える。
「きもい。気持ち悪いよう。吐くものもないのに吐きたいよう」
横でダサメンが、同様に涙のストライキを敢行している。
「おやおや、どうしたんだ?」
「食当たりか? 今はやどかり祭前の大事な時期なんだから、体には気をつけなきゃだめだぞ?」
「「あんたらが言うな!」」
元凶のとぼけたセリフに揃って突っ込んだ。
「一体どうしたというんだ?」
「よくわからんが大丈夫なようだな。話を始めよう」
くっ、結局か弱き労働者の訴えなど無視か。それがジャパンのやり方か。
理不尽な社会に対する怒りが沸き上がるが、ここで足踏みしても苦労するのは明日からの自分。それは昨日の説明から容易に想像がつく。
でも、だったらなぜ昨日一日をアルコールで無為にしたのか。私はそう問いたいけど、きっとこのアルコールモンスター達にそれを問うのは愚の骨頂。
仕方なく俺は理不尽という名のこの世を呪いながら口を噤む。
「さて、いよいよ机椅子担当の仕事が始まる。お前達にやってもらうのは、昨日説明した①、机椅子の現状確認だ」
反論を諦めたことを後悔するハチャメチャが押し寄せてくる。
あれか、いよいよあれが始まるというのか。
チキチキ耐久・机椅子九百個エンドレススタンプリレーが。
「まず、確認する場所だが、追越・平砂共用棟、そして体芸エリアだな」
「知ってると思うが、やどかり祭会場は追越・平砂学生宿舎の外と駐車場だからな。近いところから借りるというわけだ」
……そういえば、会場も知らなかったけど、そうなんですね。
「ということで今日から確認に回ってもらうわけだが、現場確認前に行うことと注意すること」
前置いて、筋肉先輩が人差し指をピッと立てる。
「まず、行うこと。共用棟は事務室、体芸エリアは5C棟地階の警備員室にご挨拶だ」
「俺達はやどかり祭実行委員ではあるが、本来はそれらのエリアでは部外者だからな。通報されんためにもきちんと面通ししておけ」
ああ、確かに。普段見かけない無関係な奴が勝手に講義室巡回して、写真撮って、メモして、備品に何か張ってるんだもんな。
うん、どこからどう見ても立派な不審者ですね。
「まあ、毎年のことだからな。きちんと挨拶しておけば、向こうもわかってるから大丈夫だ」
続いて筋肉先輩は中指をスタンダップ トゥー ザ ヴィクトリー。
「次に注意すること。現場確認を行うのは基本平日の講義時間、1限開始の8時40分から6限終わりの18時までだ」
「「……フォ?」」
「さっき言った通り、俺達は部外者だからな。本来、その施設が開いている時間中しか立ち入りはできない」
「「いやいやいやいや!」」
思わず俺達は顔の前で右手をブンブン振る。
「どうした? なにかわからなかったか?」
純粋な疑問顔、筋肉先輩。
「いえ、もっともですけど!」
「言ってる意味はわかりますけど!」
ただでさえ一ヶ月で現場確認しなきゃいけないのに、さらに時間制限付くんかい!
「俺達、講義あるんですけど」
内心の叫びをオブラートに包む俺はなんて大人なんだろう。
「俺達だってあるぞ」
肉だるまイズ スマイリング。知っとるわ!
「という冗談は置いといて、講義だって全部入ってるわけじゃないだろう?」
「それはそうですが……」
まあ、教職でも取ってない限り、大体六限は空いているし、ところどころ講義がない時間もある。
しかし、あるとは言っても1年の俺達は必修も多く、正直空きは少ない。だから、講義時間中しか現場確認をできないってのは正直キツイ縛りだ。
「大丈夫だ! いざとなれば昼休みもあるしな」
昼休みは昼食を食べる時間だよ!
「あと、どうしても間に合わなければ、体芸エリアは土日に警備員さんに頼み込めば、現場確認可能だ」
「日本って週休二日制じゃありませんでしたっけ?」
年功序列に厳しい男子校卒ダサメンも流石に耐えかねてか、ついに口を開く。
「ハッハッハ! そんなのこの経済大国日本において一部のホワイト企業以外じゃ建前だぞ」
筋肉先輩、爽やかに言うことじゃないっす。
「……安息日ってご存じですか?」
俺は政治的観点でなく、宗教的観点に一縷の望みを託す。
「あいにく俺は無宗教でな」
肉だるまスマイリン、アゲイン。
神などいない。
もはや何を言っても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!
俺達は諦めに組んだ手の上に額を乗せた。
途中でやめてしまうから、無理になるんですよ。
僕もあきらめなければワナビー卒業できますかね、社長?
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