47 机・椅子担当略伝 本章
「さて、これは①だからな。そろそろ②の説明に移ろうか」
「「①ぃ!?」」
え、ちょっと待って!? これ①なの!? このレベルがまだいっぱいあるの!? 何番まであるの!? ……気のせいじゃなきゃ⑥までありますねっ!?!?
背筋を震わそうと、驚愕しようと現実は待ってくれない。
「②は企画割り当てだ。二週間後の企画説明会で参加団体に机椅子使用希望調査を配布する。それがさらに二週間後に出てくるから、その希望数に応じて、どこの講義室から机椅子を何個搬出するか、過不足が無いように割り振る」
動揺する俺達を置いてきぼりに、筋肉先輩は無情に説明を進める。
「ちなみに、その企画説明会での机椅子関係説明・注意、要望・苦情の受付、希望調査の提出確認・催促も当然、担当の仕事だ」
さらに肉だるま先輩はおかわりをよそい、付随する仕事を補足説明だ。
「「……はい?」」
大げさなリアクションをする余裕もない。二つ目にして早くも心が折られそうだ。
この二つ、やるの? 二ヶ月で? たった二人で? 入ったばかりの大学の講義受けながら? 初めての一人暮らししながら?
「まあ、そう焦るな。準備日までのメインの仕事は、これでほとんどだ」
わー、安心した……って、するか! 既にほぼ致死量だよ!
「あの、そうしますと、この③以降は?」
心で叫ぶ俺をよそに、戦慄に体を小刻みに震わすダサメンが尋ねる。
あ、それ聞いちゃう? 確認しちゃう? もう触れなくていいんじゃないかな?
「②までは準備日までの仕事と筋肉が言ったろ? だから③から先は、準備日以降の仕事だな」
肉だるま先輩が答える。
「その、準備日とは?」
ダサメンの追確認。
「やどかり祭が前夜祭と本祭からなることは知ってるな?」
肉だるま先輩、植物のように生きたい人が大激怒の質問に質問返し。
「はい」
しかし、悲しき年功序列。ダサメンは素直に頷くのみ。
「前夜祭は前夜祭だが、やどかり祭実行委員会にとってはそれ以上の意味がある」
肉だるま先輩ってもったいぶる時、ありますよね! なんて本人の前では、口が裂けても言えま10。
「前夜祭は夜から。そして、その前夜祭に向け、前夜祭当日の午後は全学が休校となる。祭りの準備のためにな」
なんて思ってると筋肉先輩の補足。
この二人って片方の話に相方が上手く補足を入れてくれるよな。こう言ってはなんだが、勝手知ったる夫婦のようだ……オエッ、想像したら吐き気が。
「つまりはそれが準備日というわけだ。俺達にとっては前夜祭よりもはるかに重要だぞ」
肉だるま先輩、それさっきの繰り返しっす。大切なことなので二回言ってますか?
「……その心は?」
触れたくないが、触れざるを得なそうなので重い口を開いてみる。
「②で机椅子の割り振りの説明をしたな」
筋肉先輩。
「「はい」」
俺達。
「それじゃあ、その机椅子の運搬はいつ行うと思う?」
肉だるま先輩。
え、そりゃ前夜祭にはもう使ってるわけだから、それまでには運んでて、午後が休校ってことは、午前は講義があるからオーマイガッ!
「そう。午後の間に全部行うわけだ。その運搬確認が準備日の前夜祭開始までの仕事だな」
ですよねー。
ハハハ。もはや渇いた笑いしか出ない。くじけそうな胸を突き刺す渇いた叫びは出ない。
「それが③だな」
③ですか。そうですか。まだ折り返し地点なんですね。フルマラソンの折り返し地点より遠く長い道のりそうですね。ようやく上り始めたばかりな果てしなく遠い男坂位遠そうですね。そうですね。
「④は前夜祭と本祭当日の動きだな」
へー、準備だけでなく当日もあるんですか。そうですか。
「当日は、お前達が貸し出す机椅子の使用状況確認だ」
はいはい、その心は?
「大学からの借用物である机椅子が破損等しないように適切に使われてるかの確認だな」
机椅子が破損することなんてある?
「特に気を付けなければならないのは、火を使う飲食物の販売企画だな」
あ、それは確かに危なげかも。
「机椅子の上でガスコンロを使うわけだから、当然そのまま使えば机椅子が焦げる。だからアルミホイル巻きのダンボール、その上にブロック、さらに上に鉄板。そうしてようやくガスコンロ等、火を使う調理器具を置くことができるんだ」
うわ、めんどくさ。
「毎年、この準備を面倒くさがり不適切な机使用を行う不届き者がいる。そのような不逞の輩は断固許してはならない」
あ、すんません。嘘っす。全然、面倒くさくないっす。今度は嘘じゃないっす。
「そのせいで見るも無残に焦げた机椅子が少なからず出てしまうからな。そんな哀れな犠牲者を出さないために、見回って不適切使用をしている輩には適切な使用方法を徹底させるのが本番での仕事だ」
ああ、要は見回りなのか。よかった、今までに比べれば楽そう。
……ってあれ? 祭りの見回りってことは俺達、祭りの参加は? お楽しみタイムは?
「⑤は後夜祭中の動きだな。後夜祭中に俺達総合計画局は、本部企画局の企画で作った机椅子の片付け等を行う」
後夜祭中? あれ、祭りの華、ステージ見学は? 大学の学園祭で男達がもっとも楽しみにしてると言っても過言じゃないミスコン観覧は?
「あ、あのステージ見学は?」
流石に流せず、恐る恐る口を挟む。
「何を言ってるんだ?」
「そんなものできるわけないだろう」
グワーン! と、頭をハンマーでぶん殴られたかのようなショックに思わずよろめく。
「やどかり祭実行委員会にとってやどかり祭は楽しむものじゃなく、作るものだぞ」
肉だるま先輩の容赦ない会心の一撃。わ、わかっていた。わかっていたさ……そんなことは。
「ま、まあ、ステージの机椅子も片付けるから、その時にちらっと位は見れると思うぞ」
血涙を流す俺達が流石に不憫だったのか、筋肉先輩が心ばかりのフォローを入れてくれる。でも、それじゃあミスコンのタイミングで見れるかわからないから意味ないじゃないか。
茫然自失。意気消沈。
俺達の心は、死んだのだ。
「あー、一応、最後まで確認するぞ。最後に⑥。これは片付け日の仕事だな。参加団体が机椅子をきちんと元通り片付けているか現場確認を行う」
祭りが終わっても仕事ですか。そうですか。
「とりあえずこれで一通り以上だな。必要な書類データとかは実行委員会室にある。詳細はおいおい確認していこう」
筋肉先輩が締め括った。
無。虚無。色即是空。
もはや何一つ言うまい。
あまりの仕事量。祭り参加、ミスコン観覧を奪われた悲しみ、苦しみに俺達は心を閉ざした。
「大丈夫か?」
「まったくどうしたというんだ」
気遣う筋肉先輩に困ったような肉だるま先輩。
しかし、俺達は言葉もない。
だって、壊れてしまいそうだったから。
心が。希望を期待する願望が。初めての大学での学園祭的なものに心躍らせていた、俺達新入生のピュアソウルが。
「うーむ、困ったな」
「言葉も出ないようだな」
「まったくシャイだな」
本当に困ってるんだか、困ってないんだか。巨漢二人は芝居がかって顎を摩る。
「うむ、こうなってはあれしかあるまい」
「ああ、閉じこもった心を開くもの」
「シャイな日本人が本音をぶつけ合うのに必要なもの」
巨漢タッグは不穏極まりない応酬の最中、机下に手を伸ばす。
「心の特効薬」
「酒しかあるまい」
当然のようにその手に握られた瓶が、ドンッと机上に重く乗せられた。
「「どーしてそうなるんですかぁーーーー!」」
休肝日明けの試練に、俺達は涙した。
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