41 俺達のユートピア
「ファアーア」
口元を抑えながら、俺は欠伸を嚙み殺す。
小鳥のさえずりが聞こえてきそうな、のどかな春の陽気。欠伸の一つも出ようというものだ。
「四日目にしてようやくまともに講義に出て来たな」
「まあな」
毎度の如く小うるさいブサメン金髪の絡みにも、今日ばかりは優しく応えられる。
「ようやく休肝日か?」
晩酌好きの中年オヤジに対する言いようみたいだな、ソフモヒゴリラ。
「いや、昨日も飲んだ」
「そうなのか? その割にはいつもと様子が違うが」
俺の答えにソフモヒゴリラは不可解そうに首を傾げる。
「昨日は大学生の真の飲み会だったからな」
「まったくだ」
思わず漏れた微笑交じりの俺の回答に、ダサメンも穏やかに頷いた。
「大学生の真の飲み会?」
何言ってんだとばかりに、ソフモヒゴリラがオウム返ししてくる。
「知らないのか? 大学生の飲み会を?」
ダサメンがフッ、と余裕たっぷり悦に入った微笑みを浮かべる。
うむ、実に気持ち悪い表情だが、気持ちは大いにわかるぞ。
「うら若き男女が共に酒を飲みかわすのさ」
「ああ。あれはいいものだ」
昨夜の飲み会に想い馳せ、俺達は遠い目で窓の外を見つめた。
「「「なにぃ!?」」」
耳うるさい三バカは無視して、俺はダサメンと微笑みを交わす。
「楽しかったな」
「ああ、楽しかったとも」
心ここにあらず。うふふと微笑みながら、魂は遥か遠く、昨夜の楽園へ。
ビールに缶チューハイ。いつも飲んでいる肺腑に沁みる酒とは異なる程よいアルコール。ほろ酔いの浮ついたテンションの中、男女が楽し気に戯れ合う。
ああ、ここが俺達のユートピア。心に思い浮かべるだけで、こんなにも幸せになれる。
「おい、どうする」
「人の幸福はドブの味。晴らすためには蜜が必要」
「もっともだ。となれば私刑しかあるまい」
「「異議なし」」
ヘブンぶち壊し。地獄の悪魔と見紛わんばかりのゴミ屑DQN共が、聞くも醜き嫉妬会議を始めている。
これはいかんと戦略的撤退を始める俺の両肩に、未だかつてない痛みが走る。
「おっとどこへ行くんだ?」
「よく考えれば、俺達まだ親交も深められてなかったな」
「相互理解には対話が不可欠」
気色悪い朗らかな笑顔と体のいい美辞麗句。それらとは裏腹な肩に食い込む握力の強さが、悪魔共の本性・本音を如実に物語っている。
隙を見せれば殺られる。
「あ! 八代が逃げるぞ!」
「きさまぁ!」
「「「なにぃ!?」」」
ダサメンを囮に、注意が逸れた瞬間、俺は肩の圧力を振り払い全力ダッシュ。
「逃げるな、裏切者共!」
「そもそも仲間になった覚えもないわ!」
追い縋る悪鬼共を振り切り、講義室の扉を開けようとするも、
「低能の行動パターン等、予測済み」
「「なにぃ!?」」
いつの間に回り込んだのか、モヤシがその前に仁王立ちしている。
「どけっ! このもやしっ子が!」
「ぐふぅ!」
しかし、所詮はひ弱モヤシ。一撃で払いのけ、扉の取っ手に手をかけるが、
「そう、はしゃぐなよ。モヤシ共」
しかし、扉はビクともしない。なぜなら瞬時に追いついてきたソフモヒゴリラが、片手で扉を俺達とは逆方向に引いているからだ。
バカな!? こっちはダサメンと二人掛かりだというのに!?
「よくやった、松本」
類人猿の膂力に恐れなす俺達の前、進撃のブサイクがパキポキと両手の指を鳴らしながら迫りくる。
「「クッ!」」
何とか活路を見出そうとする俺達だが、
「逃がさない」「大人しくしろって」
ひ弱モヤシが足に纏わりつき、怪力ゴリラは肩を押さえつけてくる。
万事休す! 死の予感に冷たい汗が背を流れる。
「なにバカやってんの」
世紀末救世主、爆誕。
荒廃とした嫉妬の世界に、一輪の華? が舞い降りる。
いつでもどこでも変わらぬ突破力に定評のある七瀬葵が、醜き嫉妬マン三人に臆することもなく、俺達に歩み寄ってきた。
「え、えっと」
「ちょっとこいつらには用事が」
「俺達、これから親交を温めるところなんだけど、一緒にどうかな?」
どもり、言い訳、まさかの誘いの三重奏。
「そうなんだ。でもゴメン。委員会の仕事あるからこいつら借りてくわよ」
そんなキモさ濃縮還元な三人を、七瀬は一切の躊躇いなくバッサリ切り捨てる。
「ほら、行くわよ」
そして一言。その頼りがいしかない背中で、俺達について来いとばかりに語る。
ヤダ、格好いい。
「「は、はい」」
トゥクンと高鳴る鼓動に身を任せて、俺達はその背を追うのだった。
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