40 決定
「一日置くってのはどうだ?」
肘から先だけを上げて、俺は提案した。
先延ばしにしか過ぎない提案。ただ、煮詰まってる今、どうこうしようとしたって仕方ないだろう。
「そうだな。ここでこれ以上考えてもどうしようもないだろ」
「時間を置けば、ふとした拍子にヒントやアイディアが浮かぶかもだしな」
答えが出ない以上、仕方なし。ぽつぽつと賛成の声が上がる。
まあ、時間がないったって、一日位の猶予はあるだろ。と思ってたんだが、
「ゆず。言いたいこと、あるんじゃない?」
俺と同じくゆずちゃんのモジモジとした態度に気付いたらしい七瀬が、もはや恒例のようにゆずちゃんを促す。
「俺は手詰まり。ゆずちゃん、なんでもいいんだ。教えてくれよ」
ただでさえ、自分から言うタイプではないゆずちゃん。俺の作った先延ばしの空気の中では発言しづらいだろうから、その提案者である俺が率先して、ゆずちゃんに水を向ける。
それで口を開こうとして、それでも皆の視線にビクッと身を震わせたゆずちゃんの肩に、ダサメンが手を置いて不自然なスマイルを浮かべた。
それを見たゆずちゃんは思わず吹き出し、慌てて表情を繕う。……むがつくがナイスだ、ダサメン。
「あの、一つの大きな貝殻に、沢山のヤドカリが入ってるデザインはどうでしょうか?」
ゆずちゃんの提案に、全員がポカンと口を開けた。
「アハハッ!」
そんな中、一人のおかしくて堪らないといった笑い声が響き渡る。
「いい! それいい! 凄くいいよ!」
皆が向きなおれば、議論の中心の輪にいたデザイナーであるところの夏海ちゃんが、お腹を押さえ、目端に涙を浮かべながら、ゆずちゃんの提案を大絶賛していた。
「そうだよね。寮っていう一つの住処の中に、沢山の新入生が入るんだもん。そうするのが自然だよね」
ゆずちゃんに向かって歩み寄る夏海ちゃんの言葉に、多くの人間がハッと顔を上げた。
そうだ。俺達は勘違いしていた。
これはどんな神輿のヤドカリを作るかじゃない。神輿を通して、何を伝えたいかだ。
「それなら、先輩のヤドカリが新入生のヤドカリを喜んで歓迎してるのがいいよな」
思わず笑いながら、俺は思いついたままを口にしてみる。
「それいい!」「それいいですね!」
いよいよ正面で向かい合った夏海ちゃんとゆずちゃんが同時に振り向いて声を揃え、そのことにお互いがキョトンと顔を見合わせ、吹き出す。
「当然、先輩ヤドカリも新入生ヤドカリも楽しそうに笑顔よね」
七瀬も笑いながら乗っかってくる。
「いや、新入生ヤドカリは不安そうな奴もいるんじゃないか?」
八代は人見知りらしい意見を上げてくる。
「そうだね! いろんなヤドカリがいるよね!」
夏海ちゃんは増々楽しそうに声高らかに返す。
「で、その全員のヤドカリの不安を吹き飛ばすような楽しい神輿にしたいよな」
さっきまでの困ったようなものでなく、心からの笑顔をAは見せる。
「でもそれ、キメラみたいな感じで気持ち悪くならないか?」
本気で否定してるわけでなく、思いついてしまったといった様子でモブなんとかは少し困ったように顎をさすった。
「任せて! そこはデザイナーの腕の見せ所♪」
ニッと頼もしく夏海ちゃんは力こぶを作って見せる。
「貝殻四つてどうよ? 寮は一の矢、平砂、追越、春日の四つだろ?」
「それありだな」
「なんかいよいよ神輿として複雑怪奇だな。設計大変そう」
そこらで皆が勝手気ままに意見を上げる。
「いいねいいね!」
そのすべてに夏海ちゃんは楽しそうに賛意を示して、
「大丈夫、任せて! コンセプトさえ決まっちゃえば、後はデザイナーの仕事だから!」
ドンッと適度な大きさのお胸様を叩いた。
そんな頼もしい彼女に皆が歓声を上げ、拍手を送った。
「よし、それじゃ、あとは任せたぞ。夏海」
「かしこまり♪」
Aのまとめに夏海ちゃんはちょこんと敬礼を返す。
「よっしゃ、それじゃコンセプト決定祝いで飲むか!」「それな!」
楽しい気分のままに思わず俺と八代は声を上げ、
「「「「「えっ?」」」」」
全員が不可解な声を上げ、後退った。
……え? 俺達そんな変なこと言いました?
「いや、お前らのあの感じで飲むのはちょっと」
「あの飲み方には付いていけねーよな」
「ホント総計の飲み方って頭おかしい」
「や、こいつらと一纏めにしないで」
裏切りの武士。
「初っ端からあの暴れよう、ヤバくね?」
「酒で問題起こしてニュースになる奴らってこういう奴らなんだろうなって」
「「!?!?」」
自分達への驚愕のファーストインプレッションに、俺とダサメンは衝撃を受ける。
「私達もちょっと遠慮したいです」
止めとばかりに、大人しそうな女子sにまで言われてしまう。
「「ご、誤解だー!!!」」
必死な涙の訴えをする俺達の前、皆が俺達を指差し大爆笑していた。




