34 モチーフ
「そもそも勝ち負けって何で決まるんだ?」
モブAがもっともな疑問を呈した。
「大きさこそパワー。神輿なんてでかいほうがいいに決まってる」
対して、まさかの人見知りダサメン。
こいつ、マジで負けず嫌いなのか。また一つ、つまらぬ情報を得てしまった。
「間違いないわね。ただ、大きさの規制あったよね?」
と七瀬。
「あるねー。道幅と入場ゲートがあるから、それを通れる大きさまで。高さが担いだ人間いれない神輿単体で三メートル、縦横はあの担ぎ棒の長さまでだから担ぎ手の持ち範囲を考えれば神輿挟んで左右縦横各二メートルってとこかな」
ナイス情報。ところで君、誰? モブCだっけ?
「それじゃ、その限界までだな!」
猿、声うっさい。
「うーん、でもそれだと高さが高いから倒れやすいかも」
可愛い子、君の名は?
「そうだね。できるだけ大きいほうがいいのは賛成だけど、デザインにもよるんじゃないかな?」
モブH。
「そうだな。大きさはできるだけ大きくって方針で、やっぱり肝心なのはデザインになってくるか」
大きさ論争をモブAが一旦締め括り、当初話題のデザインに。
「モチーフの話はどうする?」
モブAとおバカ猿をそれぞれ見て、俺は尋ねる。
「「あー、それは」」
ハモリながら、モブAと猿までもが珍しく言い淀む。
モブAは猿の手前言いづらく、猿はさっきの流れ上、主張しづらいといったところか。
「ヤドカリがいいと思います」
予想外なことに、小さな声は俺の傍らから上がった。
主張の主はゆずちゃんだった。しかも、珍しく断言調で。
思わず俺はゆずちゃんを凝視してしまい、俺だけでなく、みんなの視線も受けたゆずちゃんは赤面し俯いてしまった。
「大丈夫。ゆず、言ってみて」
そんなゆずちゃんの後ろから療肩に手を置いて、七瀬はこれまた珍しく優しい声を投げかける。そうすればやはり小動物ちっくにゆずちゃんはあたふたするが、やがてゆっくりと息をすーはーすーはー。
大丈夫だよ、ゆずちゃん! 頑張って! 俺達がついてるよ!
「やどかり祭はもともと新しく寮に入った新入生を歓迎するためのお祭りで、その新入生たちを模してヤドカリっていう名前がついたって聞きました」
まったくその通りの話をさっき細メガネ先輩が言っていた。
「ヤドカリのモチーフには意味があると思います。先輩達が変わらず続けてきて、大切にするだけの想いが」
ゆ、ゆずちゃん!
胸の前で両手を握りしめて精一杯主張するゆずちゃんの気持ちに涙を禁じ得ない。
――でもまあ、そういうことだ。このお祭りはまさにそういう想いから始まってるから、やどかり祭なんてちょっと変わった名前をしてて、まさにそのお祭りを守り続けてる実行委員会はヤドカリをモチーフにした神輿を今までもずっと作り続けてるんだ。
それはきっと、簡単に変えてしまっていいものではない。
「うん、そうだよね」
柔らかく、華が綻ぶように七瀬はゆずちゃんに微笑みかけた。
な、なんだ、その似合いもしない表情は。びっくりするじゃないか。
「そういうこと。だから、よっぽどの理由がなければ、変える意味はないわよね」
ゆずちゃんを守るように、庇うように、その前に立って七瀬は宣言した。
そしてその宣言を向けられたおバカ猿は、気まずそうに視線を逸らした。おお、猿にも空気が読めたのか!
……とか思ってたら、なんだお前? なんで顔赤らめてんだ? チラチラゆずちゃん見てないか、あの猿?
アアン!? なに猿の分際で色目使ってんだ!? 俺達のマスコット、ゆずちゃんに手出したら殺すぞ!?
「ま、そりゃそうだ。皆、それでいいか?」
俺が殺意の波動に身を焦がしていると、モブAが場の取りまとめに入っていた。というかここまで目立ってれば、モブもくそもないな。おめでとう。モブAは新入生Aに進化した。
で、当然、この空気の中、反論する奴はいない。空気お構いなし猿ですらあれだからな。そりゃそうだろう。
「んじゃ、モチーフはやどかりに決定だな」
「意義なーし」
新入生Aの結論に、モブHが諸手を挙げて賛同した。うん、君もモブ卒業、新入生Hね。
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