26 総合計画局へようこそ♪
キーンコーンカーンコーン。
「「……」」
終業のチャイムが、遠く頭に痛く響き渡る。
「お前ら、色々正気か?」
声なき屍。それが俺達。
もはやブサメン金髪の声等、ハエの羽音に等しい。
「新入生にして二日連続遅刻&気絶。恐ろしい集まりだな」
「これがトラップにかかった愚かな生物の末路」
ソフモヒゴリラと細モヤシも以下略。
「あー、関わりたくもないんだけど、マーサ先輩に頼まれてんのよねー」
「「「!?」」」
昨日久々に聞いたが否応なく昔から聞いてる声が、頭上から降ってくる。
「だ、大丈夫ですか?」
昨日はじめましてな優しい癒し声。
「ほら、行くわよ。やることいっぱいあるらしいから」
「が、頑張ってくださいー」
二つの声に文字通り手を引かれ、俺達は幽鬼の如く歩き始めた。
「「「どういうことだー!」」」
喧しい三バカの雄叫びに背を押されながら。
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「さて、お前らに集まってもらったのは他でもない」
1C棟3階の談話スペース。
長椅子にどっかりと二人分程度のスペースを専用しながら巨漢、筋肉先輩が腕を組む。
「加入の意思確認だ」
机に突っ伏す俺とダサメンの無礼も気にすることなく、筋肉先輩は一方的に話を進めた。
「1にやどかり祭実行委員会への加入の意思確認」
ピッと人差し指を立てる。
「2に総合計画局への加入の意思確認」
ピッと中指も立てられる。
さあいかに! といった先輩方の視線。
「それって、もう決めなきゃいけないんですか?」
肉の壁にも物怖じしない女、七瀬。真向率直ストレート返球。
こいつに遠慮や物怖じという名のストッパーは存在しない。
「うむ。正直に言えば、最終決定まではまだ期限がある」
と、筋肉先輩。
「新歓もまだまだ終わってないし、あと二週間は余裕があるかな」
オーマイマザー。
「それじゃあ、なんで今聞かれてるんでしょう?」
まあ、これは七瀬勇み足ではなく、当然の質問か。
「早く決めるほど、後が楽だからだな」
肉だるま先輩。
「というと?」
本格右腕速球派。味方につければなんと頼もしいことか。一年側の確認はお前に任せた。
七瀬、君に決めた!
「知っての通りやどかり祭まで残された期間は二ヵ月ない」
「……あー、なるほど」
筋肉先輩の一言で理解したというように七瀬は頷いた。
頭痛が痛い状態な俺は頭が追い付かないので、? を頭に浮かべながら七瀬を見やる。
「相変わらず仕方ない奴ね」
呆れたように嘆息しながらも、七瀬は続けてくださる。
先生、よろしくお願いします。
「やどかり祭をやるっていう仕事も、そのために必要な準備も、それまでの期間も決まってる。となれば、仕事を始めるのが遅ければ遅いほど、自分の首を絞めるはめになるのは目に見えてるでしょーが」
あー……、そりゃ確かに。
「そういうことだ。理解が早くて助かる。だから、必ずしも今決める必要はないが、もしもう意志が決まってるなら、仕事の話も進めてしまいたくてな」
言ってることはわかったが、正直まだ何も決めてない。
どうしたもんかと一年組の反応を伺うも、ダサメンは俺と同じくKO状態。昨日初対面な七瀬セットの小動物愛くるしい女子もオドオド困った様子。
「それじゃ、私は入ります」
漢、七瀬。即断即決。
なんという潔さ。お前は武士か。
「いいのか?」
流石の筋肉先輩も驚いたのか、再度の確認をしている。
「マーサ先輩と一緒に活動したいなとは思ってたんで。今更、断る気もなかったですし」
サバサバと七瀬は答え、でも、と一回区切る。
「ゆずはどうする?」
七瀬に目を向けられたゆずちゃん? が止まる。
みんなの視線が集まって、さらに慌てたように俺達の哀願小動物ゆずちゃんは顔を赤くする。
そんな彼女を見て、フッと七瀬は笑った。
「バカねー」
ツンとゆずちゃんの額を七瀬は小突く。
「誰も今決めろなんて言ってないし、強要する気もない。まだ決まってないなら、ゆっくり考えればいいのよ」
イケメン七瀬はそんな風に言って、でも、と付け足した。
「私は、ゆずと一緒にできたら嬉しいかな?」
イケメンスマイルに、ゆずちゃんの頬に朱が差す。
え、何この天然たらしホスト。
しばしの無言が流れた後、意を決したようにゆずちゃんが頷く。
「私も入ります」
おおー、と先輩方が喜びに浮かれるも、
「嬉しいけど、本当に大丈夫? 気、使ってない? ゆず自身が決めていいんだよ?」
先輩方の歓迎ムードお構いなしに、七瀬はゆずちゃんの意思を確認する。
何この漢。イケメン過ぎやしませんかね?
でも、そもそもこう答える空気にしたのもお前じゃね? まさかのマッチポンプ作戦?
……まあ、こいつに限ってそれはないだろうから、ただの直球派バカなだけか。相変わらず変化球のない男だな。そーいうのはチョイ悪キャラより女子受けしないんだぞ。
「ううん、大丈夫」
しかし正統派哀願小動物ゆずちゃんは柔らかく、
「私が葵と一緒にやりたいから」
花が綻ぶように笑った。
「……そっか」
それを受けて、七瀬もイケメン面に女子らしい優しい微笑みを浮かべた。
なんだ、このYes百合キュアな空間。
「で、あんたらはどーすんのよ?」
柔らかスマイルプリ〇ュアから急転直下ダークサイド堕ち呆れ面七瀬は、机に突っ伏す俺達に確認してくる。
どーでもいいけど、なんでお前が仕切ってんだ? ここには先輩もいるんだぞ! 先輩の面子と立場も考えろよな!
特に意味はないがなんか癪だったので、内心で七瀬を罵ってから、思考を巡らす。
正直なところ、まだ何も決められてない。
というか、日々飲んで飲んで飲んで、死んで死んで死んで♪ 終わってたので、何も考えていない。そもそも意識がなかったし。
となれば、結論を先延ばしにするのが正しい気もするが。
「お前、なんで入るって決めたんだ?」
とりあえず、眼前で結論を出した七瀬が、どうしてそうしたのかを聞いてみたくなった。
「話聞いてなかったの? マーサ先輩と一緒に活動してみたいって思ったからよ」
戦慄に身が震える。
確かにマイエンジェルの存在は委員会所属を決めるには十分すぎる決定要因だが、まさかマーサ先輩? と同性のこいつまでマイエンジェル狙いとは。哀願小動物ゆずちゃんだけでなく、年上スレンダーエンジェル先輩まで行けるのかこいつは。女なら誰でも来いとは、流石の漢だ。
「あんた絶対ろくでもないこと考えてるでしょ」
「いや、いいんだ。皆まで言うな」
それ以上何も言わなくていいと、俺は首を横に振って七瀬の言葉を切る。
いかにアイアンハートなこいつとて、あえて皆の前でセクシャルマイノリティなことを宣言する必要はあるまい。中高一緒でそんなことも気付いてやれなかったとは。己の不明を恥じ入るばかりだ。
「限りなくどーでもよさそうだけど、とりあえずあんたの考えてることは違うって言っておくわ」
「ああ、ああ。そうだろうとも」
「そこはかとなくむがつくわね」
うんうん頷く俺の何が気に入らないのか。七瀬は俺の頭にチョップをかましてくる。
なにすんだ、親父にも殴られたことないのに! 母親にハエ叩きで叩かれたことはあるけど。
「で、あんたらはどーすんのよ。今更、入らない理由もないでしょ?」
いや、めがっさあるけど? 委員会お堅い面倒、説明聞いた段階で厄介臭激おこぷんぷん丸。
と思いながらも賢明な俺は、先輩方の手前口には出さない。
しかしそれも決定的な反証ではなく、マイエンジェル&マザーの存在でお釣りがくる。それに既に散々タダ酒で世話になってもいるし。
……本当に世話になっているのか?
学生の本分を全く果たさなかったこの二日を、いまだ痛む頭で思い起こす。二日間の思い出が二日酔いしかない。ははっ、二日酔いなんだから当たり前か。
あれ、アルコール分解で余計な水分なんかないはずなのに、どうして涙が溢れるんだろう?
耐えがたき涙を耐え、忍び難き後悔を忍び、俺は思考を切り替える。
入らない理由はない。……ない? いや、あるけど決定的な理由もない。
反面、入る理由もない。……否。 決定的要因マイエンジェル&マザー。ふむ。
「バカのくせに理屈で考えすぎじゃない?」
七瀬が失礼極まりない暴言を吐く。
まったく俺のどこがバカだというのか。いつ何時何分何秒地球が何回回った時、俺がバカってことになったんですかぁ? 言ってくださいぃ。
「うむ。他にやりたいことがあるなら邪魔するつもりはないが、やるもやらないも理由がないならとりあえずやってみればいいんじゃないか?」
「そうだ、そして俺達と楽しくやろうじゃないか」
真っ当な筋肉先輩に晴れやか笑顔な悪魔だるま先輩。
うっ、頭の痛みが。
残念な、あるいは反対に嬉しいことにか入会の方向を理屈は示唆していそうだが、本当にそれでいいのだろうか?
この頭痛と単位にかけて!
「大学生活って本当に自由なの」
なんて、いまだ悩んでたらマイエンジェル。
「高校生までと違って口うるさい先生もいなければ、大半が一人暮らしで親の目もない。本当に強制されることが減って、自分で自分の生活を決められるの」
マイエンジェルは、いつもの可愛くキュアキュアな様子でなく、どこか年上の先輩らしい風格を纏っている。
「何をするのも自由なのが大学生活。何をしたって、しなくったって時間は平等に過ぎるの」
そんなエンジェルが、だったらと、
「何かしてみたほうがいいと思わない?」
ニッと今まで見せたことのない笑みを浮かべた。
それは今まで見せてくれた美人エンジェルスマイルとは違ってどこか力強かった。
けれど、どこか生命力というか、躍動感というか、力強さがはち切れていて、確かに彼女の言う通りなんだろうと思わせてくれる魅力に満ち満ちていた。
「確かにそうかもしれませんね」
だから、我知らず俺も笑っていた。
ホントにバカげた二日だった。酒を飲んで飲んで飲んで、死んで死んで死んで潰れただけ。まったくもって時間の無駄だ。
ただ、もしここに来てなかったら俺はどうしてたんだろう?
三バカとそれこそ何の役にも立たないクソ会話をしてただろうか?
普通の大学生らしく、キチンと講義を受けて、三バカ以外の誰かとも仲良くなったりしたんだろうか?
結構だ。全くもって結構なことじゃないか。学生の本分と言ってもいいだろう。なんら瑕疵のない綺麗な日常。
でもそんな何でもない学生生活は、中高と今まで嫌っていうほど送ってきたんじゃなかっただろうか?
「新しい世界が見れると思ったから」
唐突に口を開いた七瀬を思わず見返す。
「私がマーサ先輩と活動してみたい、ここに入ってみようって思ったわけ」
投げやりなような、それでいてどこか気恥ずかしげな様子で、七瀬は顔を背けた。
こいつのこんな顔、初めて見た気がする。
「そうか」
力が抜けた。
そうだ。ホントにこいつの言うとおりだ。俺はなにを七面倒くさく考えていたんだろう。
「「入ります」」
自然と口から出た答えが重なった。
きょとんと横を見れば、同じく間抜けな顔を浮かべたダサメンが一人。
思わす、噴き出した。
こいつのこんな素の顔、初めて見た気がする。
「真似すんな」
「お前こそ」
初めて、俺達は力の抜けた感情を重ね合った気がした。
「四人ともありがとう」
マザーも心から嬉しそうに笑っている。
「それじゃあ、これからよろしくね」
エンジェルはやはりどこか力強い笑みを浮かべている。
「こちらこそよろしくお願いします」
「します!」
七瀬も殊勝に頭を下げ、ゆずちゃんも続いている。
「「よろしくお願いします」」
それに俺達も続く。
「おう! 総合計画局へようこそ!」
「よろしくな!」
筋肉先輩と肉だるま先輩も今まで一番のスマイルを見せてくれた。
ハッハッハ! とばかりに場は騒々しい歓声に満たされる。
「さて。それじゃあ、今後の話もこれからしていくわけだが」
「何ですか、先輩?」
ハハハと和やかな気持ちで問い返す。
「「まずは入局祝いだな!」」
机の下から引き出された巨漢先輩タッグの手に、見慣れた琥珀色のビンが握られていた。
「「三日連続はイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーー!!!」」
悲鳴上げる俺達の前、先輩方の凶悪な口角が、心からの喜悦に吊り上がっていた。
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