22 部局紹介
「おっしゃ、了解!」
女性の呼びかけに、一瞬でうるさそうと思わせる声が廊下から飛び込んできた。
続いてズンズンとやけに存在感のある大男を筆頭に十人程度が壇上に進んでいく。
「こんばんは!」
教壇に立った先頭の男の元気にやかましい挨拶が、まったくもって二日酔いに心地悪い。
「俺達は本部企画局だ! 祭りの華と言えば皆、何を思い浮かべる?」
デカい声に高いテンション。
こっちのモチベーションは付いて行ってないので気にせず続けてプリーズ。
「そう、イベントだよな! ミス、ミスターコン、有名人のステージ、花火にお化け屋敷! ま
さに俺達こそ祭りの華!」
あー、確かに大学の学園祭って言えばステージイベントのイメージ。
ミスコン、有名人ステージがメインイベントだろう。
「祭り好きの新人諸君、是非俺達と一緒に本部企画局でイベントを作ろう!」
〇〇〇で僕と握手!
みたいな感じの締めを終えて、ようやく喧しかった一つ目の集団が掃けていく。
入れ替わりで次の集団が壇上に。
「こんばんは」
今度の代表者はこちらの反応を待つことなく、淡々と話を進める。
「僕達はステージ運営局。名前の通りステージの運営をする。それこそステージの建設から、出演団体と調整してのタイムテーブル作成、PAや照明の手配、当日の回しまでね」
裏方、舞台屋みたいなもんか。
さっきの局に比べると地味かなーなんて思ってると、まさにその廊下のさっきの集団の方を見やって、
「イベントバカは大雑把な脳みそしてるから、そこら辺がまるでダメ。だから僕達まともな側がキチンと抑える必要があるんだ」
ざわざわ ざわっ。
お、おう。
イベントバカって一体誰のことを言ってるんですかね? まさか同じ委員会の仲間のことなわけないよね? きっと外部のステージ参加団体さんのことかな? それも感心しないぞー。
「猿回しの猿じゃなくて回す側の人間になりたい新人は、是非僕達と一緒に本企猿を回そう」
ド直球キタ―――(゜∀゜)―――― !!
怖い怖い! インハイストレートやめて! アウトコースとか変化球とかオブラートとか色々あるじゃないですかぁ!
案の定、扉外で揉める声が聞こえてくるが、前に腰掛ける先輩方は皆無視。うるさいから扉閉めよっかと単調に話はまとめられ、次の集団が壇上に。
え、何この集まり? 色々大丈夫?
「こんばんは、総務局です」
戦慄する俺をよそに、教壇に初の女性が立つ。
「私達は、多分皆が総務って聞いてイメージする人事とか委員会内の取りまとめとかと違って、やどかり祭実行委員会の総務です。そのやどかり祭実行委員会の総務って何かって言うと、参加団体との懸け橋です」
何人かが首を傾げる前で、女性は優しく続ける。
「見てもらったとおり、やどかり祭はとても大きなお祭りです。あんなに大きなお祭りは当然、私達だけでは作り上げられません。大学内の幾つものサークルや学類が、出店や様々な企画を実施しています」
あー、高校の学園祭で部活とかクラスそれぞれが出店してるのと同じイメージか。
「その人達の参加受付や問い合わせの窓口が私達で、参加団体に対するやどかり祭実行委員会の顔とも言えます。あと参加団体向けのマニュアルも作ったりするから、人を相手にするのが好きな人、事務仕事が好きな人とかはぜひうちに来てくれると嬉しいな」
和やかにまとめて壇上を去る。
ああ、さっきまではどうなるかと思ったが、ようやく癒しが。なるほど、委員会の顔とはよく言ったものだ。先程までの全力インファイ組に対して人当たりがマイルドで素晴らしい。
「広報宣伝局だ。俺達は読んで字のとおり、やどかり祭実行委員会の広報宣伝部隊だ。イベントごとの広報の重要性は言わずもがなわかるだろ? しかも今のご時世、その媒体は多種多様。工夫次第でゼロから百も生み出せるクリエイティブな分野だ」
なんかいかにも頭いいですって感じのインテリメガネさん。
「まあ、仕事柄機械類は使えるに越したことはない。来場者向けのパンフレットも扱ってるがそれだって基本はパソコンでデザインだしな。技術力と発想力、それがある、もしくは磨きたいってやつは来てくれや」
特に問題もなくサクサク進んでいい感じだ。やっぱ最初の二つが異常だったんだな。
「こんばんは。推進局です」
二人目の女性プレゼンター。
マイルド路線継続いいですよ。パシフィストの俺としては大歓迎。
「私達は局名から仕事がイメージしづらいと思うけど、参加団体の活動を推進するって思ってもらえればと思います」
その心は?
「出店の多くは飲食関係です。となると当然、衛生上の問題が出るので保健所の手続きが必要になります。他にも出店のテント、ガス、調理器具についてレンタル業者との契約とか。そういう手続きを参加団体の代りに一括で請け負って、参加団体に提供することで参加団体の敷居を下げると共に活動を推進します」
なるほど。
「衛生問題とか大学外との交渉もあるから、最初のお祭りバカみたいなのじゃない繊細な人は是非うちに♪」
あれれー? おっかしいぞー?
君もインファイトが大好きなフレンズなんだね!
……一言多いよぉ! どうしてみんな喧嘩売りたがるの!? それでも優しい世界が欲しいのにぃ!
案の定、揉める講義室外を置き去りに舞台は進む。進む……があれは。
「総合計画局だ!」
ムンとど太い腕に力こぶを作る筋肉には嫌に見覚えがある。見覚えしかない。
「俺達は総合的に計画を行い、当たり前の学園祭を作り、当たり前の日常を戻す」
言っている意味はわからないが、巨漢タッグが俺達に気付いて視線を送ってきた気がするので目が合わないよう俯くしかない。
「具体的に言うとライフラインだ。祭りの時は出店配置、電気、ゴミ処理等、普段の何倍ものインフラが必要になる。その供給を限られた資源から計画、運営し、学園祭が終わった後は何事もなかったかのように元の日常に戻す」
イエスサー。ガタガタ震えながら、筋肉先輩の仰ることをお伺いする。
「人間社会の当たり前は凄いもんだ。目に見えなくても、それがなきゃ生活を送ることなんてできない」
肉だるま先輩の声まで聞こえるもんだから、そりゃもうイエスイエス。
「表に出ない当たり前を支えることこそ俺達の誇り。力持ちな君は是非総合計画局へ」
終わった。
安心して顔を上げれば巨漢タッグのにこやかな笑顔。ヒィッと顔を背けようとするもその巨漢二人の傍らにマイマザー&エンジェル。おお、なんという天国と地獄。
「渉外局だ。俺達は読んで字の通り渉外を行う」
俺が天地魔闘に悶え苦しんでいる間にも、舞台は入れ替わり、次が始まっている。
「その一番の内容は資金調達。地元の企業と折衝し協力金を集める。他にも祭りで使える物品とかあればそれも頂戴する。そういう仕事をするところだ。総務局を大学内に対する委員会の顔だとすれば、俺達は大学外に対する委員会の顔だ」
こちらは特に他意は無さそうだが、廊下の総務を示してか親指をクイと引く。
「結局あいつらが何言ったところで、資本金がなきゃ何もできやしない。それを集めることをやってみたきゃうちに来い。あと二年次に財務局行きたきゃうちが王道ルートだ」
ハハッ、他意くん見―っけ! まーたやってら。
ここまでくると、これがこの集団の平常運転だと嫌でも理解する。ホントいい集団だなー(棒)。
そんな言いたい放題、七つ目集団も出ていった。
何というか、濃い。情報量も多いが、それ以上にくせが凄いじゃない。
「さて、一年生が入る七つの局は以上だ」
沈黙の細メガネさんが再稼働。
「以上がやどかり祭実行委員会の部局説明。あとは帰るもよしだけど、さっき紹介をしたメンバーが講義室内に残るから、よければ自分の興味のある局について個別に聞いて行ってもらえれば嬉しいかな」
細メガネさんの宣言と共に、廊下からズラズラと先輩方か入室してくる。
「それじゃあ、解散」
細メガネさんはそう告げると、小気味よく両手を叩いた。
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