繁忙期とお休み7
『新たなる訪問者よ。何故影を負う』
今日も1番最初にやってきたお客様である魔王さんが開口一番にそう言った。
果物カゴを受け取ろうと手を半端に差し出している途中で、私はへへ……と笑う。
「ちょっと色々ありまして……すみません。朝イチから辛気臭いですよね」
『汝の言動は窘めぬ』
怒ってないけど、ってことかな。
魔王さんは優しいので、テンション低い私を心配してくれているのかもしれない。今はバイト中だ。もうちょっとシャキッとしないと。
「お気遣いありがとうございます。あの、今日はパフェというかサンデーというか、そういうのを作ろうかと思うんですけどどうですか? こう、果物と他の甘いものを合わせた感じのヤツです」
魔王さんはしばらくじっと私を見ていたけれど、コクッと頷いてくれた。
もう生クリームは泡立てていたのでオッケーしてくれてよかった。
「生クリームト聞イテ来マスタ〜」
「うわっ!」
ドアがバーンと開き、ドアノブにしがみ付いたド派手な鳥が甲高い声を出した。私と魔王さんの視線を一身に浴びつつ、片足を上げてワキワキする。
「コンニチワ〜シノチャンダヨ〜」
「シノちゃんなんで……いや、いま他のお客様いるから」
「拙者ハネ〜生クリームマシマシデヨロ〜」
「何その喋り方」
ヨッコイショと言いながらドアの端をガシッと足で掴んで床に降り、そしてチャカチャカと歩いてくる。そして黒い靄が出ている魔王さんの近くまで寄り、黒い布をクチバシでグイグイ引っ張った。
「ネーチョット持チ上ゲテヨ〜」
「シノちゃんっ! 私がやるから!」
紫の光でジーッとシノちゃんを見下ろした魔王さんは、私がカウンターを回り込む前に黒い手を1本伸ばし、シノちゃんを指に乗せてカウンターまで運んでくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「モット優シク運ンデホシイカナ〜シノチャン繊細ダカラネ〜」
この鳥ちょっと黙ってろという気持ちを込めて、私はスカイブルーの鳥をひっ捕まえて大きく黒いクチバシを押さえ込んだ。
「あの、すみません、シノちゃん……死の鳥さんも一緒でいいですか」
「シノチャンダヨ〜ヨロ〜」
コクッと頷いた魔王さんが、シノちゃんのふざけた態度にも怒らない器が大きくていい人でよかった。
オウムを抱えながらキッチンに行こうとすると、腕の中から「キッチンニ動物入レチャダメダヨネ〜」と窘められた。正論だけど、シノちゃんに言われると腹立つのは何故だろう。
「シノちゃん、大人しくしててね、迷惑かけちゃダメだよ」
「生クリーム多メニシテネ〜」
「大人しくしてないと生クリームなしにするからね」
カウンターに載って片足をワキワキさせているシノちゃんが心配だけれど、ぐずぐずするより早く作って持っていった方がよさそうだ。
冷蔵庫に入れてあった生クリームとマンゴー、そして冷凍庫からアイスクリームを取り出す。
パフェを入れるグラスとかそういうのはないので、大きめの蕎麦猪口を使うことにした。シノちゃんは小鉢。
賽の目切りしたマンゴー、コーンフレーク、生クリームを入れ、お気に入りでうちに常備してある杏仁豆腐アイスを載せる。さらにマンゴーと生クリームを足したら完成だ。
鳥であるシノちゃんがアイスを食べていいのかわからなかったので、小鉢にはアイスなしで作っておく。
「できましたー…………何やってるんですか?」
なんかさっきと構図が違う。
まずシノちゃんがアーと口を開け、魔王さんの黒い人差し指を齧っている。特にそれを防ごうとはしていない魔王さんは黒い靄からもう一本腕を出して、そっちの人差し指から紫色に光るビームを出していた。ビームの先は、ドアの方。いつのまにか床から出ている巨大な手の人差し指と繋がっていた。
何このシュールレアリズム。
「パフェキター。シノチャンイチバンデカイヤツネ!」
「太るよ。シノちゃんはこれ」
「シノチャンフトッテナイ!! コレハエネルギー貯蔵庫ダヨ!!!」
「つまり脂肪じゃん」
シノちゃんがパフェにつられて魔王さんの指を放すと、魔王さんから出ていたビームも消え、手もすっと平らな床へと戻った。
「ハヤクハヤク〜生クリームガッツリ食べタイヨネ〜」
「シノちゃんスプーンいる?」
「イラナイ〜シノチャンハ鳥ダカラ〜」
「じゃあ魔王さん、これどうぞ。ここがアイスで冷たくて、こっちの柔らかそうなのが生クリームです」
散々鳥らしからぬ行動をしてみせるシノちゃんの前に小鉢をそのまま出して、魔王さんにはスプーンと共にパフェを差し出す。
スプーンを手に持ちじっと見下ろしていた魔王さんが、やがて生クリームをひとすくいしてパクッと食べた。
私も自分の分を食べる。生クリームのもったりした甘さとマンゴーの果汁が美味しい。アイスも一緒に食べるとさらに美味しいし、コーンフレークもザクザクしてていい。
「美味しいー」
思わず口に出すと、魔王さんがコクコクッと2回頷いた。その手は止まることなくパフェを掬って口に入れている。
パフェ、久しぶりに食べた。
フルーツやちょっとしたお菓子は魔王さんと一緒に食べたりしていたけど、こういうガッツリしたものは久しぶりである。生クリームを見つけてふと思いついたパフェだけど、作ってみると簡単だったしマンゴーが新鮮かつお高いせいでより美味しい。
シノちゃんの突然の乱入があったものの、やっぱりスイーツは元気が出る。
魔王さんは口数が少ないけど食べる速度で気に入ってくれたのがわかるし、シノちゃんはクチバシを白くしてがっつきながら「サイコ〜」と喜んでいる。その様子を見ながら食べると、より美味しくて気分が前向きになる気がした。
たった5分かそこらの出来事で、テンション低かったのが勿体ない。
魔王さんは優しいし、シノちゃんは意味わからないけど明るいし、このバイトだって楽しい。
変なこと思い出してるより、目の前のパフェに集中した方が何倍も得だ。
「オカワリッ」
「おかわりないよ。それ以上食べたら胸焼けするよ」
「大丈夫大丈夫〜シノチャン胃腸強イカラ〜ネエ〜オカワリ〜」
「マンゴーあげるから我慢して」
「生クリーム!!!」
「いやデカイ声出さないでよ」
仕方なく残った生クリームを持ってきてスプーン1杯分だけおかわりしてあげると、シノチャンは翼をちょっと浮かせて体を揺らした。喜んでいるらしい。
ふと見ると魔王さんがおずおずと蕎麦猪口を差し出していたので、そこにもクリームをおかわりしてあげた。
あとでサフィさんの分になる予定だった生クリームはなくなったけど、まあ気にしないでおこう。




