繁忙期とお休み6
ウェーブのかかった少しアッシュっぽいブラウンの髪に、少し垂れ目で優しそうな目元。色白で目鼻立ちがくっきりしている顔立ちと平均よりも高い背丈は、クォーターだからだそうだ。衣服もおしゃれだし、笑い方も掛けられた声も優しい。
けど、私はこの人が苦手だった。
「元気にしてた? 少し疲れてそうだね」
「……普通です」
目の前の人から目線を逸らし、カートの持ち手をぎゅっと握る。人目を惹く容姿だからか、通り過ぎた女性がちらりとこちらを見ていたのがわかった。
「連絡しても全然返事が来ないから、どうしたのかなってみんなで心配してたんだよ」
当たり前だ、返事どころか、バイト関係の人たちの連絡先は全部ブロックしていた。そもそも連絡すらできない。でも、そういうことを直接口に出す人じゃない。
「どこか体調悪かったの? 今は大丈夫?」
そうやって話しかけてくる声も態度も、本当に私を心配しているように見える。心から友達を気遣っているような優しさと言葉。
だからこそ、私は苦手だった。
同じように声を掛けられていた以前を思い出して、優しいそぶりを見せれば見せるほど苦しい気持ちになっていく。逃げ出したいのに、胸に言い表せない気持ちが膨らんで重くなったように動けない。
「お米買うなら、運ぶの手伝うよ。女の子には重いだろうし」
「いらない、です」
「遠慮しないで。バイトやめて気まずいかもしれないけど、俺は友達でいたいと思ってるから」
いつも何買ってるの? と尋ねながら、距離が一歩近くなる。
ぎゅっとさらに手に力を入れたとき、「テピッ」と声が聞こえてきた。
ハッとする。その瞬間に、ゆっくりだった世界が元の速度に戻ったような、急に呼吸ができたような気がした。
「結構です!」
勢い付いて出た声は、スーパーにそこそこ響いたんじゃないかというくらい大きくなってしまった。でもその勢いに乗ってカートを引っ張って距離を取り、そのまま通路を出てレジに向かう。一番空いてそうなところを目指してほぼ小走りでカートを押した。カゴを移動させた勢いに、レジのおばさんが目をぱちくりさせている。お願いしますと声に出すと、頷いて仕事を再開してくれた。
スキャンしてもらった商品をそのままリュックに入れさせてもらいながら、自分の鼓動が速くなっているのに気が付く。ドクドクと感じるその音に意識的に大きくゆっくり呼吸しながら、決済のためにスマホを取り出しつつ、そっとテピちゃんたちを見下ろした。
ショルダーバッグのチャックの間から、つぶらな目がいくつか私を見上げている。
「ありがとうございましたー」
「ありがとうございます」
リュックを背負って、そのままスーパーを出る。最寄り駅に帰ってくるまで、背後を振り返ることはできなかった。
買いそびれたお米を、ちょっと高くなるけど家の近くのスーパーで買おうと思っていたのに、ボーッとしていて家への道を進んでしまう。重いリュックで引き返す気力もなくなってしまって、私は諦めて自分の部屋に戻ってしまった。
靴だけを脱ぎ、リュックを背負ったままローテーブルの前に座り込むと、バッグからてぴてぴとテピちゃんたちが這い出してきた。足の上に落ちたり、ショルダーバッグの紐をよじ登ろうとして失敗しながら、私の手のところまでやってくる。
そのうちの1匹が、ちっちゃな手で私の人差し指をそっと抱きしめた。
「テピ?」
「……テピちゃんたち、さっきの人見た?」
「テピ」
わらわら集まってきた集団が、私の声に反応するように顔を見合わせたり頷いたりしている。溜息を吐くと、思った以上に暗く勢いのあるものになってしまって、それにも溜息を吐きたくなる。
「私、態度悪かったよね」
「テーピ?」
「あんな優しい人に、近付きたくないなって思ってるの、変だよね」
「テピテピ、テーピ、テピッ!」
ちっちゃい手をピコピコさせたテピちゃんたちが、ぎゅっと小さい体で私に抱きついてくる。
なんか、慰めてくれてるっぽい。
ただ、前のバイトで同じだった人に会っただけでこんなちっちゃないきものに慰められるのも、それで癒されてしまっているのも、なんだかちょっと自分が情けなかった。
テピちゃんたちを両手で掬ってローテーブルに載せ、潰さないように気をつけながら私も顔を置く。横向きの風景の中で、テピちゃんたちが心配そうな顔をしていた。
「あのスーパー、お気に入りだったのになぁ……」
果物屋さんに近くて便利だったのに、お米もまだ買ってないのに、明日は安売りの日なのに、もう行きたくない。
こんなんじゃダメなのに。
テピちゃんたちをムニムニしながら、私は30分ほど同じ体勢のままぼーっとしていた。




