ねらわれたまご22
「まじょばちゃん……なんか魔女みたいな格好してる……」
「そりゃ魔女だから!」
「ベタダヨネ〜」
フードのついた黒いローブ。サフィさんと似たような形のローブだけれど、紺色とか灰色とか色のあるサフィさんに対して、まじょばちゃんの着ているのは真っ黒だった。
大きめの袖口から見える手には、ホウキを持っている。ただしこれはT字ホウキだった。棒の先に金具がついていて、短い黒い毛が横一文字に並んだ先っぽが自由に傾くやつ。まさに小中高と教室掃除で使ってきたのと同じ、見慣れたアレである。
私の叔母が、見るからに怪しげな魔女になっている。
「リンゴもあるわよ」
すっと私に差し出したのは、真っ赤に熟れたリンゴだった。
「ほらほら美しいお嬢ちゃん、リンゴはいかが?」
「鏡ヨ鏡ヨカガミサンダヨ〜」
「何そのノリ……毒入りとかいやだよ」
「大丈夫、新宿高乃で買ってきたツナノスイートだから」
「なんで持ってんの?」
「最近果物いっぱい買ってるみたいだからー。はい、チョコもあげる」
「やったーありがとうまじょばちゃん」
お土産らしい。いい匂いがしたリンゴは貰っておいた。マカダミアナッツの入ったチョコはいつものだ。バイト勧誘されたときに貰ったやつをこないだ食べ終わったばかりだけど、チョコはあるだけで気持ちが潤うからいくらもらっても嬉しい。
ちょっとテンション上がっていると、まじょばちゃんの腕を伝ってカウンターに移動してきたカラフルな鳥が、ワキワキと片足を動かしながら私を見上げた。
「美味シソウナチョコダヨネ〜ヒトクチワケテヨ〜」
「鳥ってチョコ食べて大丈夫なの? リンゴにしときなよ」
「ナッツ入ッテルカラ健康食品ダヨ〜」
「いやそういう問題じゃないよね、ていうか、なんで死の鳥さんがまじょばちゃんと一緒に?」
ワキワキと高カロリー食品をねだっていた死の鳥さんが、ぴたっと動きを止めて私を見た。丸い瞳孔がキュッと小さくなってじーっと私を見つめている。
しばらくしてからクチバシが開いた。
「コンニチワ〜シノチャンダヨ〜」
「知ってるよ!! ていうかシノちゃんネタまだ引っ張ってんの?」
「シノチャンイイコダヨネ〜」
私のそばに歩いてきて、カイテヨ〜と手のところに頭をグリグリ押し付けてきた。
相変わらず自由だな、シノちゃん。
仕方ないので頭をまふっと指で掴み、ピンクと水色の境目になっているところをわしわし掻いておいた。甲高い声がアァ〜ソコソコ〜とおっさんくさいことを言っている。
まじょばちゃんはイスにすわりながら「ユイミーちゃん麦茶チンしてー」とこれまたマイペースだ。このふたり、わりと似てるな。
「中々様子見に来れなくてごめんねー。ちょっと忙しくてさー。色々あったんだって?」
「そうだよもう色々大変だったよ! ていうか今も大変!!」
レンジで温めた麦茶を出し、マカダミアナッツのチョコも何個かおやつに添えて、私はまじょばちゃんに今まであった色んなことを話した。
かなりやばい見た目の魔王さんが一番優しい優良客なこと、そんな魔王さんを意図せずぼったくってしまって精神的ダメージがすごかったこと、さらに文字の問題もあってポヌポヌ犬さんに買い物してもらうまで時間かかったこと、死神さんが農家でびっくりしたこと、財宝鳥の罠、どうしたらいいかわからない羽根、そして托卵されたことと、それに付随してやってくる迷惑カスタマー。
改めて思い返すと、1ヶ月も経ってない間にほんとに色んなことがあった。そもそも迷宮とかいう謎バイトでよく無事だったものだ。
「そっかそっかー。頑張ったねユイミーちゃん」
「頑張ったのはまあおいといて、流石に日本で変な存在に出会うと思わなかったんだけど。あれフツーなの? ていうか死の鳥さんとかスジャークさんとかいたけど大丈夫なの? 撮られてネットに上げられたりしない?」
「シノチャンハネ〜ソノヘンチャントシテルヨ〜」
「いや電車ですごい目立ってたから」
「そういうやばい存在は、まあ普通の人なら気のせいとか夢かもって思うようになってるからSNSはあんまり気にしなくて大丈夫」
やっぱり普通の生物とは違って、魔力的な何かが作用しているらしい。あと人間はあり得ないものを見ると脳が受け付けずに認識しなかったりすることが多いので、そもそも気付かない人も多いそうだ。
まじょばちゃんがチョコを半分に割って、シノちゃんとシェアしながら話を続ける。
「ていっても流石に多過ぎたからちょっと調べたんだけど、あの辺、神様がちょっとアレでなんか結界が緩んでたみたいでね」
「は? カミサマ? ケッカイ?」
「ちょっと異物が入り込みやすかったみたい。普段はかなり治安いいんだけど」
まじょばちゃんの言う治安は、不良とか窃盗とかそういうことではなさそうだった。
神様、いるのかよ。というか結界ってなに。
異世界で色んな姿形のお客様を勢いで受け入れてきたけど、日本の話となると途端に信じがたくなる。日常にそんな、神様とか。
「あの辺の神様ね〜。すごい人なんだけど、元引きこもりだからメンタルがね」
「えっ、神様、引きこもりなの? 大丈夫なの?」
「夫婦ゲンカデ鬱マックスダヨネ〜」
「は? 夫婦喧嘩で結界がどうにかなったの?」
そんな神様に任せといて大丈夫なのか。しっかりしてよ神様。
「でもまあスジャークさんに頼んで色々して貰ったから元気出たみたい。もう心配しなくて大丈夫」
「そうなの? 道歩いてももう変なの来ない?」
「円満家庭デ万事解決ダヨ〜」
「シノちゃんが色々調べてくれたんだよね〜」
「シノチャンエライネ〜」
ねー、とまじょばちゃんと首を傾げあっているシノちゃんが、なんか頑張ってくれたらしい。そういえば情報収集とか言ってたけど、本当にしてたようだ。
「言い忘れてたけどあの部屋もしっかり防犯してるし、ブレスレットもあるから、変なのが来ても心配しなくていいんだよ。ていうか可愛い姪っ子を変な目に遭わせるわけないでしょー?」
まじょばちゃんが私の頭を雑に撫でる。
確かに、小さい頃からまじょばちゃんは色んな遊びを教えてくれたり変なお土産を持ってきたりしたけれど、私や妹が危ない目に遭うことは一度もなかった。
「そういうのもっと早く言っといてほしかった気もするけど、ありがとうまじょばちゃん。シノちゃんもありがとう」
「ポテチデイイヨ〜」
「太るよ」
「シノチャン太ッテナイ! 鳥ハマルッコイホウガカワイインダヨ!」
「ユイミーちゃん麦茶おかわり〜」
マイペース過ぎるふたりだけど、なんだかわいわい喋っていると気持ちが緩んだ。托卵関係で気持ちがちょっと張り詰めていたようだ。
今まで親戚の楽しいおばちゃんだったまじょばちゃん。
いきなり魔女とか言われてびっくりしてたところもあったけど、会って話してみると、いつも通りのまじょばちゃんだった。今までと同じ、優しくて面白いちょっと謎な叔母だ。
なんだかそのことも嬉しくて、この謎メンバーでのお茶会は、久しぶりに心から楽しく思える時間になったのだった。




