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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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ねらわれたまご20

「なんかすごい減ってるんだけど」


 朝ごはんを食べながら数えたテピちゃんたちが、合計41匹で思わず箸が止まった。

 前に数えたのが55匹だったから、14匹も減ってる。


「え、これ全員? ていうかこんな……え? どっか隠れてるとかないよね?」

「テピー?」


 この部屋だけならこっそり住みつかれても問題はないけど、知らない間に干からびたりされると嫌だ。カサカサ動かれたら虫っぽくて怖いと思うし。

 しかし14匹も隠れてたら、そのうち何匹かは見つかりそうな気がする。軽く部屋を見回してみたけど、隙間に隠れる白っぽい物体は見えなかった。


「……もしかして昨日、アレ使ったから?」

「テーピッ! テピテピ!」


 私が小さく前ならえをするように「てっ」のジェスチャーすると、テピちゃんたちは小さい手をぴこぴこ動かして「違う」と言ってそうな感じに騒いでいた。否定しているらしいことは分かったけど、それ以外の説明は相変わらず全然わからない。


「ぱっと見そんなに減ってる気はしなかったんだけど……」


 ごはん粒を食べ終わって卵の上に戻りつつあるテピちゃんたちのこんもり具合は、昨日とあんまり変わってない気がする。一番上に載っているテピちゃんを持ち上げてムニムニしてみた。なんかちょっと、昨日よりもっちり大きいような。


「……共食いとかしてないよね?」

「テーピッ!!!」


 ぽてぽて叩かれた。


 朝食を食べ終えたら出掛ける準備。

 今日は本もないので、ボストンバッグの内ポケットに財布とスマホを入れてカバンひとつで出掛けることにした。卵とテピちゃんたちのタッパーを入れて、鳥の羽根も忘れずに入れておく。


「よし」


 小窓から玄関の外を覗くと、そこには誰もいなかった。怪しい物音も聞こえてこないし、変な影も見えない。私は急いで靴を履き、鍵を閉めて駅の方へと向かった。

 向かっていたのだけれども。


「いや怖っ!! 可愛いけど怖っ!!」


 ふわふわの集団に追いかけられて私は遠回りをしていた。

 うさぎである。

 みっしりと歩道を埋めるほどのうさぎである。


「たまごちょうだい?」

「いやあげないから! ていうか怖いから!」


 最初に気付いたのは、路地にちょんと座っている小さいうさぎ1羽だった。

 くしくしと両手で顔を洗っている姿は愛らしく、思わずかわいいと声に出してしまってテピちゃんたちからじっとりした視線を貰ったくらいである。


 どこかの家から脱走しちゃったのかな。

 そう思いながら進んでいくと、2メートルくらいの距離になってうさぎがぴょんと近付いてきた。そして絵本のように二本足で立つように体を起こし、鼻をヒクヒクさせながら私に言ったのである。


「たまごちょうだい?」


 と。

 ちょっと舌ったらずな可愛い声の紡いだ言葉に、和んでいた気持ちはスッと消えた。

 見た目がふわふわしてる分、昨日のヤバそうなのよりはマシだな……と思いながらも断りつつ小さなうさぎを避けて駅に向かおうとしたのだけれど。


 うさぎ、ついてきた。

 しかも、気付いたらめちゃくちゃ増えていた。


「たまごちょうだい?」

「だからぁー、あげないからー!」


 黒いふわふわがみっしり大量についてくるので、振り向くと黒いモコモコしたアスファルトに追いかけられているような見た目になっていた。

 いくら個体が可愛くても大量にいると怖い。そして結構足が速い。


 大通りをそれて小道に入ってみたり、坂道を行ったりしてみても、もこもこ集団はずっと「たまごちょうだい?」と言いながら付いてきていた。幼女っぽい声もずっと聞いてるとなんかホラーっぽく感じる。

 息切れしながら道を曲がって逃げると、進行方向に黒いふわふわが見えた。


「うわっ」


 はさみ撃ちされた。

 振り返りつつ逃げ、前を向いて立ち止まる。やがて私の立っている場所を中心に半径50センチほどの円を残して、アスファルトの上を黒いうさぎがみっしり覆った。

 小さな耳をピンと立て、丸い目がじっと私を見ている。


「たまごちょうだい?」


 見える限りのうさぎ全員が同じ格好で同じことを言うと、もう可愛さゼロの恐怖100しかない。


「たまごちょうだい?」

「だ、誰かー! 助けてー!」


 こんなときに限って誰も通らない。

 誰かその辺の家の人が気付いて顔を出してくれないものかと叫んでいると、ごさっごさっと重たい羽ばたきが聞こえてきた。


 ハッと気が付く。そうだ、羽根があると誰かが助けに来てくれるのでは。


 じわじわ近付いてくるうさぎ大集団にビビりつつ、近付いてくる羽音に辺りを見回す。

 いない。

 どこだとキョロキョロしていると、急に肩に重みがかかった。


「うっ?!」


 のしっとした重さが両肩に掛かる。膝がちょっと曲がってバランスを崩しそうなのを堪えて上を見ると、ふかっとした、目に眩しいほど鮮やかに赤いお腹が見えた。

 両肩には、しっかり太くて大きな鳥の脚が乗っかっている。その足の長い指でがっしりと私の肩を掴んでいて、結構握力強いなと場違いに思った。その足の指がことさらに私の肩を握ったかと思うと、バッサァと大きな音が聞こえた。

 広げられた大きな翼の影に、私の体がすっぽり入る。長い尾羽らしき感触が背中に触れた。


「ィヨキカナッッ!!!」


 こぉーんと高く響く大きな鳴き声に少しくらっとなったと同時に、足元に迫っていたもこもこ黒うさぎ集団がさーっと四方八方へと逃げていく。まるで綿毛に強い風を当てたようなスピードで、あっという間にうさぎたちはいなくなってしまった。

 残されたのは卵とテピちゃんと、それらをカバンに入れて持っている私と、その私の肩に両足を置いてバサッと翼を広げたポーズをしているスジャークさん、以上。


「……」


 頭上に広がる煌びやかな色彩を唖然と見ていると、しばらくしてスジャークさんはファサッと翼を畳んだ。


「……あ、あの、助けてくれてありがとうございます」


 手入れをするように翼をクチバシで触れていたスジャークさんが、背を屈めて首を伸ばして私の左側をじっと見下ろす。

 カバンの方だ。卵が見たいのかなと思って、チャックを開けて広げてみる。首を傾げて片目でじーっと見たスジャークさんは、


「ヨキ……」


 とそっと呟くように鳴いた。

 よいらしい。

 それからちょっと視線を移動させて、私を上からじっと見つめる。足を曲げたせいで、スジャークさんのお腹が私の頭に当たってふさっと温かかった。

 間近でみると、スジャークさんのクチバシは艶々としていて目を縁取る睫毛が長い。頭のてっぺんに生えている飾りのような羽根は、よくみると細かく模様が入っていた。

 じっと見つめ合う。


「……ヨキ」


 よいらしい。

 そそ、とクチバシで私の前髪を撫でてから、スジャークさんは態勢を立て直す。


「ヨキカナッ!!」


 大きなひと鳴きと共にぐっと私の肩を踏み台にして、またバサッと飛び立った。

 うっとよろめきながらも、その姿を眺める。大きな翼が綺麗に曲線を描き、長い尾羽は流星を率いているように空を流れていく。

 美しい。そして助かった。


「ありがとうございましたー」

「テピー」


 鮮やかな姿に声を投げかけると、ヨキカナッ! と鳴き声が遠く聞こえてきた。

 その飛ぶ姿は、神話とかに出てきそうなほど綺麗だ。


「ん?」


 神話、スジャーク、スジャク……

 すざく……朱雀……?


「……いや、まさかねえ」

「テピ?」

「うん、まさかだよね。行こうかテピちゃん。遅くなっちゃうし」

「テピ!」


 ちょっと浮かんだ壮大な可能性をまさかと却下して、私は急いで買い物へと向かった。

 果物屋さんでたまたまやっていたくじ引きで、まさかの一等商品券20万円分が当たったけど、スジャークさんに撫でてもらったからだろうか。

 ……まさかねえ。






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[良い点] 商品券当たって ィヨキカナッ!
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