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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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ねらわれたまご19

「疲れた」

「テピ」


 店仕舞いをしてむにゅむにゅ動いている床を心配しつつ部屋へと戻り、お風呂に入って寝る準備を済ませてベッドに座って出た言葉がそれだった。

 日が暮れたので小窓越しに姿は見えなくなったけれど、相変わらず玄関の向こう側を歩く音が聞こえている。お風呂場が玄関の近くなのでビクビクしつつ入って、熱いシャワーを浴びているうちに気持ちが変わった。


「なんか……腹立つよね」

「テピ?」

「ただバイトしてるだけなのに、なんでこんなビクビクしないといけないんだろ」


 私が欲しかったのはほどほどにオイシイ時給だけであって、卵も羽根も変な買取客もいらないというのに。

 どんな仕事をしてようが、まっとうに暮らしているだけで私生活まで脅かされるのはおかしい。


「テピー」


 ベッド近くに寄せたローテーブルの上で、仲間の山からぽてっと転がり落ちたテピちゃんがそっと私に近寄ってきてちっちゃな両手を伸ばした。持ち上げて、ベッドに寝転がりながらムニムニする。

 つぶらな目が私を心配そうに見ている、気がした。


「テピちゃんたちも頑張ってくれてるし、文句言っちゃダメだよね」

「テピ? テピテピ、テピー」


 ムニっとされているテピちゃんが、ぴこぴこ手を動かしながら何か言っている。

 そんなことないよ、とか言ってるのだろうか。


「いやでも実際腹立つよね。人の部屋の前を無意味にウロウロしないでほしいし、こんな時間にノックしないでほしい」

「テピ!」


 コン……ココン……と断続的にずっと小さく聞こえているノック、地味にうるさい。

 これから寝ようとしてるのに、もしかしてずっと聞こえるのだろうか。そう思うとますますイラッとしてしまった。

 起き上がり、玄関までズンズン歩いていって声を張り上げる。


「卵売りませんから帰ってください通報しますよ!!」

「テピー!!」


 実際、警察に通報したらよけいに騒ぎになってしまう気がするのでできないけど。これ以上ウロウロするなら、死の鳥さんとか召喚したい。


 そう思いながらじっと玄関を睨んでいると、ノックの音が止んだ。

 立ち去ったかなと外の音に耳を済ませていると、小さく何か聞こえる。


「ん……?」


 てってってっ、と、同じリズムの音が聞こえた。

 家の内側から。というか私の手の上から。


 テピちゃんがえいっと目を瞑りながら、また両手を上にかざしては「てっ」と玄関の方へ何度も振り下ろしている。そしてそのたびに灰色の綿毛みたいなものがぽわっと放たれてふわふわと漂っていた。謎の綿毛は、玄関のドアに当たるとふわっと見えなくなる。


「……なんかそれ壁抜けしてない?」


 物理防御が効かない仕様だとしたら、割とすごい気がする。

 てってっと放たれた綿毛がドアの向こうへと20個くらい消えていったとき、玄関の向こう側からズルズルと何かが遠ざかっていく音が聞こえた。しばらく耳をすませてみるけれど、いつものようにしんとしている。


「おお、テピちゃんが撃退した」

「テピッ!」


 疲れたように私の手の上でへにゃっと形が崩れていたテピちゃんが、私の言葉にシャキッとなってドヤ顔をした。テピーテピーと呼ぶ集団の声に私はベッドへと戻りながら、ドヤ顔なテピちゃんを撫でたり揉んだりした。


「ありがとう。これでゆっくり寝れる。テピちゃんたちがいてくれてよかった」

「テーピー」


 嬉しそうにムニムニされているテピちゃんを、卵あたためチームが羨ましそうに見ている。ローテーブルからタッパーを持ち上げてベッドに置き、順番にムニムニすることにした。


「テピッ」

「いやほんといっぱい活躍してるよね」

「テピー?」

「テピちゃんたちがいないと確実に卵諦めてたと思う」

「テピテピッ」

「お客さんいても隠れず頑張って卵あっためてくれてるもんね。ありがとう」

「テピ〜」


 ムニムニしまくりつつ褒めていると、テピちゃんたちは嬉しそうにてぴてぴと私と卵の周りを動き回っていた。

 座っている私の太ももによじ登ろうとしているテピちゃんの向こうで、タッパーに入れられた3つの卵がゴロリと動いた。近くにいたテピちゃんが、その様子をじっと見守っている。

 いっそ売り渡してやりたいくらいに面倒だと思ってたけど、生まれてくるヒナに罪はないと思うとできない。


「君たちはちゃんと常識のある鳥に育つんだよ……」

「テピ……」

「間違っても人の意思を無視していきなり托卵したり、嫌がってるのに羽根を押しつけたりするようなおとなになっちゃダメだよ」

「テピー」


 金銀金のメタリック三兄弟をつつくと、またゴロッと転がって私の指に優しく当たった。


「ていうかテピちゃん、やっぱりあの攻撃って強いの? 玄関の壁通り抜けてたよね? ヤバいやつ?」


 どれくらいのダメージがあるものかだけでも教えてほしい。

 じっと見つめながら訊くと、テピちゃんたちは黙ってささーっと、いやてぴてぴーっと撤収し、タッパーに山盛りになって沈黙した。つついてみてもうつ伏せのまま寝たフリを続行している。

 やっぱりあの攻撃についてはヒミツらしかった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] テピちゃん回♡とても癒されるー♬てぴー♡ 押し掛けアシスタントテピテピちゃん達は、癒し担当なだけではなく!とても有能ですね! テピテピちゃんペットショップに売ってないかなー( ・∇・)…
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