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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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命を刈り取るお仕事7

 魔道士とは、色んな魔法を学んだり編み出したりして生計を立てている人のこと、らしい。


「自分でいうのもなんだけどそこそこ強い魔道士だから、大体のことはできるよ」

「頼もしい……!」


 籾摺りも精米も「大体のこと」に含まれているらしい。魔法すごい。魔道士すごい。


「で、この殻取ればいいの?」

「はい。あの、できたら精米もして欲しいんですけど、……七分搗きで……」

「七分搗きって何?」

「たぶん、削り具合のことかと。ちょいやわ玄米って言ってました」

「玄米って食べたことないな」


 死神さんはぬかを全て取り除いた白米(このお米の場合はオレンジ色だからオレンジ米?)ではなく、少し付いた状態がお望みだった。

 お米は精米の度合いによって、三分搗きとか七分搗きとかいうらしい。というのはググってわかったけれど、七分搗き、というのがどんな感じなのかサフィさんはもちろん私もよくわかっていなかった。


「サフィさん、明日も来てもらえますか? 私、見本になりそうな七分搗きのお米探して買ってきます」

「……いいけど、買えるなら加工するよりそれ売った方が早くない?」

「アッ確かに!」


 正論に思わず頷いてしまったら、サフィさんがぷっと吹き出した。


「まあ、俺としては仕事頼んでくれたらありがたいしいいけど」

「白米売るのは最終手段ということで……あの、お金なんですけど、一月にこの袋2つ分で小銀貨3枚なんですがそれでよろしいですか?」

「いいよ……いやちょっと待って。依頼されてもらった分はいくら?」

「え? 小銀貨3枚ですけど」


 聞こえてなかったのかな、と繰り返すと、カウンター越しにガシッと肩を掴まれた。キラキラ顔が深刻な顔になっている。


「ユイミーちゃん、手数料、取ろうね」

「手数料……でも、実質ほぼサフィさんにやってもらうので、サフィさんの取り分が減るのはよくないのでは」

「お店の利益がなくなっちゃうでしょ!」


 そうだ、バイトだから利益を出さなくては。

 今までに貰ったチップが多額すぎるので「利益少ないならそこから補填したい」と一瞬思ったけれど、それはそれで多分色々とグレーになりそうな気もする。


「小銀貨3枚なら俺の取り分2枚でどう?」

「でも作業量的に、私は請けただけですし……小銀貨より小さいお金ってないんですか?」

「あるけど、俺は持ってないな。この辺で使わないし」

「この辺……お金持ちが多いエリアですか?」

「金持ちというか、まあ、迷宮ダンジョンでも奥まったところだからね」


 小銀貨の下にも銅貨や石貨というのがあるらしいけれど、サフィさんに持ち合わせはなく、そしてお店のレジにも入っていない。なので1割2割だけ貰うということも現状難しいようだ。

 うーん、と2人で考え込む。


「じゃあ、ちょっと手伝って貰うか。つってもユイミーちゃんだとちょっと大変かもしれないし……えーっと、この前いた小さいのいるよね?」

「テピちゃんたちですか? いますよ、そこに」


 注目されていることを感じたのか、しんと黙り込んでいるカーテンの方を指すと、うんと頷いた。


「ちょっと出てきて」


 そう言いながらサフィさんが指をパチリと鳴らすと、テピーッと声を上げながら白い集団がカーテンから出てきた。というか、ふわふわと浮きあがったかと思うと、カウンターの上におちていく。ぽてぽてと天板で少し跳ねたテピちゃんたちは、テピーとパニックになりつつ固まってプルプル震えている。


「え、今の魔法?」

「そうそう。あんまり大きい相手には使えないけどね。えーと、けっこういるな」


 よしよしと頷いたサフィさんが、プルプル固まっている集団の上に右手を掲げる。するとキラキラした光の粉みたいなのが出てきて、それが魔法陣っぽい形になった。

 円形のそれがゆっくりと下降して、テーピー! と怯えている集団に降りかかる。


「あの、何しようとしてるんですか? テピちゃんたち大丈夫ですか?」

「ヘーキヘーキ。ほら、何も変わってないでしょ」


 ぎゅっと身を寄せ合ってぶるぶるしている集団は、しばらくしてからソロソロと顔を上げた。周囲を見渡して、サフィさんを見てはビクーと怯えて私の方へとてぴてぴ逃げようとしている。


「動作の魔法を掛けたから、殼剥きできるよー」

「殼剥き、テピちゃんたちが?」

「そうそう。ほら」


 お米の入った袋からサフィさんが黒いお米をひと掬い取り出して、カウンターの上にパラパラと落とす。それからその動作を固まって見ていたテピちゃんたちに「剥いてみな」と声を掛けた。

 テピちゃんたちはビクビクとサフィさんを見ていたけれど、やがてお米を囲うようにそろそろと、いやてぴてぴと動き出し、黒いそれと私とを交互に見ている。


「テピちゃんたち、できる?」

「……テピ!」


 ちいさい片手を挙げて返事をした1匹のテピちゃんが、そっと黒いお米を一粒取った。

 その瞬間、ペッと音がして黒い殼が剥がれ、暗めのオレンジ色をした米が落ちる。左右の手には半分に割れた黒い殻が残っていた。


「テピー?!」

「速ッ!」

「ね、できたでしょ」


 コンマ数秒的な早業だった。

 殻を剥いたテピちゃん自身もビックリしているあたり、さっきの魔法の効果が出ているらしい。テピちゃんの手は黒い殻を捨て、次の米を取ったかと思うとペッと剥いている。次々動く様子は機敏すぎて、何かに操られているようでもあった。


「これで作業の一部はユイミーちゃんのお店でやることになるから、小銀貨1枚分はそっちで取るってことでいいよね」

「いい……んでしょうか?」

「いいんですよ。じゃ、一晩あったら剥き終わるだろうし、精米についてはまた明日やりに来るねー」


 小銀貨2枚を受け取ると、サフィさんは「すき焼きごちそうさまー」と言いながら明るく手を振って去っていってしまった。

 テピちゃんたちは謎の手際の良さにアワアワしている。


 作業というか、ほぼ魔法だし、魔法掛けたのサフィさんだし、いいのかこれで。

 というかテピちゃんたちはうちの従業員扱いでいいのだろうか。


「えっと……籾摺りの手伝い、やってくれる?」


 問い掛けてみると、アワアワしていた集団がぴたっと止まる。

 それからお互いに顔を見合わせながらテピテピと小さく何か言い合ったあと、私を見上げた。

 目がキラキラしている。

 びしっと小さな手を挙げて、全員がテピー!! と威勢の良い返事をくれた。


「ありがとう。よろしくね」

「テピー!」

「ちょっと大変かもしれないけど、頑張ってね」

「テピーッ!」

「明日おやつも買ってくるからね」

「テピーッ!!」


 先程までの怯えとパニックは何だったのかというくらい意欲的になったテピちゃんたちは、我先にと袋の中の米を取り出そうとし始める。

 このままではカウンターの上に散らかること必至。私は慌てて玄米入れと籾殻入れを用意しにキッチンへと走ることになったのだった。






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