命を刈り取るお仕事8
カウンターのフチにテピちゃんたちが並び、各々持ったお米の殻をペッと剥がす。落ちたオレンジ色の玄米は、イスの上に置いたシリコン製の洗い桶へパラパラと落ち、テピちゃんたちの手に残った殻はゆるーく吹く風によってカウンターの向こう側へとパラパラ落ちた。手ぶらになったテピちゃんたちはてぴてぴと小走りで黒い小山へと走っていき、代わりに他のテピちゃんたちがお米を持ってやってきてペッと殻を外す。
「よし。とりあえず今日はこのくらいでいいかな」
「テピ」
ゆるーく吹く風を作り出していたのは私である。最初は袋2つを並べて玄米用、殻用としようと思ったけれど、籾殻がふわっと落ちるので玄米と混じりがちになるためこう落ち着いた。うちわで送り込む風が強いとテピちゃんたち自体がコロコロ転がるので、なかなかコツがいる作業である。かなり離れた場所からゆっくり大振りに手を動かすのがベスト。
2時間くらい作業しただろうか。袋に入っているお米は3分の2くらいに減っていた。
「テピちゃんたち疲れてない? 大丈夫?」
「テピー」
「今日はゆっくり休んで、また明日頑張ってもらえる?」
「テピ!」
ふいーと小さい手を動かしているテピちゃんたちを労いつつ、カウンターの向こう側に落ちた黒い殻を掃き集める。多分ゴミだろうけど、一応ビニール袋に入れて保管しておくことにした。
片手で数えるほどしかお客さんの来ないお店である。こんなに夜遅くまで作業したことがない、というか今まで作業らしい作業をしていなかったテピちゃんたちは、いきなりの籾摺り作業に疲れたようだ。クテクテと眠そうに歩いている。
夜の余りの人参を刻んであげると、テピ〜と嬉しそうに受け取っていた。
「テピちゃんたち、私は部屋戻るけど帰るのつらかったらここで寝てもいいよ。隠れる棚のとこで」
お盆に載せながら私がそう言うと、人参の欠片を持ったままテピちゃんたちがじっと私を見て、それからカーテンのかかった棚の方を覗き、そしてまた私を見る。
「テピー!」
「ここで寝る? そのまま運んじゃっていいかな。水とかいる?」
「テーピ」
お盆に乗って床へと移動したテピちゃんたちは、てぴてぴと私に手を振りながらカーテンの向こうへと歩いていく。
お店にいる間は特に水分を欲しがっている感じはしないけれど、一応浅いお皿に水を入れてカーテンの近くへ置いておいた。
……フンもするのだろうか。
ちょっと悩んでから、業務日誌もどきを書いている大学ノートのページを1枚切り取って棚の手前に敷いておいた。意思疎通が難しいだけに、生態が謎だ。
「じゃあまた明日よろしくねー。おやつ買ってくるねー」
「テピー!」
「おやすみー。テピー」
「テピー!!」
一回だけコールアンドレスポンスしてから、私は自分の部屋へと帰った。
死神さんが来たときにはどうなるのかと思ったけれど、気さくな人(死神だから人じゃないけど)でよかった。精米もサフィさんとテピちゃんたちのおかげで何とかなりそうだし。
今日の業務のうち、まだ書いていなかったサフィさんの食事と籾摺りについてノートに軽く書き込んでから軽く肩を回す。
色んなことがフレキシブル過ぎて今までやっていたバイトとは全く違うけれど、私には迷宮のバイトの方が合っている。少なくとも、バイト仲間と拗れることがないことはかなりの救いだ。
頭をよぎりかけたあんまり楽しくない思い出を振り払いつつ、私はシャワーを浴びるために服を豪快に脱いだ。黒い籾殻がパラパラ落ちた。
立って風を送り続けるというちょっとした運動をしたからか、その日はぐっすり眠ってスッキリ起きた。
早めに身支度をして買い物に出かける。魔王さんが気に入っていたマンゴーと、ものすごく大きなイチゴがあったのでそれも買う。イチゴも切って出した方がいいだろうかと悩みつつプラプラ歩き、いい感じに可愛いものを見つけたのでそれも買った。
「おはよーテピちゃんたちウワアアアア!!」
爽やか元気な気分でドアを開けると、カウンターの上は死屍累々だった。
黒い籾殻が崩れた山のように盛られ、周囲にテピちゃんたちが倒れている。かろうじて動いていた1匹が「テ……テピ……」とプルプル鳴いたかと思うとパタリと倒れる。
「えっ、全部籾殻とったの? ていうかテピちゃんめっちゃオレンジ色!!」
真っ白なはずの体が濃いオレンジ色に染まっている。山盛りの黒い殻の代わりに袋の中は空になっていて、そしてシリコン桶の中には玄米がどっさり入っていた。
「もしかして、私が来る前に終わらせようと思ってやってくれたの? 大丈夫? ていうかなんでオレンジ……玄米のせい?」
なんか小人が仕事してくれる話、昔読んだことある。
その小人は朝になると姿を消していたけれど、うちのテピちゃんたちは力尽きたようだ。手に乗せてみると力なく「テピー」と鳴くので、死にかけてはいないらしい。
「ありがとうテピちゃんたち。おやつ買ってきたけど、食べられる?」
紙袋の中に入っていたそれを取り出すと、倒れ込んでいたテピちゃんたちがぴくぴく動いた。包装を切って中身を手の上に出すとフラフラと近付いてくる。
「金平糖だよ」
お高い果物屋の近くにあったのは、和菓子のお店だった。ショーケースの上に小さく並べられていたのは、色とりどりの金平糖が入った袋。普通のものよりも小粒だったので、テピちゃんたちにどうかなと思ってかってきたのだ。
「米粒よりは大きいけど、持てる? 砕いた方がいいかな」
近付いてきたテピちゃんにはい、とピンクの金平糖を摘んで差し出すと、初めて見るらしい星形のお菓子にホワァ……と丸い目がキラキラウルウルした。
かわいい。
どうぞと言うと、キラウル目が私を見上げてくる。
「テピッ!」
小さい両手で私の指にキュッと抱きついてからテピちゃんが金平糖を受け取った。大事そうに両手で抱きしめている姿がとても可愛い。色がオレンジなのでよりメルヘンだ。
「テピー!」
「はい」
「テーピー!」
次のテピちゃんも、ぎゅっと私の指に抱きついてから金平糖を受け取る。数がそこそこ多いのでお皿に並べて取ってもらおうと思ったら、ウルウルした目でじっと並ばれた。手渡し希望らしい。
「ありがとねー」
「テピ!」
「はい、黄色あげるね」
「テピーッ!」
キラキラした目でじっと金平糖を見つめたり、明かりの方に翳したり、齧った金平糖を持って走り回ったり。色の違う金平糖をお互いにじーっと見つめあったり。
私が持ってきた差し入れは、テピちゃんたちに大変喜んでもらえたようだ。積み上がった籾殻を私が片付け終わる頃には、美味しい朝ごはんですっかり回復したテピちゃんたちが元気いっぱいに走り回っていた。
……オレンジ色は戻らなかった。なんでだ。人参のせいかな。




