命を刈り取るお仕事9
黒い手に摘まれたフォークが、大まかに切ったイチゴにさくっと刺さる。それを口に入れた草食動物っぽい頭蓋骨がもぐもぐと揺れる。またフォークがイチゴにのびる。マンゴーもいくつかもぐもぐ。
「……美味しいですか?」
『妙なる美味』
呻くような声音が、心なしか嬉しそうに聞こえる。
上級南国果実Bを買いに来た魔王さんは、イチゴの魅力にもノックアウトされたようだ。大きくて真っ赤に熟れた食べ頃のイチゴをもぐもぐもぐもぐと黒い靄を纏う口の中に入れ続けている。
「もうちょっと暖かくなったら色んな果物が旬になるので、そしたら他にも色々持ってきますね」
『……新たなる訪問者よ。この』
爪の長い黒い手が、この、と皮だけになったマンゴーを指差している。
『甘き果実を、契約ののちに我が手に収めることを望む』
「マンゴーですか? また買ってきますけど」
『否。契約に載せ、対価を受けよ』
お金払って食べたいらしい。
「他にも果物はあるので、色々試してからでも」
『我が望みはこの果実……異なる果実は異なる契約となる』
「マンゴーお気に入りなんですね」
コク……と魔王さんが頷いた。
他の果物はまた今度考えるからとりあえずマンゴー買う、ということだろうか。相変わらず言葉がちょっとまわりくどい魔王さんである。
まあマンゴーは美味しいし、カウンターで立ち食いよりも家でゆっくり味わいたいのかもしれない。家がどんなのか知らないけども。
「じゃあ、まじょばちゃんにお願いしておきますね」
『我が願い、汝に託そう』
「はい」
上級南国果実Bと切っていないマンゴーとイチゴを乗せたカゴを、魔王さんがしっかり掴んだ。
ちなみに魔王さん、昨日あげたカゴをちゃんと持ってきた上に、中に敷いてあった手拭いをきちんと折り畳んで入れてあった。なんか花っぽい香りがしたので洗濯もしてきたのかもしれない。律儀な人である。
「ありがとうございましたー」
ぱたんとドアが優しく閉まった音に、お辞儀をしていた体を起こす。同時にわらわらと、いやてぴてぴと小さいオレンジ集団が出てきた。
「テピーッ!」
「うんうん」
「テピテピーッ」
「元気だねー」
テピちゃんたちのテンションが高い。
金平糖がよっぽど嬉しかったのか、私の周りで絶え間なくうろちょろしては小さな体と小さな手できゅっと抱きついてくるのである。足元にいると危なくて仕方ないので、お盆に集合してもらってカウンターへと上げた。
てぴてぴてぴーと足のない底面で動き回り、キラキラと私を見上げ、ノートに書き込んでいる私の指にそっと抱きつくテピちゃんたち。わりとある光景だけれど、いつもよりもなんだか元気だ。
体がオレンジ色だからテンションがおかしい、ということはないだろうか。若干不安。
「テピちゃんたち、人参食べたから染まったの? 玄米のせい?」
「テピー」
「擦っても色落ちないもんね……」
1匹を掌に捕まえて、親指でむにむにと擦ってみても色は変わらない。テピーと気持ちよさそうに脱力してちょっとむにゅっと潰れた形になったくらいで、撫でても痛そうな部分や変わった様子のところはなかった。
「そういえばテピちゃんってまとめて呼んでるけど、見分け方とか特徴とかある?」
尋ねてみると、テピちゃんたちがお互いに顔を見合わせる。それからテピテピテーピテピと口々に何か言い始めたけれど、もちろん意味は伝わってこなかった。ちっちゃなおててでジェスチャーありでも伝わらなかった。
「えーっと、いつも扉開けるときドアノブから落ちてるのは、同じテピちゃん?」
「テピー!」
「いやわからん……今までドアノブから落ちかけて私にキャッチされたことあるひとー?」
「テピーッ!!」
オレンジ色のテピちゃんたちが、競って小さな手を挙げる。先生に当てられたい児童のような勢いでハイハイハイとアピールしてくれるのはありがたい。ありがたいけど。
「いや、全員はおかしいでしょ。バイト始めて……えーっと、10日経つかどうかくらいでしょ」
「テピー!」
「じゃあ、ドアノブにぶら下がってなかったひとー」
「テピー!!」
「どっちにも挙手すんのかい」
新たな質問にも全員がテピテピーと手を挙げる集団。
テピちゃんたち、言葉が通じているようで通じていないような感じだ。こんな頼りない集団で、果たしてどうやって生き抜いているのだろう、迷宮で。いやここ外に何があるのか知らないけど。
「まぁ、いいか。テピちゃんたちはテピちゃんたちということで」
「テピ!」
「暇だし、掃除ついでに体でも洗う?」
「テピー!」
水浴びが好きらしいテピちゃんたちは、私の言葉で喜んでお盆の上へと集合した。
……やっぱり言葉は通じてそうなんだけどなあ。




