迷宮小旅行22
「あ、何かありますね」
「っぽいねー」
平に均された道は進むにつれて少しずつ狭まり、意図的に岩の間を通っているようにくねっている。その先には、どうやったのかわからないけれど、明らかに人工的に巨大な岩が大きな円状に並べられている場所があった。
前を足早に歩いていた人が、その岩の隙間へと入っていく。
「シノちゃん、あそこ?」
「ソウダヨ〜イツモ思ウンダケド〜、人間ッテ〜ナンデ上ハ開ケタママニスルノ〜? 丸見エデ意味ナイダヨネ〜」
「人間は飛ばないからだと思うよ」
「飛べナイナラ浮ケバイイノニッ」
フランス王妃並みの無茶を言っているシノちゃんを抱えつつ、その怪しげな岩群に近づく。すると、岩と岩の隙間はほとんどが土で塞がれていて、出入りできる場所を制限しているようだった。向こう側の明かりが漏れ出ているところには、ローブを来た3人が立っていて、そのうち2人は手に槍のようなものを持っている。
どうやらその岩の中へは、誰でも通れるというわけではないようだ。
「槍ですよサフィさん。物騒ですね」
「ほんとだー。よいしょ」
サフィさんが両手を胸の辺りに持ち上げると、その両手のひらの間にシャボン玉のような透明で丸い球体が浮かび上がる。片手を軽く上に向けるとその球体はふわりと浮いて空中で静止し、サフィさんはもうひとつ球体を作った。
それから、「えい」と特に気合も入っていない声と共に、浮いている球体2つをポンと前方に押し出す。軽く叩いたようなサフィさんの動作とは正反対に、球体は結構な速度を持って拡大しながら飛び、そしてそのまま槍を持った2人に当たった。槍の人たちの構えも虚しく、2人はその中に囚われ、フワフワと地上3メートルほどの高さまで浮かび上がる。
「よし、じゃあ行こっかー」
物騒なのはこちら側だった。
「エ〜浮カセタダケ〜? 攻撃超弱インデスケド〜」
「だってあんまりいじめるとユイミーちゃんが止めるんだもん。それにあの球揺らしたら面白いよ」
面白いからという理由で、大きな球体がサフィさんの手に合わせてばいんばいんと跳ねる。中に入っている人がそれに合わせて大変なことになっていた。
地上に残された槍を持っていない1人は、慌てたように懐から杖を取り出し、地面に何かを描いている。
「サフィさん、あの人何かやってますよ」
「ん? 大丈夫大丈夫。あれ姿を消す初歩の術だから。魔術作るとこ何度も見たらどういう系統を行使するつもりか雰囲気でわかってくるから、ユイミーちゃんもよく見たらいいよー」
悲鳴をあげる球体で遊んでいるだけではなく、ちゃんとサフィさんは最後の1人も意識に入れていたらしい。地面に描く魔術陣の、どういう描き方から入ると攻撃系が多いかなどを説明してくれる。わかりやすくてためになるけれど、今教えてもらうことじゃない気がした。
「そろそろ不可視化するかなー、あ、ほら」
「ほんとだ消えた」
描いた魔術陣の上に乗ったローブの男が、すっと足元から消えていく。私たちが近付いても、その魔術陣の上には何もなかった。
「結構綺麗に消えてるでしょー? でもこの術は固定空間に有効なものだから、本体この上から動いてないんだよー」
「そうなんですか? 全然誰かがいるようには見えないですね」
「魔力込めて触ると本体に触れるよー。もうちょい上級になると、物理的にも存在を撹乱させて手を突っ込んでも触れなくなったりするから面白いよ。もっと奥で見られるかなー」
サフィさんが手をワキワキさせながら「掴んで引っ張り出そうか?」とニコニコ聞いてくる。せっかく隠れているのになんか可哀想なので止めておいた。攻撃してくるつもりがないならそれだけでいいと思う。
槍を持つ2人は球体の中で浮いたまま、透明の人は透明のまま、私たちはその3人を通り過ぎる。そして岩と岩の間に広がる、大柄な男性ひとりが精一杯な隙間の前に立った。




