迷宮小旅行21
「ねえシノちゃん、ほんとに右側なの?」
「ア〜ツカレタ〜ユイミーちゃん肩マッサージシテッ」
「左じゃダメなの? 右の道ってヤバいらしいよ?」
「今日ハ帰ッタラ温泉ノ素入レテヨ〜草津ガイイダヨネ〜」
「ほんとにそっちにユウいるの?」
「湯上ガリビールト酒盗デ幸セニ眠レルヨネ〜」
「ちょっと」
いそいそと腕の中で仰向けになってリラックスモードになっているシノちゃんをワシャワシャと撫でくりまわし、それから縦にして腕の上に立たせる。
「アッチダヨ〜シノチャン嘘ツカナイッ」
「死の鳥は偽りで探索者を惑わせるっていうけどね〜」
「耳カラクチバシ突ッ込ンデ脳ミソ戸惑ワセテヤロウカァーッ!!」
「はいはいシノちゃんどうどう」
クチバシを振り回すようにブンブンヘドバンするシノちゃんを宥める。サフィさんとシノちゃんは仲良くするのはいいけど話の腰を折らないでほしい。
「右の道は気持ち悪いのが集まってるってマダムが言ってたけど、ほんとにそっちに行くの?」
「行キタクナイナラ〜行カナクテモイイト思ウヨネ〜人探シ〜メンドイヨネ〜」
「あ、じゃあ諦めて遊ぶ? ユイミーちゃんうち来なよー」
「行かない」
「キッパリ言うねー」
家の魔術セキュリティを強くしすぎて地名が変わったレベルの家には何があってもお邪魔したくないし、そもそも人探しは諦めてはいない。そして万が一諦めたとしたらすぐ帰宅する。
当然ながら、サフィさんやシノちゃんはそもそもユウを探すことに特にモチベーションを感じていないので、そろそろ飽きてきたようだ。私もやる気満々ではないけれど、迷宮に長居したいわけでもない。
手頃な岩を挟んで、左右に分かれた道。サフィさんによると、左は奥へと続くけれど、右は地形的に少し先で行き止まりになっているはずとのこと。早めに見つけて早めに帰るためには、やっぱり右の道を行くしかないらしい。
「じゃあ、右の道に進みましょう」
「ン〜オッケ〜」
「はーい」
「その前にちょっと手洗ってもいいですか? 一応準備しておきたいので」
魔力云々が見えないため、私にとって魔術はイメージ頼みのような感じになっている。
基本である清めの魔術は、想像だけでもできるけれど、実際に手を洗った方が早く、そしてしっかりと魔術を行使できているようだ。この先にユウがいるならば、何かあった場合に備えてきちんと整えてから行った方がいいかもしれない。
リュックに入れていたペットボトルの水をサフィさんに渡して、少しずつ手にかけてもらう。石鹸はないけれど、手を擦り合わせて洗い流すとスッキリした。精神的に。魔術的にはどうなのかわからなかったけれど、サフィさんもシノちゃんもオッケーと言ってくれたので大丈夫だったようだ。
サフィさんに綺麗にしてもらったすりこぎの持ち手にも手を翳して清めておく。
「なんか清めるとよりしっくり持ちやすい気がします」
「魔術で俺の魔力がしっかり入った状態よりは、自分の魔術を掛け直したほうが馴染みは良くなるだろうねー。俺としては不本意だけどー」
「そうなんですね。このすりこぎ自体がそもそもしっくり来るのは、やっぱり同じ日本の神様だからなのかな」
「俺とも相性良くなっていいんだよー」
「ニンニク臭くなりそうなんでいいです」
「ひどい! ちゃんと臭い消してるのに! 爽やかだよほら嗅いで!」
「サフィさん、いくら顔が良くても人に匂いを嗅がせるのは変態かと」
「ウケルワ〜」
よりしっかり馴染むようになったすりこぎを握りながら、ジリジリ近寄ってくるサフィさんを避けておいた。サフィさん自身はいい人だけれど、サフィさんの魔力は触れると気分が良くないのであまり馴染みたいとも思えない。
「シノちゃんは触っても変な感じしないよね」
「シノチャンハ〜オ上品デカワイイ魔力ダカラネ〜ユイミーちゃんシノチャン大好キダモンネ〜」
「よく言うよ、戦ってる時は魔力だけで毒攻撃したりするくせにー」
「テメーニ攻撃シテヤロウカァー!」
「どうどう」
シノチャンを撫でながら、右の道を進む。
この道を歩いている私たち以外の人はほとんどいなかったけれど、それでもゼロではなかった。数が少ないが故に注目しやすいけれど、ポツポツと見える姿は、どれも雰囲気が独特な気がする。背を丸めたローブの人や、傷と汚れの多い男性、布をかぶって尻尾を引きずって歩いている、正体不明なひと。露店の通りにいた人々が物騒なら、こっちは怪しいと言う言葉がピッタリだった。
「それでも、意外と人通りがありますね」
「先の方にいっぱいいるみたいだねー」
「集マッテルヨ〜烏合ノ衆ダネ〜」
何やら人が集まっているところがあるらしい。ユウがいるとすればそこなのだろう。
いよいよだと気を引き締めながら、私は握ったすりこぎを振った。
斜め後ろの何かにカーンと当たった。ドサリと倒れた音に後ろを向く。
「うわ、またヘドロ……じゃなくてなにこれ、木人間? みたいなのが」
「目視なし攻撃とか、ユイミーちゃん剣豪みたいになってきたねー」
「心眼ダネ〜」
また私を狙っていたらしい何かを倒し、のほほんとしているふたりもどうかと思うけど、偶然とはいえ無意識にクリーンヒットしてしまった私もどうかとちょっと思った。木を人間っぽく加工したようなその相手は、完全に気絶しているようでピクリとも動かない。
たぶんすりこぎのおかげだろう。また帰ったら神社にお菓子を差し入れしとこうと思った。




