迷宮小旅行20
「これ店にもちゃんと沢山置いておくのよ。他の客に売っちゃダメよ」
「はい、ありがとうございました」
念を押したトラマダムは、満足そうに喉を鳴らしながら去っていった。猛者っぽい人たちで混み合う中、威嚇をしながらのしのしとあっという間に進んでいく。
売るも何も、ビニール袋は商品をサービスで入れるために使っているので、本来は商品ではない。けれど、よほど気に入ったらしいマダムトラの態度からして、周囲で見ていた人は何か価値のあるものだと思ったようだ。ひそひそと話し合ったり「小銀貨2枚だってよ」と噂しているのが聞こえてくる。
「ユイミーちゃん、そろそろ行こっかー」
「そうですね」
耳ざとい商人風の男性が「売るものないか、売るものないか」と繰り返しながら近付いてきているので、なるべく早足で歩くことにした。主にサフィさんに刺さっていた視線が私にも向けられたような気がしてますます居心地が悪い。小銀貨2枚をリュックに入れながら歩くと、また前方が騒がしくなった。
「なんだこの鳥は」
「ンダコラァ? テメーラ服毒死サセラレテーノカッ!」
「馬鹿てめえ近寄るんじゃねえ、ありゃ全身猛毒の鳥だぞ!」
知り合いだった。というかシノちゃんである。
進んでいくと、混み合っている通りの中に小さく空いた場所があった。無骨なブーツの間からトルコブルーがチラチラ見えている。
見慣れたトロピカルなオウムが、翼を若干浮かせ肩を怒らせながら、てくてくと地面を歩いている。
「おい邪魔だ!」
「ンダトテメェ!」
急いでいるらしき男が軽く蹴る振りをすると、トロピカルオウムがたちまち猛禽のような勢いでその足に噛み付いた。大きくて曲がったクチバシでブーツ越しにガブーと噛み付いたシノちゃんがパッと離れると、髭面の大男がビクビク震えて倒れる。
「やっぱり死の鳥だ!!」
「触れると死ぬぞ!」
「オラオラ雑魚ドモ〜シノチャンノタメニ道開ケロ〜」
どこのヤクザなのか。
カーと威嚇しながら進む姿は、とても人々の膝まで届くかどうかくらいのサイズとは思えないほど存在感があった。時折ガッと翼を広げ、近くの人を無意味に威嚇することも忘れない。
「シノちゃん」
あんまり知り合いに見られたくないなと思いつつ声を掛けると、パッと顔を上げたシノちゃんが飛び立って私の腕の中に飛び込んできた。
「アーンユイミーちゃん遅イワヨ〜シノチャンヒトリデトッテモ怖カッタンダカラ〜」
「いや嘘でしょそれ。見てたよ」
「汗臭イ奴ラガイチャモン付ケテキタカラ自衛シタダケダヨ〜」
「過剰防衛すぎるでしょ。あの人大丈夫なの? 死んじゃうんじゃ」
シノちゃんに足を噛まれた男は、ビクビク動いていたのがピクピクになり、口から泡を吹いて白目になっている。明らかにやばそうだ。
「死ナナイヨ〜シノチャンハカワイイカラ毒ノ濃度モ自由自在ナンダヨネ〜」
「ほんとに? すごい顔色悪くなってるけど」
「体力アレバ死ナナイヨ〜」
グリグリと私の手に頭を押し付けながら、シノちゃんはボソッと「タブン」と付け足した。
たぶんって。
私が無言でいると、サフィさんがアハハーと言いながら頷いた。
「死の鳥の毒って苦しいよねー」
「今スグ食ラワセテヤロウカッ!!」
不老不死の吸血鬼でさえ苦しむ毒とは。
倒れた男性については、私が近付こうとすると周囲の人が怯えてどこかに運んでいったので様子がわからなくなってしまった。どうにか生き残ってほしい。
残されたのは「触るだけで死ぬ」と言われたシノちゃんを抱える私に対する恐怖や驚きの混ざった視線だけである。さっきよりもっと視線が集まっているので、急いで露店の並ぶ通りを抜けることにした。
「ふう、なんか疲れた」
「エ〜ジャア休憩スル〜? 焼肉休憩スル〜?」
「いや主に精神的に。サフィさんもあんなに見られててよく疲れませんね」
「えー、別に攻撃してくるわけでもないしねえ」
「シノチャンハカワイイカラ注目サレル運命ダヨネ〜」
視線慣れしている人たちの言うことはよくわからなかった。
シノちゃんとリュックを抱えて振り向くとまだパラパラとこちらを見ている人はいたけれど、露店がなくなったことで道も広がったためとりあえず他人の圧を感じる範囲から脱したようだ。
「で、シノちゃん、大体場所わかった?」
「ワカッタワカッタ〜」
「どこ? ここの近く?」
「チョット歩クダケドネ〜マーモウスグダヨ〜」
ヨッコイセと私の腕に乗ったシノちゃんが、片足を上げて「アッチ〜」と方向を指す。
そこに見えるのは、二股に分かれた道。そしてシノちゃんが指しているのは、マダムトラ非推奨の右の道だった。




