迷宮小旅行23
「なんかありますね」
「あるねー」
「これも魔術ですか?」
「そうだねー」
濃い灰色の大岩がくっつくように並んだその隙間は、薄紫色のすりガラスのようなものでぴったりと塞がれていた。向こう側はぼんやりと明るく、おぼろげに人影が揺らめいているのがわかる。
「中に入っている人、多そうですね」
「だねー。遮音と侵入防止とか兼ねてるんだろうねえ」
「セキュリティがしっかりしてますね」
「上ハ開イテルケドネ〜」
音を遮断する技術は、広範囲にわたって掛けられていることもあってそこそこ高等な魔術のようだ。確かに、ぼんやり見える人影の割には何も音が聞こえない。
人の出入りを制限し、音まで遮断してこんなところで何をやってるんだろう。あんまり健全そうじゃないのは確かだ。
「入場料とか払ったら入れるんでしょうか」
「係ノ人出テコナイヨ〜ビビッテガタガタシナガラ気配消シテルヨ〜」
「サフィさんが警備員ボールの中に入れちゃったしね……」
「えへへー」
巨大なシャボン玉のようなものに入れられてしまった槍を持つローブの2人は、3メートルの高さで必死に出ようともがいている。魔術陣で姿を消している残りの1人も、声をかけてみたけれど返事はなかった。私たちが去るまでは透明人間でやり過ごそうという魂胆らしい。
「サフィさん、これ通れるようにできますか?」
「できるよー。てかユイミーちゃんでもできるよ! やってみる?」
「え、じゃあやってみようかな」
サフィさんばかり頑張ってもらうのもどうかとも思ったので、自分でやってみることにした。
シノちゃんを抱えなおし、右腕を振り上げる。すりこぎを振り下ろそうと思ったら、サフィさんが私の手首をガシッと掴んだ。
「あーっと待って!」
「え、なんですかいきなり」
「ユイミーちゃんって時々いきなり大胆になるよね?!」
「ソコガイイトコダヨネ〜」
スキスキと言いながら抱っこされたまま頭をぐりぐり擦り寄せてくるシノちゃんを指で撫でつつ、サフィさんを見上げる。
「いや急に神器使うと思わなかったからさぁ……ていうか壊し方聞いてくるかと思ってたんだけど……」
「壊すなら殴るのがいいかなって」
「合ってるんだけど、合ってるんだけどね。俺もユイミーちゃんのそういうとこ割と良いと思うけどね」
「シノチャンノユイミーちゃんニ触ラナイデッ!!」
シノちゃんがクワッと怒ったので、サフィさんが私の手首を離した。
「あのねユイミーちゃん、気軽に持ってるけどその棒は結構威力が高くてね」
「神様すりこぎですもんね」
「どうも見てると生体には弱めに、無機物には強めに効果出そうなんだよね」
「そんな性質あるんですか。やっぱり神様がいい人だからかな」
「で、ここの魔術と大岩は、そんなには強くないというかね。簡単にいうと、下手に強い武器使うと、繋がってる大岩にも影響があるというか」
「岩にヒビが入ったり?」
「っていうか、破壊の意思を込めて使ったら、ガッツリ壊れて中に倒れ込んだりするかも」
岩を見上げる。3メートルで浮かぶ槍ローブの人よりも高いところまで伸びている巨岩だ。これがガラガラ崩れてきたら、危ないってレベルじゃすまないのは見ててわかる。
「うわ、私たちも危なかったですよね。すみません」
「いやそこは俺が守るしユイミーちゃんは腕輪もあるから問題ないけど、中に探してる人間いるなら避けた方がいいと思うなーって」
「確かに。止めてくれてありがとうございます」
今までヘドロ人間やら木人間やらにヒットした感じだと、普通のすりこぎよりちょっと強い程度かなという意識だったけれど、やっぱりこのすりこぎは神様仕様になっていたようだ。次元の狭間で無機物っぽいものを壊したけれど、無事でよかった。
「じゃあ、すりこぎ以外で……っていうと、拳で大丈夫ですか」
すりこぎをリュックのポケットに入れ、私がグッと右手を握ると。サフィさんはオッケーといつもの笑顔に戻った。
リュックを背中に背負い、シノちゃんをサフィさんに渡してじっとすりガラスっぽいものを見つめる。
息を吸い、気合を入れて拳を突き出すと、大きな音とともにそのすりガラスが砕け散った。




