迷宮小旅行18
人々が立ち食いしている中に置かれている大きな鍋は、明らかに何らかの動物っぽい脚が蹄付きのまま放り込まれている。
冒険映画で出てきそうな、アフリカ部族を連想させるギラギラ金メッキのお面、斧や剣、そして金属製の棍棒。
「この辺は物価も安いからお金も気にしないでいいよー何か欲しいものない?」
「いらない」
「あっアレとかどう? 強い怨念付きのいいネックレスだよー300年前くらいにも見た」
「いらない」
「呪術に使えるよー」
「いらない」
サフィさんのありがた迷惑な申し出をスルーしつつ、周囲を見回しながら歩く。
ここの人たちが、最初に見た市場の人たちよりも強いというのは、その態度からも見てとれた。私たちをジロジロ見るだけではなく、露店に立つ店主や、ときには通行人までもがときどき声を掛けてくる。自分の強さに自信があるのか、度胸のある人が多いようだ。ローブを着たタイプの人は慌てて逃げていくけれども。
掛けられる声の内容は、「おう」とか「よう」とかのただ注意を向けようとするような掛け声や、物を売りつけようとする声、または、物を売らせようと「高く買うよ」というような声もあった。
さすがにサフィさんには手を出すと危険だとわかっているようで、声を掛けるだけで無理に引き留めようとしたりする様子はない。けれど、胴間声というのだろうか、大きくて乱暴な声なので威圧感があり、体格の良い男性に近寄って声を掛けられるとそこそこ恐怖感はあった。
「テピー!」
「あーほらユイミーちゃん、油断しちゃダメだよー」
テピちゃんとサフィさんの声がして、それから私の背後でギャッと短い叫び声が響いた。
サフィさんは私の方へ体を向けて腕を背後に伸ばし、その手に男性の手を握っている。膝をついてサフィさんに持ち上げられるようにしている男性は、周囲の人と比べるとやや格好がみすぼらしかった。手首を握られて痛むのか、顔を強く歪めて脂汗をかいている。
「今、持ち物取られそうになってたんだよ」
「えっ気付かなかった」
「小手先の魔術を使ってスリをする奴もいるから、こういう人混みでは気を付けないと」
『そうですうユイミーちゃんさまと一心同体の私が盗まれたら一大事ですう!!』
「テピー!」
「ごめんね、サフィさんもありがとうございます」
リュックを一度下ろして前に背負い直す。サフィさんは私を見てウンウンと頷いてたけど、その手にはしっかり力が入っているのか、腕を握られた男性が痛みで呻いている。痛すぎて絞り出すような声になっているところがまたヤバそうだ。
「あの、その人は」
「んー危ないから消しちゃった方がいいんじゃない?」
「消すというのが物理的になら、それはどうかと思います」
「えー、ほら、こう見せしめにしといたらこの辺ではもう他のが寄ってこないかなって」
「抑止力のために人を消さないであげてください」
サフィさんはちぇーと唇を尖らせながら、パッと手を開いた。地面に倒れ込んだ人が声もなく掴まれていた腕を引き寄せてうずくまっている。
「サフィさんサフィさん」
「なーに? ユイミーちゃん」
「あの人の腕、なんか紫色なんですけど」
内出血てきな紫じゃなく、かなり濃いくっきりとした紫色なんですけど。
倒れ込んだ男性は手首のあたりが一番濃く、肘に向かってグラデーションになるように紫色が広がっていて、その紫色の中に所々に黒い線が稲妻かひび割れのように走っているのがおぼろげに見える。
ゾンビ映画だったらゾンビ化確定みたいな色である。
「何したんですか?」
「そんなに強いことしてないよー。ただこれ以降、魔力上げようとしたり魔術行使しようとしたら、死んだ方がマシかなって思う痛みが走るように魔術かけただけー」
「そもそも魔術を使えないようにしないあたり、かなり悪質ですね」
脂汗を浮かべながら地面を這うように露店の間へと逃げていく男性にちょっと同情してしまった。
しかし、姿が見えなくなると、もう何事もなかったかのように賑わいが戻ってくるのがすごい。物騒なことにも慣れている人たちばかりなのかもしれない。
私はこれ以上の犯罪者兼犠牲者を出さないためにも、リュックをしっかり抱え、サフィさんに近付きながら歩くことにした。
「あら? あなた最奥エリアの店の人じゃなくて?」
そうやって声を掛けられたのは、それからすぐのことである。




