迷宮小旅行17
「それにしてもユイミーちゃん、迷宮にはああいう行き詰まった奴らがうじゃうじゃいるんだよ。ソレ全部に同情して助けてやるつもりなの?」
キラキラニコニコとニンニクに思いを馳せていたサフィさんが、おもむろにキリッと表情を引き締めて私を見る。
「ユイミーちゃんのニンニク料理好きだし、さっきくらいの距離なら労力もないからやってもいいけど、いちいち他人気にしてたら時間がいくらあっても足りなくなるよー。特に人間は寿命短いしねー」
「情ケハ人ノ為ナラズダヨネ〜」
「シノちゃんそれ誤用。別に同情とか全員助けようとかは思ってないです」
「じゃあさっきの物乞い助けたのはなんで?」
「シノチャンニ肉オカワリクレナイノモナンデ〜?」
ワキワキと脚を動かすシノちゃんに炙った干し肉を分けてあげながら、先程まで私たちに痩せた手を差し出していた人たちのことを頭に思い浮かべた。
「いや……あんな人たち目の前にいて見捨てるのもなんか気分悪いですし。見られながら食べるのも気まずいし、かといって自分の持ち物から色々あげるのも意味ない気がして」
「まー金やったところで無駄にしそうだしねえ」
「ちょうどサフィさんいるし、帰ってくれるならお互いそのほうがいいかなって」
「俺のこと道具扱いするのねひどいー」
「棒読みで言われても」
わざとらしく泣き真似をしたサフィさんには、パンをあげておくことにした。これをニンニクだと思って食べてくださいと言い添えたら「流石にひどい」とプンスカしていた。
ウェットティッシュで手を拭いていると、シノちゃんがそっと寄り添ってくる。干し肉やらパンやらを食べて汚れた脚やクチバシも拭いてあげると、シノちゃんがプェーと鳴いた。
「ユイミーちゃんッテ〜、イイヒトダヨネ〜。雑魚デモ困ッテタラ助ケルダヨネ」
「別にいい人じゃないよ。自分が気分悪い場面みたくないだけだし」
「モ〜ソンナコト言ッチャッテ〜シノチャンノタメニウェットティッシュヲノンアルコールニシタシ〜最近イツモシノチャン用ゴハン作ッテクレテルノ知ッテルンダカラ〜」
「えー俺用のごはんも作ってよー」
「作ってるじゃないですか、平日夜」
「ヒトノ話ニクチバシ突ッ込ムンジャナイッ!!」
「俺クチバシ生えてないよー」
サフィさんとシノちゃんが仲良くしている間に、テピちゃんたちも拭き、出発の準備を整えた。
「ジャアチョット行ッテクルワネ〜」
「気を付けてねシノちゃん。お店の通り抜けたあたりで待ってるね」
「アイヨー」
お腹も満たされたシノちゃんは、ヨッコラショと言いながら、周辺の確認のために飛び立っていった。軽くなった肩にそっと手が回される。
「2人っきりだね……」
「セクハラごっこやめてください」
「いって」
明らかに作ったいい声を出しつつキラキラしながら斜め45度の角度で顔を近付けてきたサフィさんを、すりこぎでグリグリと押しやる。私が背負っているリュックからは『2人っきりじゃないですっ!!』とか「テピテピー!!」とか「ゲヒィーッ!!」だとか抗議の声が聞こえてきていた。
すりこぎが効いたのか、もともと本気じゃなさそうだったサフィさんは「ちぇー」と言いながら歩き始める。私はそれに並んで、ちょっと怪しい雰囲気の露店が並ぶ通りに入った。
当然のことながら、行き交う人やお店の人からジロジロと見られる。宿のあった市場と違うのは、見てくる人々があからさまな距離を取らないことだ。
そこそこ混んでいる中で誰ともぶつからないので避けられてはいるのだろうけれど、向かいから歩いてくる人も腕が触れ合いそうな距離を通っていく。体格がよく強そうな人が多いのでちょっと威圧感を感じてサフィさんの方に寄ると、サフィさんは「混んでて暑苦しいねー」とのんびり言った。
「人が多くて気持ち進みにくいですね」
「うん、まあ死の鳥もまだ戻ってきそうにないし、店冷やかしながらでもいいんじゃないかなー。何か欲しいものあったら買ってあげようか?」
サフィさんに誘導されて、露店がよく見えるよう道の端側に寄りながら歩く。混み合う客の隙間から、布で区切られた店の商品がチラチラと見えた。
「……いらないです」
「えー? 遠慮しなくていいよー?」
髑髏、正体の分からないミイラ、やばそうな草。
そして使い込まれてそうな武器や刃物。エグい色の鍋。
どうやったらこれだけ購買欲を削ぐ店を並べられるのか問いただしたいくらいだった。




