迷宮小旅行14
ヘドロ幻術使いがはびこるゴツゴツした大岩の並ぶ道を抜け、細い針が四方に長く伸びている場所を神器で壊しながら進み、四肢に絡み付こうとするツタ類をこれまたすりこぎで叩きながらジャングルっぽいところを通り抜ける。
「思ってたより色々ありますね、迷宮」
「そう? この辺は環境変化が少ない方だと思うけどねー」
「ウチラハ立ッテルダケデ普通死ヌトコトカガ地元ダモンネ〜」
シノちゃんは死の森出身なので、ハードな環境には殊更耐性があるようだ。足元が不安定なところだと私の肩に乗っているシノちゃんの揺れがすごいので、ふたりに頼んでサフィさんの肩に乗っててもらう。しかしシノちゃんは一定時間が経過するとおもむろにサフィさんの頭に尖った嘴を突き立てて流血させてしまうので、私はシノちゃんを小脇に抱えながらすりこぎを振り回すこともしばしばだった。
ツタの花を叩いて撤退させて前を向くと、木々の間に3メートルほどの大きな扉が聳え立っている。
「お、大きい扉がある」
「階層の扉だよー。稀に出てくる迷宮固定魔術のひとつで、帰るときとかに遭遇すると便利」
「ワープみたいなものですかね」
「見つけられてラッキーだったねえ。魔女はよく使うらしいけど、やっぱりユイミーちゃんがいるから見つけられたのかな」
「関係ないと思います」
黒檀のようなすべすべしてそうな扉は、いつもここにあるわけではないようだ。理解し難いけれど、ジャングルに建っているにしては汚れもないのでそうなのかもしれない。
下り専用の扉なので難易度の高い場所に行ってしまうし、ランダムに行き先が決まるので希望する場所に行けなかったりするようだけれど、この辺りはしばらく危険はない(サフィさんとシノちゃん談)のでただ近道できると思って差し支えないようだ。
「本当に大丈夫なんですかこれ? シノちゃん、ちゃんとユウに近付いてる?」
「近付イテル近付イテル〜オ腹ナデテ〜」
「えーユイミーちゃん俺も撫でてー」
「オメーノ頭部デサッカーシテヤロウカッ!!」
いまいち頼りない2人を引き剥がしつつ、大きな扉を押す。見た目より軽かったそれが開くと、久しぶりに開けた場所が見えた。
「うわ、なんか天井がぐっと高くなりましたね」
「奥に行けば行くほど高いねそういえば」
「地下に進んでるのに謎ですね。シノちゃん、どう? ユウのいるところ通り過ぎてない?」
「大丈夫ナンジャナイカナ〜?」
適当な返答を怪しく思いつつ、私たちはドアを通り抜けて迷宮内をワープした。ドアがゆっくり閉まると、ぱっと消えてなくなる。そうして見えた背後の景色も、今までいたジャングルっぽいところとは全く雰囲気が違っていた。
「なんか……ツルツルしてますね」
「そうだねー」
地面は、黒っぽい鉱石を完璧に磨き上げたようなツルツルのもので覆われていた。見渡す限りツルツルなので、壁や天井が反射して余計に空間が広く感じる。足に少し力を入れるだけでも靴が滑るほどツルツルなので、歩き出すことすらちょっと不安なくらいだった。
「ここ進むんですか? 方向もわからないし、歩くのも難しそうなんですけど」
「この辺は飛べないと難しいかもねー。ユイミーちゃん、いい機会だから飛行系の魔術覚えてみる? ほら簡単だよー」
サフィさんがニコニコしつつ、ふわっと地面から50センチくらい浮いた。風もないのに、ローブや髪が揺れているのが不思議だ。そのままふわふわと私の周りを一周する。そのまま移動もできるらしい。
「簡単なのは手足に魔術陣を書き込むことなんだけどー……ユイミーちゃん? なんで俺のローブ掴んだの?」
「そんなことするより、サフィさんがこのまま引っ張ってくれたらいいと思います」
「えっ」
サフィさんがふわふわと前に移動すると、ローブを握っている私も立ったままツーと滑って前進できる。振り返ってこっちを見ていたサフィさんに私が頷くと、サフィさんは唇を尖らせながらもフワフワと進み始めた。
「わー、今までの道と比べるとラクだし楽しいですね」
「浮いたらもっと楽しいのに……」
「今のままで充分楽しいので」
飛行系云々なんてたぶん上級の魔術だ。こんなところで難易度高い魔術をいきなり実践したくないので、私は平和な道を選ぶことにした。リュックから舌打ちが聞こえた気がするけど気のせいだろう。
「ネ〜ユイミーちゃん、スピードスケートゴッコシテ〜前傾姿勢デ体傾ケテ〜」
「サフィさん、もっと速度出してください」
「いや死の鳥は飛べるんだし先行って方向誘導してよー」
「シノチャンハ気高イ鳥ダカラ飛ビタイトキニ飛ブッ!!! アト目的方向カラ左ニ30度ズレテルッ!!」
サフィさんがぶーぶー言いながら低空飛行し、私がそのローブに掴まって黒いツルツル地面の上を滑り、シノちゃんは私の肩で歌う。
目的を気にしなければ、結構楽しいスケート遊びだった。




