迷宮小旅行13
「ていうかこのすりこぎ、そのまま返すのってダメだよね。神様は料理用に使ってたっぽいもんね」
「モトモト料理用ダカラシテネ〜」
「買って返す……すりこぎの良し悪しとかわかんないんだけど、どうしよう。これどこのメーカーなんだろう」
「手作リシテソウダヨネ〜?」
ボロボロのお社に住む神様が、部屋の隅でシャコシャコと木の棒にヤスリをかけている姿を想像した。神様、やっぱりちょっと貧乏なのでは。趣味ですりこぎ作る人あんまりいない気がする。
やたらと手にしっくりくるすりこぎは初心者には作れそうにもないし、作って返すのも難しい。既製品で満足してくれるだろうか。ていうか、もし現役で使っていたすりこぎなら、いま神様困ってないだろうか。ちょっとした料理にすりごまオススメ的なこと言ってたけど。
「いやーユイミーちゃんってなかなか肝が据わってるよねー」
「なんですか急に」
「普通気にするのこっちじゃない?」
サフィさんが指したのは「こっち」、つまりヘドロの方だった。
デロデロと広がり続けているので、下がって距離を取る。
「そもそも何ですかこれ。なんか殴っちゃったんですけど」
「これが幻術作ってたんだよー」
「あ、さっきの?」
坂道を下り終えて見えた賑やかな光景は、今はすっかり消えている。今見えている、薄暗くて岩ばかりの光景が本来の景色のようだった。
「幻術にかかってる人間に近付いて金品とか肉とかを奪い取ったり削ぎ取ったりするんだよー弱い生き物ほど卑怯な手考えるよねー」
「肉……削ぎ……?」
「ちなみにその辺でウロついてる魔道士は、肉獲られた人間を勝手に治癒して法外な金額を請求し、それを盾にヤバいことの仕事へ誘って仲介金をせしめてる小物だよ」
「なんか漫画のシシジマくんみたいですね……」
いつの間にか闇金に借金できてるやつだ。
古いローブのフードを深く被った人影が、サフィさんに指されて慌てたように逃げていく。ローブの人は何人かいたけれど、どの人ももれなくサフィさんに気付くなり慌てて方向を変えたり岩陰に消えていったりした。サフィさんが強い魔道士だからだろう。
「ていうかそんな危ないやつが近付いてるなら、教えるなり追い払うなりしてくださいよ」
「えーそんなことしたらユイミーちゃんの特訓が意味なくなっちゃうじゃん」
「ユイミーちゃんノ無双姿ガ見レナクナッチャウジャン〜」
「……」
「うわちょっと! その汚れ俺の服で拭く?!」
「フクダケニ〜?」
しょうもない理由で助けてくれなかったサフィさんには、すりこぎの汚れを綺麗にしてもらう手伝いをしてもらった。ローブの布地は触ってみると高そうだった。シノちゃんは羽毛をボサボサにしておいた。
も〜と言いながらサフィさんがパパッと手で払うと、ヘドロ模様がついたローブはスッと綺麗になる。
「すごい。ニンニク好きとはいえさすが魔道士ですね」
「ねえそれニンニク好きがマイナス要素みたいに聞こえない?」
「ユイミーちゃんモヤリナヨ〜」
『そうですっユイミーちゃんさまにもできますよっ! 浄化浄化っ!』
「ねえユイミーちゃん聞いてる? ニンニクのことどう思ってるの?」
背後から魔術ノートの声がして気が付いた。今のサフィさんの魔術も、浄化の魔法の一種なのだろう。手を洗いながら清めたり、ハンドパワーを込めることで清めたりの練習はしてきたけれど、物理的な汚れを消す練習はなかったので気が付かなかった。
シノちゃんに肩へ移動してもらい、右手で持ったすりこぎに左手をかざしてみる。すりこぎの真ん中から先あたりにあるうっすらとしたシミが綺麗になるように念じた。
「……汚れ取れないですね」
「穢れは取れてるよー」
「汚れてるのに?」
「キモイ魔力ハ消エタヨネ〜」
ヘドロ的なやつの魔力がちょっと移っていたのが消えたらしい。相変わらず、私には違いがわからなかった。
結局私はサフィさんをニンニクでつってお願いし、物理的な汚れも取ってもらった。しかし道中でしばしばヘドロと遭遇したので、最終的には何回か倒してからまとめて綺麗にしてもらうようになった。
すりこぎ、新しいの買って返そう。




