迷宮小旅行11
そういえば神様からもらったお守りも、なんかすごい効果があるっぽかった。
もしかしてこのすりこぎもかなり神様パワーが詰まってるのでは。
手にしっくり馴染むすりこぎを握りつつ、静かになった下を眺める。
「……サフィさん、集まってた人たちいなくなっちゃったんですけど」
「え? そなの?」
「このすりこぎ、持ち歩いたら危ないやつですか?」
「んー、まあ、危ないっちゃ危ないだろうけどねー」
ニンニクでお茶を飲んでいたサフィさんが、立ち上がって窓際に近付いてくる。ヒョイと下を覗き込んでから、あー、と頷いていた。
「魔道士もどきか。流石にこの辺うろつくレベルでもわかるんだねー」
「攻撃しちゃったんですか私。大丈夫ですか逃げた人たち」
「攻撃ってほどじゃないと思うよ。なんかこう……パワー? 見え過ぎて逃げたんじゃないかな」
「パワー?」
「うん。ギラギラだから、それ」
ギラギラしてるらしい。そしてそれを振り下ろされそうだったので、ローブを着た人たちは死にたくないから逃げたらしい。
私には食材をすり潰すのに最適な滑らかさと曲線を描いているだけのただの木の棒にしか見えないけれど、あの人たちには鬼の金棒にでも見えたのだろうか。
「じゃあ、何かしら見えない攻撃が当たったというわけじゃないんですね?」
「うーん、まあ、そう思っててもいいんじゃないかな」
「なんでそんな曖昧な返事なんですか」
「ユイミーちゃんガ〜雑魚ヲブチノメシタ〜」
「ぶちのめしてないから」
仮にぶちのめしたとしても、それは私じゃなくすりこぎのせいだから。
私の腕の中でまったりしているシノちゃんによく言い聞かせてから、私たちはいよいよ出発の準備をすることにした。
「ゲヒッ」
「お、結構元気に動き回ってるなー。術も弱くなってないし。上々」
2次元謎生物であるゲヒゲヒが、大学ノートの表紙をビュンビュンと動き回りつつ、はみ出た直線を使ってサフィさんに色んなマークを見せて自慢している。ゲヒゲヒと一生懸命になにやら鳴いている声を聞きつつ、サフィさんはうんうんと頷いていた。通じるらしい。
「ユイミーちゃんさまっ! 乾いたやつ! 水気のないやつだけ入れてくださいっ!」
「ネーコノシチューモ持ッテ行コ〜」
「ひいい溢れたら悲惨です無理です匂いも移りますうー!!」
「ウルセーヨマタ羽根刺シテヤロウカッ」
みんなで食べても結構余ってしまった食事は、なんかもったいないので持っていけるものはお持ち帰りして後で食べることにした。パンや干し肉なんかである。干し肉は結構大きくて異世界感というかキャンプっぽさが強い。
「テピちゃんたち大丈夫?」
「テーピー……」
次元の狭間でやたらと膨らんでいたテピちゃんたちは、私たちが食事をしている間にじわじわと元の体に戻ってきている。一応食べ物を分けてあげたけれど、まだふにゃふにゃしていた体はバランスを取るのが大変らしく、小さいお肉を両手に持ちつつも数匹で背中合わせにもたれ合ってゆっくり食べていた。いつもよりゆっくりだけど歩き回れるようにもなっているので、引き続き様子を見ることにする。
「テーピ、テピテピ、テピー」
「うんうん、リュックでゆっくりしててね」
「テーピッ!」
手のひらに1匹乗せると、ふにゃふにゃしながらも一生懸命何かを訴えていて、相変わらずわかりにくかったけれど可愛かった。やる気はあるらしい。
「ネェ〜ユイミーちゃん早ク抱ッコシテ〜」
「荷物まとめるからちょっと待って」
荷物を整理し直したリュックを背負うと、シノちゃんが私の腕をよじ登ってくる。もぞもぞ動いて仰向けになると、満足げにプェッと鳴いた。
「よし、じゃー行こっか」
「はい。改めてよろしくお願いします」
「こちらこそー」
「シッカリ案内シロヨー」
宿の玄関へと戻ると、市場はまた最初と同じように賑わっていた。
スタートがちょっと遅れてしまったけど、早めに行って早めに帰りたい。
気を引き締めながら外を見ていると、宿の人がバタバタと慌てていた。
「はい、今日の宿代と食事代ね」
「はっはいどうもありがとうございますっ……あの、おつりは」
「小銭重たいからいらないー」
「あ、ありがとうございます!!」
「……」
しれっとした顔で成金ムーブをしている吸血鬼の脇腹を、私はすりこぎでぐりぐりしてから出発することにした。




