迷宮小旅行9
サフィさんいわく。
このエリアで唯一、金貨を扱っている宿がここ。
この街は、迷宮内の人間で、普通に賑わっている最奥地点。
これ以降は色々とアレなので、まともな宿や食事をするなら、ここまで戻ってくるしかない。
らしい。
「色々とアレって?」
「強盗毒殺何デモアリダヨネ〜」
「怖いんですけど」
「あ、ユイミーちゃんお代わりする?」
「お願いします」
店員さんが3人がかりで持ってきた食事は、中華や東南アジア系の料理に似ていた。
大皿の上にお肉や、さらに小さい器に入っている料理が並べられている。大きくて深い器に入っているのは、お粥っぽいものだった。中華粥なら揚げパンのようなものがついてくるけれど、ここで添えられているのは揚げ煎餅みたいなものだ。ペースト状の調味料が数種類あり、それを各料理に付け足して食べてもいいらしい。カトラリーはスプーンとナイフだった。
サフィさんがいそいそと料理の説明をしたり取り分けてくれたりするけれど、いつもは立場が逆なのでなんだか不思議な感じがする。馴染みがない料理は食べるのにちょっと勇気が必要だったけれど、口に入れると美味しくて、そしてお腹がかなり空いていることに気付いた。強めの空腹感は次元の狭間にいたのが関係しているのかもしれないし、ただ単純に歩き疲れたからかもしれない。
「ネ〜ユイミーちゃん〜コノ手羽先ノ骨取ッテェ〜」
「いいよ。野菜も食べてね」
「いや死の鳥、骨くらい砕いて食べるでしょー」
「テメーノ尺骨ヲ粉砕シテヤロウカッ!!」
ここは地下なので時間の感覚がよくわからないけれど、今は夕方くらいらしい。サフィさんもシノちゃんも色々と頑張ってくれていたらしく、旺盛な食欲でたくさんの料理を平らげている。シノちゃんはまだしも、サフィさんはこういう豪華な食事に慣れてるなら店の料理は質素に感じてるのでは、と訊いたら、美味しいしニンニクが最高なので店で食べる方がいいとキラキラ笑顔で言っていた。ニンニク好きを拗らせすぎて価値観まで変わってしまっている。
「んーとね、迷宮は深く潜るにつれて環境が厳しくなり棲息するやつらも強くなっていくっていうとこはわかるよね」
「はい、なんとなくは」
「ここから奥に行くとね、人間だと普通には暮らせないレベルになるみたいで、自然と争いが増えるみたい。食糧も安全な場所も少ないから取り合いになるし、あと単純に外敵から襲われる警戒心でギスギスしたりするっぽいよ」
「なるほど」
衣食住の保証なし、襲われる保証ありとなれば平和な精神で暮らすのは難しいだろう。食べ物が少なければ強盗も出るだろうし。毒殺はちょっとわからないけども。
「そんなとこで暮らさなくても、この辺にいたらいいんじゃ」
「まあ奥に行けば行くほど、地上で価値があるとされるものが沢山あるからねー」
「そうなんですか? 例えば?」
「吸血鬼とか?」
「シノチャントカ〜?」
そもそもの環境として魔力が多く、結果魔力を多く持つ生き物や強い魔術を操る人が多いため、迷宮の奥の方のものは持って帰ると大体価値が高いそうだ。
さらに、究極的に強い生き物や希少な存在は、身体の欠片でも高値で取引される、らしい。用途は魔術に使ったり、食べたり、色々なんだそうだ。
そういったもので一攫千金を狙ったり、ただ単に自らを鍛えるためであったり、色々な目的で迷宮の奥を目指す人は後を絶たないらしい。
「シノちゃんの羽根とか、うちの店でも高く売れますしね」
「吸血鬼の牙とか髪とかもいい値段で売れるもん〜いる?」
「いらない」
「お守り代わりに!」
「いらない」
前にも言われた気がするけど、牙のお守りは気持ち悪すぎる。私が繰り返し断っていると、リュックの方から「貰っときましょうよう〜呪術に使いましょうよう〜」と声が聞こえてきた。スルーした。
食事をしたら、歩き続けていた疲れも癒えた。
しばらく3人で、お互いに離れていた間のことなどを話す。謎の壁を割って女の人が落下した話などでちょっと引かれたり、シノちゃんの羽根アンテナが役に立ったことなどを話していると、急に外が騒がしくなった。




