迷宮小旅行3
「ニンニクは? ニンニクはないの?」
無駄にキラキラした笑顔で訊いてくるサフィさんに、私はコンビニで買った商品を渡した。
ガーリックチップスである。普通は料理の上にかけたりして使うものだと思うけれど、サフィさんは普段から単品でも嬉しそうに食べているので大丈夫だろう。
笑顔で受け取ったサフィさんが、私の隣に座って食べ始める。ニコニコしながらキツネ色の薄切りニンニクをざらざらと口に流し込み、もぐもぐ食べてからこっちを向いた。
その表情はちょっと残念そうなものになっている。
「アレ? 美味しくなかったですか?」
「なんか……ユイミーちゃんの作ったやつのほうが美味しいよね……」
「揚げたてですもんね」
「今から作ってくれない?」
「何しに待ち合わせしたと思ってるんですか」
休日の早朝からニンニクを薄切りにして揚げるのは嫌だ。金を握らせてでも作らせようとしてきたので、キッパリ断っておいた。いつも通りニンニクに情熱をかけすぎている吸血鬼だ。
私がお断りしている間もマイペースに焼き鳥を食べていたシノちゃんが、バッと私を見る。
「ユイミーちゃんオクチ拭イテェッ!」
「はいはい」
「早クシテッスグ拭イテッ!!」
ハヨハヨと急かしてきたシノちゃんを不審に思いつつ、クチバシについたタレを拭き取ると、シノちゃんはサッとリュックの中に潜り込んでしまった。
まだフライドチキンが残っているのにどうしたのかと思っていたら、上空から神々しい存在が降り立った。
美しい真紅の翼、長い脚、たなびく尾羽。
そして開かれた小さなクチバシから広がる、高らかにすこーんと響く鳴き声。
「ヨキカナァーッ?!」
「……スジャークさん、おはようございます……」
飛んでる姿に謎のキラキラエフェクトがかかっていて、完全に壁画とかになるレベル。降り立つ姿もまさに「降臨」という感じだった。
まあ、来るとは思ってたよね。
しゃなりしゃなりとモデル歩きで近付いてきたスジャークさんが、圧を感じる視線でじっと見上げてくる。
「……フライドチキン食べますか?」
いたたまれなさにちょっと気まずくなりながらもチキンの切れ端を見せると、スジャークさんが細長い首をにゅっと動かしてそれを食べた。
スジャークさん的にも、鶏肉は共喰い判定じゃないようだ。
飲み込んだスジャークさんは私に向かって小さく「ヨキカナ」と頷いた。なんとかセーフなようだ。その次にリュックをじーっと見ていたけれど、シノちゃんも魔術ノートもゲヒゲヒもテピちゃんも物音ひとつ立てずにやり過ごしていた。
「……ヨキカナァ?」
「あはは、おはよースジャーク。やっぱこの辺よく出没するんだねー」
「ヨキ…………カナァアァ?」
リュックへ圧をかけ終えたスジャークさんが、隣に座るサフィさんをジロジロと見始める。かなり強めの視線を投げかけているけれど、サフィさんはのんびり笑いながらガーリックチップスの残りを食べていた。
「ちょっとサフィさん……すみませんスジャークさん、今日は送り迎えしてくれるだけで、サフィさんはすぐ帰るので」
「えーユイミーちゃんの家行っちゃダメー?」
「ダメ」
空気を読まないタイプの吸血鬼を、もはや問いかけることもなく無言かつ至近距離でスジャークさんが睨んでいる。サフィさんはもうスジャークさんに怒られたらいいんじゃないかな。
すみませんすぐ行きますと私がなんとか説得すると、スジャークさんは「ヨキ、カナ」と頷いてくれた。
「これから私が逆に迷宮行きますけど、同級生を見つけたらすぐに帰りますので……」
「ヨキ」
「神様にも一応説明してあるので……ゼリーもお供えしたので」
「ヨキカナ」
手を拭いて片付けをした私をじっと見つつ、スジャークさんはリュックのサイドポケットに入っているすりこぎをクチバシでつついていた。普通のすりこぎではないということがわかっているらしい。迷宮行きについては許可してくれているらしく、特に圧をかけられることもなく頷いていた。
「じゃあ、えーっと、行ってきます」
「……」
立ち上がってリュックを背負いなおすと、スジャークさんは長い首を使って背中にクチバシを向けた。それから真っ赤な羽根を1枚取って、私に差し出してくる。後ろからコトワレッと囁きが聞こえてきた。
「いやっ、羽根はあのいらないです。ちょっと高級すぎるというか、もう貰いすぎてるというか」
「ヨキッ」
「いやヨキでは」
私が後ずさると、グイグイと近付いてきたスジャークさんが羽根を無理やりパーカーのポケットにねじ込んできた。ねじ込みすぎてスジャークさんの頭もポケットに入っていた。
冠羽をちょっと乱しながら羽根を私のポケットにねじ込み終えたスジャークさんは、満足そうに頷いてから天を向いて高らかに鳴く。
「ヨキッッッカナァー!!」
バサッと羽ばたいて飛んでいく姿を、長い尾羽とキラキラが追っていた。
「………………」
なんでだろう。
なんで私が知っている鳥は、とりあえず羽根をグイグイ渡してくるんだろう。
「ユイミーちゃん、変な鳥に好かれるタイプだよねー」
「誰ガ変ナ鳥ダッ!! シノチャンハ強クテカッコイイダロウガッ!!」
サフィさん(とシノちゃん)の言葉は聞かなかったことにしつつ、私たちはスジャークさんに怒られないよう迷宮へ向かうことにした。




