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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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迷宮小旅行1

 ゴールデンウィーク初日。


「おかしいですう……」

「何が?」


 持ち物を確認していると、2本の羽根を揺らしながら半透明少女が首を振った。


「戦いへ赴く魔女は、魔女はもっとこう、魔女らしい服装であるべきですっ!」

「魔女らしい服装ってなに?」

「黒焼きにした毒草で染めた漆黒のローブ、霊木の杖または飛行補助のホウキ、カラスのような従順で理知的な使い魔、そして小脇に抱える魔術ノート!! それこそが魔女のしかるべき姿です!!」


 量販店で買ったパーカーとジーンズ、容量大きめのリュックにすりこぎ、トロピカルカラーなオウム、片手に持っているのはカフェオレボウルに入ったニンニクな私は、魔術ノート的な理想とはかけ離れているようだ。

 新しい水を入れていつもの場所にカフェオレボウルを置き、冷蔵庫からペットボトルを取り出してタオルで包む。


「そんな怪しい格好してたら職質されそうだよね。ていうかその触ったらただれそうなローブとか杖ってどこで売ってるの?」

「もちろん自分で作るんですっ! 毒草も自らの目的に合うものを育て、森の奥に生える霊木に斧を入れ……」

「すっごいめんどくさそう」


 もし仮に私が魔女を目指していたとしても、それだけで諦めそうなほどの手間だ。

 魔女、結構大変なんだな。まじょばちゃんもそういうことしてるんだろうか。


「ネ〜ユイミーちゃん今日ノ夜ハ牛タン食ベヨ〜」

「牛タンないから、早く帰ってこないと難しいよ。お持ち帰りでいいならいいけど」

「ヤッタータンシチュートタンサラダトツクネモオ持チ帰リシテッ!!」

「また食べ過ぎるよ」

「南蛮漬ケデビール無限ニイケルダヨネ〜」

「あれ美味しいけど辛いよね」


 ペットボトルをリュックのサイドへ入れている私の横、ベッドの上でシノちゃんがゴロゴロしながらいつも通りに食べ物のことを考えていた。


 ユウの居場所が確定してから今日まで、大学もバイトもそこそこ忙しかった。レポートは出された順に早めに手を付け、バイトでは連休前に買い溜めするお客様に対応し、サフィさんに教えてもらいつつ装備の確認もしたのだ。といっても、装備についてはそれほど手間はなかった。食べ物や地図くらいである。あとは買い足しができるように、私がバイトしているエリアでは見ることのない小銭へと両替してもらったくらいだろうか。自分では大きめのリュックとしっかりめの運動靴を買い、救急箱も用意したくらいだった。


「財布とスマホも一応持っていくか……忘れ物ないかな」

「ちょっとユイミーちゃんさまっ! 私のこと忘れてないでしょうねっ?」

「やっぱり魔術ノートも持っていくべきなの?」

「当たり前じゃないですかっ! あれだけ特訓を積んだのにひどいっ!!」


 半透明少女は私に合わせて徒手空拳の練習をしていたけれど、いまだに物理的な干渉ができるようになってはいないので戦闘力としてはかなり疑問である。魔術の勉強も少しは進んだけれどノートに書き込んだことは少ないし、そもそも厚みがあってハードカバーなので割と重い。

 動き回ることになりそうなので置いていったほうがいいのではないかと思っていたけれど、魔術ノートは行く気満々だったようだ。2色の羽根を揺らしながら私にしがみつき、腕をスカスカさせながら喚き始めたので魔術ノートもリュックに入れることにした。最初から入っていた大学ノートがゲヒッと迎え入れている。


「本当は手で持って、いつでも開いて魔術を行使できるようにしとくんですよう」

「はいはい」

「こんな、こんな暗いところに……せめてこっちの背中側ポケットに入れてくださいっ! ユイミーちゃんさまの体温を感じたいっ」

「それなんか意味ある?」


 文句を言う魔術ノートを一度取り出し、言われたように薄いポケットに入れる。ついでにリュックの中の位置をちょっと調整していると、手にポワポワしたものが当たった。

 掴んで取り出すと、それがつぶらな目でくりっと見上げてくる。


「……」

「ピィ?」

「なんか静かだと思ってたら」


 ピーちゃんをケージに入れ、さらにリュックの中をかき回すと、ムニムニしてたものもあちこちから出てきた。


「テピーッ!」

「いつの間にこんなに……いやテピちゃんたちはお留守番しててって言ったでしょ」

「テーピ!!」


 テピちゃんたちはわらわらと、いやテピテピと私の手から逃げ回ってはリュックの中で隠れたり、協力して外ポケットのチャックを開けて潜り込んだりを繰り広げる。あんまり機敏ではないので捕まえられるのは捕まえられるけれど、いかんせん数が多いので全員に対応するのは難しかった。隙をついてピーちゃんも潜り込もうとしてくる。


「あっこら」

「テピ!」

「いやメッシュの中は丸見えだし、ていうか本当に危ないかもしれないから」

「テーピー!」

「ピイィ?」

「ピーちゃんはかわいい顔しなくていい!」

「ネ〜早メニ出テコンビニデ限定味ノフィミチキ買ッテイコ〜」

「ユイミーちゃんさまっ今からでも金の魔術ペン買っていきませんか?」


 行く前から忙しいんですけど。

 ようやくピーちゃんを他のヒナたちとケージにしっかり閉じ込め、テピちゃんたちは何匹か連れていくことで合意した頃には、サフィさんとの待ち合わせ時間が迫ってきていたのだった。






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