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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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魔術実践基本のキ13

「…………えーと、とりあえず、すぐに死にそうな感じではなかったってことでいい?」

「イイトオモウヨ〜」

「あと3日くらいは大丈夫そうだったんだよね?」

「超激弱ナ人間ッテコトヲ加味シテモ〜アト1ヶ月クライハ生キテルト思ウダヨ〜肉体的ニハネ〜」


 肉体的に、ということは、精神的には大丈夫じゃないのだろうか。

 とはいえ、1ヶ月くらいは大丈夫なら、連休を待ってから行っても大丈夫そうだ。まだゆらゆらと怪しいダンスを続けるシノちゃんを手で押さえて止めつつ安心する。シノちゃんダンスが怪しすぎて物陰でプルプルしていたテピちゃんたちもホッとした様子になった。


「……らしいので、予定だと連休初日に日帰りで行ってこようかと」


 シノちゃんがブンブン振り回しているクチバシをキャッチして握りながら蝋梅さんに言うと、こくり、と頷きが返ってきた。


「シノちゃんもいるし、サフィさんっていう……怪しいけど強めの魔道士な吸血鬼ヴァンパイアの人も一緒なので無事に帰ってこれるとは思いますけど、連休明けにもし大学来なかったら何かあったと思ってください」


 そしてできたら助けてください。

 そうお願いしつつ、そっと菓子折りを差し出す。

 地元銘菓「さをり」のお菓子詰め合わせである。レーズンサンドが美味しいらしい。ちなみにシノちゃん提案のお菓子である。もはやシノちゃんの方が情報通なことに違和感を抱かなくなってきていた。


 銀ピーちゃんをそっとテーブルに下ろしてから菓子折りを受け取った蝋梅さんは、微笑んで頷き、そしてたおやかな手でサムズアップしてくれた。

 なんかオッケーっぽかった。


「あとで神社の方にもお菓子置いてこようかなと思ったんですけど、あそこってお供えしても大丈夫ですか?」


 蝋梅さんがこくりと頷いた。大丈夫そうだ。

 神社は鬱蒼としていてなんか湿気多そうなので、一応神様に持っていく方はゼリーにしておいた。日持ちもしやすいので、へびくんか誰かが回収してくれるだろう。


 神様パワーがどこまで有効なのかはわからないけれど、これでたぶん安心だ。

 迷宮ダンジョン系の謎存在がこっちに来られるなら、きっとこっちの謎存在も向こうに行けるだろう。スジャークさんとか行き来してるみたいだし。スジャークさんが果たしてどっちの出身なのかはよくわからないけれども。


「ネ〜早ク学食行コ〜景気付ケニ農大コラボスペシャル豚丼食ベヨ〜」

「いやその前に講義あるから。じゃあ蝋梅さん、そういうわけでよろしくお願いします」


 頭を下げると、蝋梅さんは頑張れと言うようにグッと拳を握ってくれた。見守り組のテピちゃんたちもちっちゃい手をグッと上げていた。ヒナたちは走り回っていた。



 放課後。


「……という感じなので……何かあったらこう……イイ感じでよろしくお願いします……」


 お賽銭を多めに入れ、菓子折りをお社の格子戸の手前に置いて、パンパンと手を打ってから入念にお願いしておく。


 貰ったお守りも持っていくので、何かあったら何とぞ何とぞ。探しにいく相手も日本人なので何とぞよしなに。

 あとゼリー多めに入ってるのでヘビくんたちも一緒にどうぞ。


 じっくり手を合わせていると、かたん、と軽い音が聞こえた。

 目を開けてぎょっとする。

 開いた格子戸の隙間から、白くて小さい手がにゅっと生えている。子供のような小さい手は菓子折りを掴み、スススと中へと引っ込んでいった。

 子供でさえ、人が入るには小さすぎるサイズのお社である。


「…………よ、よろしくお願いします……」


 何とか言葉を絞り出すと、白い手がまた隙間から出てきた。

 その手には、白っぽい木製の棒が握られている。

 白い手が握っている中央よりも少し上のところで真横に切れ目が入っている。下の端は、ちょっと斜めになっていた。

 棒っていうかこれ、短い刃物では。

 なんか時代劇で見たことある気がする。

 そして気のせいじゃなければ、その刃物は謎の気迫を発していた。なんかこう、殺気のようなものが伝わってくる気がする。


 白い手は、私に受け取れと言わんばかりに刀っぽいものを揺らしている。


「……あの、凶器はちょっと……」


 私がそういうと、白い手はすっと引っ込んでくれた。刃物が見えなくなった瞬間、空気が和らいだ気がする。

 何あれやばい。神様の刃物やばい。


 若干滲んだ汗を拭っていると、また手が伸びてきた。

 今度も棒を握っている。


「……これ、貸していただけるんでしょうか」


 白い手は肯定するように、握った棒をブンブンと振った。

 まるで「こうやって殴れ」と言わんばかりの動きである。

 木製の棒は、30センチを少し超えるくらいのサイズ。両端が丸い。攻撃力が高いわけでもなく、かといって素手よりは心強そうな感じだ。


「ありがたくお借りします……」


 私が両手を差し出すと、白い手はその上にぽんと棒を乗せた。小さな手はグッと親指を上げると、お社の中に引っ込んで格子戸も閉まった。


 棒は、片側が細く反対側にいくにつれて少し太くなっている。細い方を握ってみるとしっくりくるサイズだった。よく見ると小さく穴が開いていて、紐が通せそうだ。

 反対側の太い方は、木の色がやや濃くなっていて使い込んだ様子が見て取れる。


「……」


 うん。すりこぎだこれ。

 確かに攻撃に使えそうだけど。刃物よりは安全そうで断然いいけども。

 神様も物理攻撃推奨なのだろうか。

 若干の困惑とすりこぎを抱えつつ、私は帰宅した。


 ちなみにその夜、誰かに「炒ったゴマを摺っておひたしにのせると美味しい」「インスタント麺にのせても香りが段違い」的なことを教えられている夢を見た。

 神様、ほしいアドバイスそこじゃないです。






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― 新着の感想 ―
[一言] いや、その。大変ためになる話ですが、そうじゃないです神様・・・
[一言] ミコト様も物理攻撃推奨かと思うとウケる!と思ってからの、料理アドバイス!!さすがです!! お手々はスズメくんかな?
感想一覧
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