魔術実践基本のキ9
「おーい」
自動ドアから
5メートル離れたところでウロウロしているその姿に声をかけると、その影がピクッと反応した。
「へびくん、久しぶり」
「おひさしぶりです、ユイミーちゃん」
「今日は洋服なんだね」
青いシャツとカーキの半ズボンを履いた色白の男の子は、私に気が付くと丁寧に頭を下げた。お辞儀はきちんとしていたのに、頭を上げるとへびくんはそわそわと視線を彷徨わせる。
「あの、いつもはきちんとおいしをまもっています。きょうは、ちょっとだけ、かいものをしてみたくて」
「あ、あの魔石とかいうやつ守ってくれてるんだ。あんまり気にしないでいいよ……っていったらアレだけど」
もじもじしていたのは、サボっていると私が思うかもしれないと心配していたからのようだ。
へびくんは、ちょっと前に知り合った例のボロボロ神社関係の子だ。預かった子犬が出した石が魔石とかいうなんか貴重で価値のあるっぽいもので、厄介そうだなと困っていたときに預かってくれたのである。すっかり忘れていたけれど、律儀にきちんと管理していてくれたらしい。
「スーパー入らないの? 今日野菜の特売やってるよ」
「はいります……」
へびくんは、首から下げたお財布をぎゅっと握りながら頷いた。
私が自動ドアを開けて進むと、小走りで後ろについてくる。キョロキョロと見まわしてから、私にそっとささやいた。
「あの、こんびによりもずいぶんとおおきいですね」
「そうだねー。もしかしてへびくんスーパー初めて?」
へびくんはサラサラの髪を揺らしてこくっと頷いた。いいタイミングで出くわしたようだ。
私はカゴを持ち、カート置き場からカートを1台引っ張ってきてカゴを乗せた。心なしかキラキラした目がそれを眺めている。
「色々あって面白いよー。コンビニより安く売ってるしね」
「おなじものでもやすいのですか?」
「そうそう。コンビニは夜中もやってて便利だけどちょっと高くて、スーパーは夜は閉まるけどちょっと安いかな。夜中もやってるスーパーもあるけど、この近くだと隣の駅前に行かないとないかも。カート押してみる?」
まだ背の低いへびくんは真剣な顔で両手でカートを押しているけれど、どことなくはしゃいで見えた。休日で混んでいるので、他の人が押すカートもじっと眺めて観察しているようだ。へびくんと同じくらいの見た目の男の子がカートに片足を掛けてスケートをしていたので、あれは真似をしてはいけないと注意しておく。
「ユイミーちゃんは、なにをかいにきたのですか?」
「えーっと、醤油と、お酢と、あとは野菜とお肉とかかな。このお店お惣菜が美味しいから、作り立てのやつがあったら買おうかなと思ってるけど、へびくんも食べる?」
「おしょくじものは、あるじさまがつくってくださいますので」
「あそこの神様、お菓子だけでなく食事も作るんだね……マメだね……」
なんとなく男の神様だと思っていたけれど、もしかして女の人だったのだろうか。こないだもなんか「おじいさんじゃない」とか主張していたし。
あちこちに興味津々なへびくんと一緒に売り場を見て回り、お菓子売り場で目を輝かせるへびくんをほほえましく眺め、今日は自分で払うと主張するへびくんのお会計を見守った。やっぱりピン札だった。
私が電子マネーで払うのを見て色々質問してきていたので、ワオコカードも作ってあげた。小学生くらいの子がピン札を手に買い物するよりは安全な気がする。
「チャージの仕方はわかった? この機械がなくても、使えるお店ならレジの人にチャージしてくださいってお願いしたらできるからね。この辺だと大体使えるけど、不安だったら使えますかって聞いてから買い物したらいいよ」
「ユイミーちゃん、ありがとうございます」
作り立てのカードを眺めて、へびくんがキラキラした笑顔を私に向けた。かわいい。サービスカウンターのお姉さんもへびくんの可愛さに笑顔になっている。
へびくん、礼儀正しいし初々しいしかわいいなあ。グイグイ来るタイプが身近に多すぎて、より控えめな態度に感じる。やっぱりへびくんもへびとはいえ日本人だからだろうか。
荷物を持ってない方の手を差し出すと、ちょっと頬を赤くしながら手を繋いできたのもとても可愛かった。
「おかしもたくさんかえたし、とてもたのしかったです」
「そっか、よかった。道路挟んであっち側のスーパーもいいよ。ちょっと高級だけど、外国のお菓子とかもあるから」
「べんきょうになります。いろんなくにのおかしがあるなら、たべてみたいです」
真面目な顔をして頷くへびくんに癒されながら、一緒に帰り道を歩く。
信号のちょっと手前のところで、手を繋いでいるへびくんにつられて足を止めた。
「どうしたの?」
十字路になっている道路で、左手前の歩道にいる私たちとは道路を挟んだ斜め向かい、右奥の歩道の区画へとへびくんが視線を向けていた。つられて見ると、男の人が走っている。
「あ、あれ山田さんかな」
結構な速さでカーブを曲がり姿を消した人は、なんだか見覚えがある姿だった。
元気になったんだなーと思っていると、手がぎゅっと握られる。
「おしりあいなのですか?」
「え?」
「ユイミーちゃんは、あれと、おしりあいなのですか?」
「え……」
じっと私を見つめるへびくんと繋いでいる手が、なんだかギリギリと力を込めて握られていた。




