魔術実践基本のキ8
日曜は買い物に出かけることにする。
出かけるから早く作れと急かすシノちゃんにスクランブルエッグとソーセージを作り、吸引力の変わらない食欲を眺め、見送ってからサラダを足して朝食にした。
ヒナたちはジュンキンアワホをポツポツと啄み、テピちゃんたちは刻んだレタスをパリパリ食べている。ニンニクはふんわりとローテーブルに降り立ち、乾いた布巾をたたみながらのんびりしていた。
ローテーブルの上には、シノちゃんが出かけたおかげでのんびりできている存在がもうひとり。
「……」
「……」
30センチほどの長さがあるピンクの羽根が、そよそよ、と動いている。
まるで先にテグスでもつけられているかのように、クイクイと窓の方に傾く。引っ張っている誰かがパッと手を離したように跳ねながら元に戻り、それから今度は反対側に向かってグイグイと大きく傾き始めた。羽の弾力性を最大限に活かしているように、曲がりながらグルングルンと回ったりもしている。
「……ちょっと、食事中に笑わせないで」
「笑わせてませんっ!! 勝手に動くんですっ!!」
魔術ノートから生えた半透明少女の生首は、涙目になりながらワナワナと震えていた。
昨日シノちゃんがブッ刺したピンクの羽根が、女の子の頭上でなぜか動き回っている。
「え、何? ダウジング?」
「知りませんーっ! ユイミーちゃんさま取ってくださいいいいい!」
「いや、取れないんだもん」
フォークを置いて手を伸ばしてみても、ピンクの羽根は半透明少女の他の部分のようにすかすかと手をすり抜けてしまう。魔術ノート自身が手も生やして抜こうとするけれど、それもすかすかとすり抜けるだけだった。生首と手だけの少女がキイイと怒っている。
「それってさー、シノちゃんのいる方向に曲がったりしてるのかな? グルグルしてるのはわかんないけど」
「どうでもいいですう……ユイミーちゃんさま、早く最強の魔女になってこれ抜いてくださいぃ……」
「いや最強の魔女にはなる必要はないんじゃないかな」
「ありますぅ……傷付いた私の心が癒されて幸せになりますぅ……」
ふえぇと泣きながらもしっかり主張をするあたり、いつもの魔術ノートだった。
とはいえ、魔術ノートもちょっと可哀想ではある。魔女見習いの立派な相棒としてやっていこうと思ったら、持ち主が特にやる気のない私になってしまい、それでも何とか頑張っていたらいきなり頭頂部に存在感の強い羽根を刺され、しかも抜けないのだ。
魔術ノートが立体化した少女の姿はかわいいけれど、半透明なだけに黙っていれば薄くて儚い感じがする。その分、しっかりしたピンク色の羽根がかなり目立つのだ。
「……」
「ユイミーちゃんさまあ、笑わないでくださいーっ!」
ぱっと視線を向けると、ついつい羽根の方を見てしまう。そして魔術ノートが普通の顔をしているのに大物がかかった釣り竿みたいな感じで羽根がグイグイ動いているから余計に面白いのである。
思わず視線を逸らすと、魔術ノートが胸から上くらいまで体を出現させて私の視界を覆ってきた。
「ちょ、待って。こっちこないで」
「………………」
「わかったから、ごめんって、むせるから」
ムスッとした顔に激しく動く羽根。
私が笑えば笑うほど、魔術ノートとピンクの羽根はグイグイ視界に入って主張してきた。
「じゃあ、買い物行ってくるね」
「…………」
「わかったから、帰ってきたらテキストやるから」
私が取り繕うと、口をへの字にしてじっと見上げてきていた魔術ノートがこっくりと頷いた。魔術ノートが下を向いたせいでばいんばいんと暴れている羽根がこっちによく見えるようになって、笑いを堪えつつ玄関を出る。
「はー、お腹痛い」
「ゲヒッ」
息を吐きながらそう言うと、バッグの中に入れた大学ノートから相槌が返ってきた。今日は大学ノートと、テピちゃんが3匹がお供である。
バッグの中を覗くと静かに見上げてくるテピちゃんたちをムニムニしてからスーパーの方へ歩き始める。買うものを頭の中で思い返しつつお店の前に着くと、見知った姿があった。




