魔術実践基本のキ6
「そう! もっと強く! 打撃の瞬間に力込めて!! 打ったら素早く引いて元の構えに!いいよいいよー才能あるよー!」
「あのさあ」
ノリノリで教えてくれている最中に水をさすのは申し訳なく思わなくもない気がしたけれど、私は思わず練習を中断させてしまった。
「どうしたのユイミーちゃん疲れた? でも最低3セットは練習した方がいいと思うよー。目標1日200回!」
「そうじゃなくて。これ、関係なくない? 魔術」
魔術のプロフェッショナルが教えてくれた戦闘は、どう考えても格闘術だった。
というか正拳突きだった。
基礎的な魔術のテキストさえ数ページしか進んでない私でさえわかる。これ魔術全然関係ない。
「あるよー! ホラ全ての道は魔術に通ずっていうでしょ」
「聞いたことないです」
「徒手空拳は戦闘の基礎だからね。全てを手放して最後に残るのは己の肉体のみだから」
「いや魔術は?」
おそらく100年単位で魔道士やっているサフィさんが脳筋みたいなことを言っていると違和感がすごい。
「ぶっちゃけて言うと魔術攻撃は詠唱主義だから相手に当たるまでが遅いんだよね。だからもし魔術系の攻撃をする相手だった場合、先に殴った方がいいよ」
「身も蓋もないですね……」
「俺くらいになると殴るより早く魔術出せるけどねー、迷宮のかなり奥にならないとそういうのはいないから。特に相手が人型だった場合、相手が呪文唱え始めたら走って殴るのが一番手っ取り早いよー。特に学校通った系の魔道士はそういうの慣れてないから一瞬で戦意喪失するし」
学校で習わないタイプの知識である。これから攻撃を繰り出そうとしているのにいきなり殴られたらそりゃ戦意も消え失せるだろう。何度もやられたら魔道士辞めようと思うかもしれない。
魔術戦闘とは。
「……魔術攻撃って意味あるんですか?」
「あるある。防御素早く展開したら使い放題だし。防御魔術使えなくても、例えば崖の上とか、相手が近寄れない距離ならかなり有利だからね。だから魔道士はコソコソ仕掛けてくることが多いんだよー」
殴られずに行使できれば、魔術攻撃は強力だったり、多人数を一斉に攻撃できたりして有利に戦えるようだ。逆にいうと、相手を殴ることさえできたら、魔術を使えなくても敵の危険な攻撃を簡単に防ぐことができるというわけである。
なんか魔術って、思ってたよりも汗くさいな。
「あのー、迷宮のお客様って結構ヒトとはかけ離れたタイプが多いんですけど、そういう相手だったらどうすれば?」
「奥に近いエリアじゃなければ、見た目が明らかに危ないヤツ以外は殴ったらいいと思う」
「えっまた殴るの? 魔術は……?」
「いらないいらない〜ってか今から覚えるとか無理でしょ!」
「そ、そうですけど……じゃ、じゃあ相手が殴ってきそうな感じだったら?」
「棒で殴る」
「棒で……」
マジカルっぽい練習を想像していたのに、ただただバイオレンスである。
私がドン引きしていると、サフィさんはキラキラと笑いかけてきた。
「関係ないように見えるけど、こういう練習もまわりまわって魔術上達に繋がってるからねー。体力筋力はありすぎても困るもんじゃないし。あとは精神修養とか殺気の高め方とか」
「高めたくないんですけど」
「魔女なら命の危険に晒されたらほぼ確実にやばいタイプの無詠唱攻撃出ると思うけど、流石にいきなりそれは嫌だろうしねえ」
「いきなりじゃなくてもいやですね……」
迷宮で何が待ち受けてるんだろう。
私の脳内では、今まで想像していた『シノちゃんとサフィさんが余裕で魔術攻撃的なものを繰り出して進む準備万全な探索』が崩れ去り、『徒手空拳と釘バットで特攻する異種トリオ』がじわじわと浮かんできていた。
「ほらユイミーちゃん! もう一回やってみよー!」
「……」
不安だ。色んな意味で。




