魔術実践基本のキ4
「ハイハイハーイ俺も行くー!」
「だから立候補制じゃないって言ってるでしょ!」
「えっ急にキレてどうしたのユイミーちゃん」
夜、思わず反射的にそういうと、サフィさんは片手を挙げたままキョトンとしていた。
日中はシノちゃんが「ハヤク行コ〜」と囁いてくるし、バイトが始まったら始まったでテピちゃんたちやヒナたちがやたらとアピールしてきたのである。
テピちゃんたちは一生懸命に籾摺りしたオレンジ色の玄米を見せて有能アピールをしていたけれど、それは半分くらいはサフィさんの掛けた魔術のおかげではないだろうか。テピちゃんたちも頑張ってはいるけども。
事情を話すと、サフィさんはカレーを食べながらアハハと笑っていた。
「へー、ヒナも行きたいんだ。死の鳥いるとはいえ襲撃リスク上がると思うなー」
「ですよね」
「ピイィッ!」
ケージを抜け出したピーちゃんが機敏にカウンターまで駆け上がり、サフィさんの腕目掛けてけりけりけりっと足技を繰り出してきた。素早い動きだったけれど、攻撃力としてはイマイチなようだ。腕を蹴られているサフィさんは気にせずにカレーを食べている。
「俺連れてくと安心だよー? この辺でも魔術で敵わない相手とかそういないレベルだし。あちこちで暮らしてたから野宿の仕方とかも詳しいし。食糧とかは基本だけど、人間の装備って意外と色々必要だし。死の鳥はテントとか寝床とかいらないだろうけどさ」
「え、日帰りとか無理っぽいですか?」
「ん〜場所によるかな。かなり浅い場所だと、常駐してる魔道士が送り届けてくれるけど、描かれてる魔術陣のとこまでいかないといけないし、金かかるよ。ある程度進むとそういう商売そのものがないから、魔道士雇って連れてくか自力で魔術陣描いて移動することになるかな」
「へー、サフィさんもそういう仕事やったことあります?」
「むかーしむかーしの初心者時代はねー。今もできるけどこの辺じゃ誰も頼まないなー」
魔術陣を描いて移動する技術は、上の下レベルの魔術らしい。この辺でやっていけるような人間であればそれくらいの魔術は使えるし、そうでない人はこのエリアには来ないそうだ。わざわざこのエリアに来てサフィさんに転移を頼むのは、身の危険度に割りに合わないものらしい。あとサフィさんは依頼料も高いのでお財布の危険度的にももうちょっとランクが低い魔導士に頼むようだ。
「うーん、シノちゃんが探しに行ってくれてるけど、お金で払って帰れるくらいのエリアだといいなぁ……」
「転移所は便利っちゃ便利だけどボッタクリ多いよ〜。相手見て値段変えたりするし、周囲の職斡旋人とグルだったりしてねー」
「へえ、結構悪どいですね」
「俺連れてったらそういうボッタクリ締め上げられるよー。買い物するにも相場わかるし」
「えー、でもお高いんでしょう?」
通販のノリで訊いてみると、サフィさんはキラキラ笑顔になった。
「ニンニク一箱分でどう?」
「ニンニク換算なんだ……」
「ニンニクの醤油漬けまた作って! あと油漬けとか酒に漬けたやつとかどう? 絶対美味しいよね?」
「相変わらず熱意がすごい」
ニンニクのたくさん入ったカレーを食べながら、そんなにうっとりとニンニクの想像をしないでほしい。ニンニクの話でそんなにキラキラを振りまく吸血鬼はこの人くらいだろう。そうであってほしい。
とはいえ、冷静に考えてみれば結構お得ではないだろうか。
ニンニクは大きな高級品でも数万円。普段は金貨で雇われているようなサフィさんからすると、かなりのサービス価格だ。
サフィさんのニンニク好きは今に始まったことではないし、現在進行形で食事代をもらいつつニンニク料理を量産しているので手間もそう変わらない。いつもの通販でひと箱プラスして頼み、ニンニクを漬けるだけでレベルの高い魔道士に付いてきてもらえるのだとしたら、魔術と迷宮両方の初心者としては心強い。
「じゃあ、行くときはお願いしてもいいですか?」
「いいよー!! ニンニク楽しみにしてるね!!」
「ピー!」
いい笑顔で快諾してくれたサフィさんに、ピーちゃんが抗議する。バッと飛んだピーちゃんは、その勢いで私のエプロンのポケットにすっぽり入り込んだ。そっと顔だけ出して私を見上げる。
「ピィ……?」
「いや、かわいいのはかわいいけども」
色仕掛けならぬかわいい仕掛けで陥落させようとするのはやめてほしい。




