魔術実践基本のキ3
丸っこいテピちゃんたちがローテーブルによじ登り、ビシッと手を挙げながら私を見上げている。
「え、もしかしてテピちゃんたちも行きたいの?」
「テピッ」
「危なくない? お留守番してた方がいいと思うよ」
「テーピッ!」
プルプルと首というか体全体を横に震わせたテピちゃんたちも、どうやらついてくる気のようだ。テピちゃんたちも迷宮の住人ではあるけれど、どうなんだろう。お店に来るお客様ですらビビって隠れているし、最近はもはやうちの住民と化しているし。
「テピッテピテピーッ!」
「テピーテピ!」
シュシュシュと手を動かしたり、比較的キリッとした顔でてぴてぴと走り回ったりしている。やる気を身体表現しているらしいけれど、手は短くてちっちゃいせいでピコピコ振っているようにしか見えないし、動きもなんかかわいいくらいの印象しか伝わってこなかった。
「……ちょっとここに攻撃してもらっていい?」
「テピー?」
「テピィ」
手のひらを見せながら私が言うと、テピちゃんたちは近くに集まってきたもののためらった様子を見せていた。遠慮しているらしいので「そこそこの本気でいいから」と付け加えると、譲り合うような視線の後に集団の中から1匹のテピちゃんが出てくる。
「……テピッ!」
ムニ。
両手を挙げて私の手のひらに突っ込んできたテピちゃんは、両手を上げる前に顔から衝突した。ちょうど投げられたマシュマロを手でキャッチしたくらいのダメージが私の手のひらに伝わった。
「テピテピテピー!」
緩く握った手の中でなんかムニムニしている。持ち上げて覗くと、ぎゅーっと目を瞑ったテピちゃんが両手を一生懸命に動かしていた。
「……まあ、ある意味、相手の敵意を減らす効果がないこともないというか」
30秒ほどの猛攻撃ののち疲れたのか大人しくなったテピちゃんを、ムニムニと揉みながら何とか攻撃について評価をした。
揉み心地はとてもいいので、精神安定にも使えるかもしれない。
「テピー!」
テピちゃんたちにとっては不本意な評価だったらしく。集団で私に文句を言ったり話し合ったりしている。
てぴてぴと動き回る集団をチラ見した魔術ノートは「で、ユイミーちゃんさま。早速特訓しますか?」とテピちゃんたちをスルーしようとして抗議されていた。
「テーピ! テピ!」
「テピテピ……テピー!」
何やら頷きあったテピちゃんたちの中からもう1匹進み出て、両手をぐっと上に掲げ、それからぎゅっと目を瞑って「てっ」と振り下ろした。
テピちゃんの手の先から、小さな灰色の綿毛のようなものがふんわりと飛ぶ。
「あ、その攻撃があったか……あ」
ふよふよと浮きながら移動していた灰色のものは、黒くて大きなクチバシのあくびに吸い込まれ、閉じると同時にパチッと潰された。
前にテピちゃんたちがこれで攻撃したときは、灰色綿毛に触れた女の子たちが軽い頭痛に襲われていた。しかしシノちゃんは特に反応するでもなく、わさわさと足で首の後ろを掻いてから翼の手入れを始めていた。「ネ〜オヤツ食ベル?」と首を傾げる姿は、灰色綿毛を吸い込んだことすら気付いていなさそうである。
「……テピ……」
「……まあ、シノちゃんは強いから……」
「モ〜ソンナニ褒メテモ何モ出ナイワヨッ!」
右手でプェッと鳴くシノちゃんを撫で、左手で呆然としているテピちゃんたちを慰める。
死の鳥のシノちゃんと比べたらこの部屋にいる全員が同じくらいの雑魚なので、あんまり落ち込まないでほしい。
「まあ、テピちゃんたちはヒナたちのお守りをしてもらいつつお留守番ということで」
「ピッ?」
高音の鳴き声に振り向くと、ヒナたちが3羽ともバッグの中に入っていた。
いつも使っている通学用の移動カバンではない。ヒナたちが入ったことのない、出かけるとき用のショルダーバッグである。
「……もしかしてピーちゃんたちも付いてくる気なの?」
「ピーピッ」
むんとポワポワな胸を張った3羽は、こう見てみるとそこそこ大きくなった。とはいえ手のひらサイズである。
「いや……ピーちゃんたちはまだ雛だし、狙われたりしても困るから流石に」
まだ真っ白でポワポワした羽毛に包まれているけれど、ピーちゃんたちは財宝鳥である。大人になると文字通り金銀の羽根を纏う、歩く財宝になるわけで。セキュリティ抜群のお店にいてさえ、一時期はヒナたちを狙おうとするお客様がひっきりなしだった。
迷宮に入るならより無防備になるし、襲われたら私もかばいきれない。
ていうかすぐ行くわけじゃないからバッグに入られても。
そういう気持ちでヒナたちを宥めようとすると、ピーちゃんが機敏な動きでぴょんと飛び出て私の手の上に着地した。うるんだ丸い目で私をじっと見上げる。
「ピィ……?」
「……いや、かわいいけどもそういう問題じゃ」
「ブリッコシテンジャネーヨ素揚ゲニシテ抹茶塩デ喰ッテヤロウカッ!!」
「ピッ」
「テメゴラァ!!」
カーッとシノちゃんが威嚇して鳥たちの追いかけっこが始まった。朝からドタドタ喧しい鳥たちを静かにさせるのは大変である。シノちゃんを小脇に抱え、ヒナたちをケージの中に閉じ込めて息を整えていると、ふわふわ浮かぶ存在と感覚的に目が合った。
「……ニンニクはお留守番しててくれるかな」
マイ布巾を持ったニンニクは、フヨフヨと空気中を泳ぎながらも白いヒゲ根でマルを作ってくれた。
貰い物の食材だし最初はクモっぽくて気持ち悪いと思っていたニンニクだけれど、最近はその姿に癒されている自分がいる。話のわかる相手がひとりでもいてくれてよかった。
「特訓! 特訓!」
「コイツラゼッテェ唐揚ゲニスルッ」
「ピー!」
「テピッテピテピー!」
魔術ノートは冷蔵庫へシノちゃんは逆さまにしてベッドへヒナたちのケージには布をかけテピちゃんたちも揉みまくってからケージの中へ。
「えーと、とりあえず、まだ先のことだから。あと立候補制じゃないから」
ようやく静かになった部屋で、私は大学に行く準備を急ぐことにした。




