魔術実践基本のキ2
「ユイミーちゃんさまはまだ魔術の勉強を始めたばかり、基本的に知っておくべき事柄も十分習得したとはいえない状態ですが、実践しながら学習することでより理解を深めながら魔術を覚えていくことができるでしょう! むしろユイミーちゃんさまの高いポテンシャルをより効率的に引き出し、魔女としての魔術行使を体得するにはその必要がある環境に身を置くことは魔女協会でも推奨されています! ユイミーちゃんさまの強い人脈とこの魔術ノートがあれば十分に」
「ウルセー」
ハフハフと早口でまくし立てていた魔術ノートの半透明な口を、シノちゃんが頭突きで塞いだ。もっさりした羽根が口にはまり込んだ魔術ノートは、視線で私に助けを求めてくる。
鳥の頭が口に入り込みそうなのは大変そうだけれど、シノちゃんの意見には賛成だったので助けるべきかはちょっと迷った。そもそも半透明だし元はノートなので、シノちゃんの頭の感覚が伝わってるのか謎だ。
「シノちゃん最後のソーセージ 食べる?」
「ユイミーちゃんト半分コスル〜」
とりあえず食べ物で釣ってみると、シノちゃんはグリグリと生首の口に頭を押し付けるのをやめた。魔術ノートは口をゆっくり閉じながら「はうぅ……」と何とも言えない顔をしている。
私はシノちゃんと分けたソーセージ の半分をフォークで刺して、からしマヨを付けて齧った。辛味がソーセージ と合って美味しい。
「よく考えたら私が覚えた魔術って手を洗うことと小さいものを清めることだけだよね。ユウがいるらしいエリアどころか、迷宮の浅い場所でも苦戦するんじゃないかな」
「そんなことありませんっユイミーちゃんさまはフガッ」
「静カニシナイト巣材ニルスゾッ!!」
「ひえぇ」
シノちゃんはバッと翼を広げて魔術ノートを威嚇してから、最後のソーセージを持って食べ始める。
「ン〜ユイミーちゃんハ魔女ッ子ダカラネ〜1週間クライ準備シテイケバイケルヨ〜」
「魔女っ子って。しかもたった1週間くらいでそんなに変わるとは思えないんだけど」
「ヤレバデキルッ!!」
クワッとクチバシを開いたシノちゃんの後ろで、口をギュッと閉じた魔術ノートもコクコクと頷いていた。
「ほんとかなあ」
「実際ネ〜弱イエリアハ割ト装備デ何トカナルダカラ〜ユイミーちゃんハ基本ノ特訓シタラオッケーダヨネ〜」
「特訓……」
黙っている半透明生首の目がうっとりするように細められながら輝いている。黙ってても騒がしく感じるのは気のせいだろうか。
「じゃあまあ特訓はやるとして、装備はどうしたらいいの? お店で買える?」
「ユイミーちゃんニハシノチャンガイルデショッ!!」
「うわソーセージ飛ばさないで」
カァーとクチバシを開けたシノちゃんがダカダカとローテーブルを走って私の腕に乗り、グリグリと力強くすり寄ってきた。トサカを腕に擦り付けているのは別に気にならないけれど、しっかり私の手首を掴んでいるシノちゃんの足は片方がソーセージの油まみれである。ティッシュで拭こうとすると、ちゃっかりクチバシを差し出してきた。
「あ、シノちゃんも来てくれるんだ? 確かに最強の装備だけど」
「シノチャンハカワイイカラ〜ソノ辺ノ雑魚ハ近付ケナインダヨネ〜」
「かわいいからっていうか、まあ、死の鳥だしね……」
「カワイイカラデショッ!!!」
生物が生きていけないほどの毒の森で平然と暮らすタイプの鳥である。しかも本鳥の戦闘力も高いのだから、知ってたら普通は近付かないだろう。
どんな魔術を覚えるよりも、どんな高い甲冑を着るよりも、シノちゃんがいてくれた方が何倍も攻撃力も防御力も上がりそうだ。一緒に来てくれるなら心強い。
迷宮はお店の外へは一歩も行ったことがないので、そういう意味でも地元民的なシノちゃんがいてくれるのはありがたい。
「ありがとうシノちゃん、よろしくね」
「テピッ!」
「テピーッ!!」
シノちゃんを撫でていると、ちっちゃい手を挙げたのはテピちゃんたちである。
つぶらな目を精一杯キリッとさせている姿はマシュマロサイズの白いおばけが頑張って人を脅かそうとしているように見えるけれど、決意に満ちているようにも見えなくはない。




