はじめての魔術30
「ふー、ただいま」
「オカエリィ〜、ゴハンニスル? オ風呂ニスル? ソ・レ・ト・モ、シノチャンニスル〜?」
バイト勤務を終えて戻ってくると、ローテーブルの上でオウムがくねくねしていた。
ヒナたちとピーちゃんを床に下ろし、ニンニクが付いてきたのを確認してからドアを閉めて、くねくねオウムに向き直る。
「え、シノちゃんがやってくれるの?」
「ユイミーちゃんガ作ルンダヨッ!! シノチャンノゴハン忘レテタデショー!!」
私にやらせるつもりだったようだ。
キエエと頭を振り回すシノちゃんをワシワシ撫でつつ首を傾げる。
「晩ごはん置きに来たでしょ? ステーキとブロッコリーとごはん食べなかったの?」
「アレハ昼メシッ!! シノチャンノ夜ハコレカラナノッ!!」
「ええ……」
魔術ノートを冷蔵庫に入れに一瞬戻ってきたとき、シノちゃんが部屋でのんびりしていたので、夕食はシノちゃんの分も作って部屋まで運んだのだ。しっかり平らげて空になったお皿を前に、シノちゃんはまだ食べ足りないらしい。
「じゃあ何か温めるけど、あっさりしたのでいい?」
「ガッツリ! シッカリ! オ腹ニ溜マルヤツッ!!」
「夜にそんな沢山食べたらフォアグラになるよ」
「太ルノハ食ベル時間帯ジャナクテ総カロリーノ問題ダヨネユイミーちゃん情報古イヨネ〜アトシノチャンハ昨日トッテモ頑張ッタカラ全然平気ダモンネ〜!!!」
プェッとドヤ顔でゆらゆらしているシノちゃんが絶妙にイラっとくる動きだったので、クチバシを閉じてから持ち上げ、ベッドに仰向けに置いてから夜食の準備をすることにした。
冷凍餃子2つに、インスタントのスープ春雨も付ける。餃子をお箸で一口大に切ってあげると、仰向けでジッとしていたシノちゃんはいそいそと食べにきた。
「ネータレハ酢ニ胡椒入レタヤツニシテ〜」
「醤油入れないの? 胡椒ってなんかマニアックだね」
「流行リダヨ〜結構イケルヨ〜」
結構いけると知っているってことは、どこかで餃子を食べたこともあるようだ。そのうち居酒屋で捕獲されてテレビに出されるんじゃないだろうか。
通好みのタレで餃子を食べ、小皿で冷ました春雨もつまむ。割とガツガツ食べているので、お腹空いていたことは事実のようだ。いつもは勝手に出掛けていたりするのにずっとうちにいたのも、頑張って疲れていたせいだろうか。
「……ねえシノちゃん」
「シノチャンノ餃子狙ワナイデッ!!」
「狙ってないから。あのさ、昨日シノちゃんが戦った相手って、その、山田さんだったりする?」
「ハー?!」
ブワッと体を膨らませたシノちゃんは、ポロッと餃子の皮を落とした。
「コノ強クテカワイイシノチャンガ人間ナンテクソ雑魚ミジンコニ苦戦スルハズナイデショッ!! シノチャンノコト舐メテンノッ!!」
「ごめんごめん怒らないで。ほら餃子食べて」
お箸で切った餃子を持ち上げると、キレていたシノちゃんは一瞬で大人しくなってモグモグし始める。
「じゃあ、昨日戦ったのは山田さんじゃないんだ」
「アンナミジンコ人間、シノチャンノデコピン1発ダヨッ!」
「シノちゃんデコピンできるの?」
シノちゃんが戦った相手は、山田さんじゃなかったようだ。
ついでに、山田さんはやっぱり人間のようだ。怒っているシノちゃんには申し訳ないけれど、私はかなりホッとした。カーとクチバシを開けているシノちゃんのために空になった小皿に春雨のおかわりを入れてあげる。
怪しいと評されていた山田さんが普通の人間らしいというのもホッとしたし、シノちゃんと戦ったせいで具合が悪かったわけでもなかったのも安心した。山田さんは本当にただ具合が悪かっただけなのだろう。変に疑ってしまったのがちょっと申し訳ない。
「シノチャンガブッ潰シタノハネ〜、ナンカ壁ッポイヤツダヨネ」
「壁っぽい? 妖怪のぬりかべみたいな?」
「ン〜日本ノヤツジャナイネ〜。ナンカ次元塞イデタンダヨネ〜?」
「……次元塞いでたヤツって倒したらダメなんじゃ」
「塞イデタッテイウカ〜、繋イデタッテイウカ〜。ドッチモミタイナ?」
「全然わからないんだけど。それ逆のことじゃない?」
地球と異世界を繋ぐ怪しげな回路を増やしてしまったのでは、と心配していると、ソウジャナイッとシノちゃんはまた怒った。一応スジャークさんに怒られる系のことではないようだ。どういう相手だったのかは全然わからないけど、とりあえずスジャークさんに連帯責任で圧を掛けられたりする状況じゃなさそうだ。もしそんなことをしてたらすぐに飛んできてそうだし、今こうして平和に過ごせてるということは大丈夫なのだろう。
「まあ、無事でよかったね。シノちゃん強いもんね」
「モット褒メテ〜」
頭を近付けてきたので、わしわしと撫でておく。
シノちゃんがご飯を完食したので片付けて、寝る準備をしてベッドに入る。電気を消すと、しばらくしてから隣で寝転んでいるシノちゃんがゴソゴソした。
「ユイミーちゃんアノネ〜」
「何?」
「ノート冷蔵庫ニ入レッパナシダヨ〜」
「あ、忘れてた」
シノちゃんの夜食を作るときに冷凍庫しか開けなかったせいで気付かなかった。
暗い部屋で目を開けたものの、起きるのが面倒なので明日取り出すことにする。
「アトネ〜」
「まだ何かあったっけ」
「ユイミーちゃんノ探シテル人間見ツケタカモ〜」
目を閉じながらシノちゃんの言葉を聞いて、一拍おいて私はまた目を開けた。
「えっ、ユウのこと?! いやそれ早く言ってよ!! なんでこのタイミング?!」
「オヤスミ〜」
「ちょっと寝ないでよ!」
一旦電気をつけて揺さぶってみたものの、シノちゃんはぐーすか寝ていて全然起きなかった。仕方ないので諦めて、せっかく起きたのでついでに魔術ノートを冷蔵庫から取り出すと、ビニールの内側に出てきた半透明少女が恨みがましそうな目で私を見上げた。




