はじめての魔術27
「あー……。野々木さん……」
「大丈夫ですか?」
体格がよく姿勢も真っ直ぐで健康的なイメージのある山田さんが、背を丸めてベンチに横になり、顔も青くしている。
本格的に具合が悪そうな様子に、私は思わず近付いた。
「なんかすごく具合悪そうですけど」
「いや……ちょっと、昨日急に色々あったというか」
フラフラなのに起き上がろうとするので、慌てて止める。目を瞑って息を吐いている様子を見ていると、本当に辛そうだ。咳をしていないし鼻声でもないけれど、熱が出るタイプの風邪だろうか。
「保健センター行ったほうがいいんじゃないですか? 肩貸すので立てますか?」
「や、それはちょっと。もうちょっと休んだらマシになるはず……えーと、薬飲んだから」
「辛そうなので、今日はもう帰った方がいいと思いますよ」
「そうする……足止めして悪い、1限始まるから行って」
山田さんはものすごく具合が悪そうに見えるのに、誰かに連絡しようかと聞いても大丈夫だからの一点張りだった。私がここで粘っても休めないかと思い、ちょっと考えてから立ち上がって付箋を取り出す。
「あの、電話番号置いておくので、もし動けないとかあったら連絡してください」
「……わざわざ悪い……」
「私に連絡するのが嫌だったら、学科の人とか……何かあったら心配なので早めに」
「そうする」
付箋を受け取ったまま目を瞑って動かなくなった山田さんを気にしながらも、講義に出ることにした。
時間がギリギリになってしまったので、急いで講義室に滑り込む。ノートを取り出すと同時に教授がマイクをオンにした。
本人は大丈夫だと言っていたけれど、本当に大丈夫だろうか。
今日の気温はそれほど低くないけれど、風がないわけじゃない。屋外の固いベンチで横になって休んでも余計に具合が悪くなるだけな気がする。せめて図書館とか屋内で休んだほうがいいけれど、歩くのも限界なのかもしれない。それならもう帰ったほうがいい気がするけれど、体格が大きいだけに誰かの手を借りるのも大変そうだ。
眠そうだったシノちゃんといい山田さんといい、しっかり休んでほしい。
「……ん?」
ふと考える。
シノちゃんは昨日、超頑張って、黒くてベトベトになるまで何かと戦った。
山田さんは昨日、急に色々あって、具合が悪くなったらしい。
シノちゃんは山田さんのことを「怪しい」と言っていた。
「……」
いやいや、偶然……というか、無関係だよね。
シノちゃんはあちこちで変な存在をやっつけたりぶっ潰したりしているけれど、山田さんは変な雰囲気もないし、普通の人間だ。それに、シノちゃんは相手が超でかかったと言っていたし、内側からぶちのめしたらしい。山田さんは人間としては身長が高いけれど、超でかいというほどではない、と思う。
……そういえばシノちゃん、ぶちのめしたとは言ってたけど、相手が死んだとは言ってない……けど、それも関係ない、よね。私が変に結び付けてしまってるだけで。
「……」
板書が進んでいるのをゲヒゲヒがそっと教えてくれるまで、私は浮かんだ疑念を払拭することに没頭してしまっていた。




